小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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 俺は悪魔の翼らしきもので有名ケーキ店の路地裏に数分でたどり着いた。昼だけどまだまだお客さんが少なくて助かったと思いながらブラウニーを購入する。
「これください」
「は……はい」
 俺はこの翼が隠せるか試したけど無理だったので意を決して購入することにしたんだ、店員さん怖がらせてしまってごめんなさい。俺にはどうすることもできなかったんです。

「……しかしまあ何者なんだ近井さん……俺はこんな格好で、こんな調子でパシらされんのかな……」
 俺はケーキを落とさないように両手でしっかりと押さえていた。学校が遠くから見える位置まで飛んできた時、近井さんが吹いていると思われる笛の音が聞こえてくる(どうやらこの笛は犬笛みたいに聞こえる種族が限られている音だと何となくわかった)
「おっ、音にひっぱられるうぅぅぅ〜〜〜〜〜!?」
 
 教室の壁を破壊して帰って来させられた俺はお嬢様に理不尽な怒りを受ける。
「呼んだらすぐ来る! 五分も待たせて!」
「人使い荒っっっ!!」
 俺は壁破壊の一撃で身体の自由がなくなりつつあったが、お嬢様に何されるかわからないのでケーキは足でどうにかバランスを保たせていた。

 太山が一人暮らしをしているアパート、「うおおおおおおおおおお」と叫んでいるのは太山である。 寝る頃になって全身がもの凄く痛くなったのでろくに睡眠も取れていない。
「筋肉痛ぐわああぁ〜、体がイテェェェェェェェ〜…………だが!」
 こんな状況でも太山は布団から出たが、料理を作れそうになかったので牛乳とバナナで朝食を済ませた。
「無遅刻無欠席を誇る俺! 這ってでも学校に行ってやるぞ!」
 玄関のドアを開けるだけで息切れしている俺に一日くらい休めばと思う人もいるかもしれない。でも俺は学校が楽しいのだ。
 玄関のドアを同じようなタイミングでお隣さんが開けた。そういえば昨日誰かが引っ越してきたなと思って、俺はいい機会だとご挨拶しようとする。失礼のないようにと声をかけようとした俺はお隣さんが近井さ
ん=お嬢様だったので開いた口がふさがらない。

 俺は一瞬痛みを忘れるくらい全身から冷や汗が吹き出す。
「あ……あれ? 何でこのボロアパートに近井さんが……?お嬢様じゃないの……?」
 本当にたまたま会ったかのように近井さんが微笑みかけてくる。 でもきっと打算的な行動なんだろうなと彼女が犬笛のようなものを準備したので俺は悟った。

「まあ! じい! 偶然ね!! 学校まで乗せてってくださる?」
 彼女が笛を吹くと、俺が拒絶したい思いはあっても叶うわけなく俺の身体を酷使する悪魔の羽らしきものが生えるだなんて(今でも認めたくない)
「ぎょええ〜〜〜〜体があああああ」
 謎なお嬢様に振り回される俺の不幸は学校でも家でも続くらしい……頑張れ俺!
 
 

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