小説『数ページ 読みきりもの』
作者:下宮 夜新()

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             『魔法元少女クリン』

 あの日のことは昨日のようによく覚えている。栗魅玖林十才の時のある日、まるでアニメに出ていたマスコットが私の部屋の窓の外に浮いているのを発見した。アニメでは魔法の杖をもらって魔法少女になるんだよねとかメルヘンなことを考えていたら実際に現実の事になるなんて思っていなかった。 あまりに現実離れしていたけど、突如現れた宇宙ウサギ(?)っぽい星霊ルタインから、魔法の杖モーゼダーインを受け取ったあの日から私の戦いの日日は始まった。

 ……それは長い長い戦いの日日だった。星霊ルタインに魔法の使い方・操り方を学んで夜の街で毎日のように触手の多い謎生物や一つ目の謎生物と戦い続けていた……そして――――――戦いが終わらないと思っていたらあの日から二十年の月日が流れた今になっても――――
「シュタド・ナーク」
 杖から電撃のようなものが放たれ、謎生物が消し飛んだ。
「……ふう……浄化完了……」
 
 栗林玖林、三十歳になった今も……戦いはまだ続いていた……。
…………「私、いつまでこんなことをやらなきゃいえないんだろ」
 十代の頃と違ってもう疲れが出てきている(心身ともに)疲れの原因はメルヘンな服が似合わないということも一因ではあるが、いつ終わるともしれない戦いに精神が滅入っていることが大きい。

 私の仕事は夜霊(ミッドナイトゴースト)と呼ばれる悪霊を浄化することだ。こいつを無視するとこの街が事件・事故・病気などが蔓延する呪われた街になると説明を受けていたので、毎日のように倒しているのである(十代のある日、体調を崩して一日休むしかなくなった時に、カオスな状況になりかけているのを目撃した過去あり)

「ねえルタイン、この戦いはいつになったら終わるのかしら?」
 玖林は不安になると星霊ルタインに同じような質問をしてしまう。たとえ答えが代わり映えしないとしても。その理由はというと――
「……そうですねぇ、いいお天気ですねぇ」
 体が震えてしまう病気持ちの状態になった星霊ルタインはこの二十年のうちに少しボケが入ってすっかり老衰してしまっていた。
「ご飯はまだでしょうか?」
 星霊(星の精霊)なのにそんな馬鹿なと私も思ったが、これが現実なのでやるせなくなった。

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