小説『赤い渚に浮かぶ月』
作者:UMA.m(UMA.mのブログ)

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 第9話 紋章 



「できたー完成ー! どうどうどう? いいカンジになったでしょ!」
 ふんだんに編み込みを入れて丁寧に結い上げられた髪は、イリィが今までに見たことがないほど−−−自分自身は当然として、街の少女や歌劇の女優にだって負けないくらいの−−−豪華な仕上がりになっていた。
 アシェルは手先が器用な上に、手自体も小さいので、細かい作業も抜かりが無い。
「うん、ボクって髪結いで商売しても食べて行けるかも。お人形さん遊びの成果が、こーんなトコで役に立つとはねー」
 などと満足げに何度も頷いているアシェルだが、その小さい体ゆえに、結われる側のイリィもじっとしているだけとはいかず、『ここしっかり押さえてて』とか『ここ途中だからそのまま持ってて』などというアシェルの命令一下、バッチリ協力させられた。お陰で万歳状態だった腕がだるい。
 鏡の中の芸術作品は、そんな二人の努力の結晶である。
「ねえ、感想は?」
「・・・・・・すごい、お姫様みたい・・・・・・髪の毛だけは」
「何言ってんの! イリィが可愛いから似合うんだって・・・・・・」
 と、いくら自分が言ったところで納得しないんだろうなーと、アシェルは少し苦笑する。
「・・・そう言えばさ、イリーナって、おとぎ話のお姫様の名前だったよね」
「え? それ、知らない・・・・・そうなの?」
「うん。寒い国のお姫様! 赤い大きなお花が見たいってお願いするの。雪と氷で出来たお花じゃなくて、本物のお花」
「・・・・・・」
「そだ、折角だし、お姫様みたいにもっと飾ろう! いい物があるしね! 手伝って、イリィ!」
 いいことを思いついたとばかり顔を輝かせたアシェルは、イリィの手を引っ張って、舞台の反対側へ。つまり昨日カリムが装飾品を放り出したところまで行く。
「うん、この辺り!」
「・・・・・・埋まっちゃってる」
 昨日は確か、砂の上に落としただけだったのに。あの後で、上から砂を被せて隠しでもしたのだろうか。何も知らなければ、さらさらした砂山の一つに、埋まっている物があるとは思わなかっただろう。
「だーいじょーぶ!」
 言うやアシェルは、まるでそこに何があるのか見えているのではと思うほど正確に、砂の中から幅広のベルトを掴み出し、ポイと脇に投げ捨てた。
 その何気ない仕草のわりには、どさりと重量感のある音が響く。
 気になったイリィが傍によって触ってみると、表面全体に綺麗な打ち出し模様を施されたベルトは、分厚い皮を重ねた丈夫な造りになっていて、その分しっかりとした重量がある。
 それにもかかわらず、裏面にまで達するほどの無残な切り裂き傷が数条走り、その内の一つはもう少しでベルトを上下に両断する寸前だった。
 ぞくりと、イリィの背筋に冷たいものが走る。
「そんなのどーでもいーから、こっちこっち!」
 その間にアシェルは、小さな身体には一抱えもあるような金属製の籠手をどかし、別の何かを掘り出しにかかっていた。
「そっちと、あっちと、そこ・・・・・・探してみてよ」
 アシェルは適当に、イリィの近くの砂地を指したようにしか見えない。だが言われた通りに手探りすると、確かにコロリと硬いものが指先に触れる。
 拾い上げてみると、それは銀色の指輪だった。
 金属製で少し角ばったフォルムなのに、あまり無骨に見えないのは、指輪全体に施された精緻な彫り込み模様のせいだ。
 中央部分の模様は、何かの紋章のようだ。
 羽根の一枚一枚まで細かく刻み込まれた3対の翼。中央には炎のような三叉の矛。翼と矛が交わる中心に、交差する二つの三日月。
 そう言えば、その紋章は、ベルトにも籠手にも同様に刻まれている。
(これに似たの、どこかで見たことがあるかも・・・?)
 多分それは、これほど優美でも精緻でもなかったと思うのだが、何か、とてもポピュラーなものだったような・・・・・・。
「あ、あった!」
 その嬉々とした声に、思い出そうとするイリィの思考は中断された。
 ほら、とアシェルがイリィにかざして見せたのは、銀色の髪留めだ。
 緩やかに広げられた翼の中央に、炎のような赤い貴石が嵌め込まれている。
「これ、イリィにもきっと似合うよ。ねえ、つけてみよ!」
「そんな! おそれ多すぎっ! もったいない!」
 こんな高価そうな装飾品、イリィのような田舎娘には、一生に一度でも目に出来ただけで大ラッキー。そんなものを身に着けるなど、考えるだけでも恐ろしくって竦んでしまう。
 慌てて否定したイリィだが、その手からひょいと髪留めを取り返したアシェルは、にやーっといかにも楽しそうな笑顔で応じる。
「そんなことないって! 絶対似合う! 保障する!」
「え、だって、ちょっと待って!」
「ダーメ待たない! こら、動かないの!」
「きゃああ!」
「あーっ! 折角の髪型を台無しにする気っ!」
 イリィがいくらジタバタ足掻こうが、アシェルに勝てるはずもなく。
 大騒ぎの末、結局その髪留めは、結い上げられたイリィの髪の中央に無事収まった。
「ふっふっふっ。どんなもんだい!」
 満足そうに笑うアシェルにつられたのと、大騒ぎし過ぎたのとで、イリィもつい、声を立てて笑ってしまう。

 どうしよう。
 楽しい。
 楽しくて楽しくて、こんな時間がずっと続けばいいと願ってしまいたくなる。
 大好きなお母さんの待つ家に、帰りたいとは思えなくなってしまいそうになる。

「・・・・・・あれ?」
 ひとしきり大笑いしながら勝ち誇った後で、アシェルはふと、先刻の砂地に目を戻した。
 何がアシェルの目に留まったのか、同じように覗き込んでみても、イリィにはさっぱり判らない。
 だが。
 再び砂地に降り立ったアシェルはすぐに、ガラス製らしいキラキラとした小瓶を掘り当てた。
「・・・・・・!」
 イリィの見ている前で、小瓶を握り締めるアシェルの両手が小刻み震え、その表情には明らかな怒気が滲む。
「あーのーバーカーはーっ!!! っとに、っとにっ とにっ!!!」
「ア、アシェル?」
 一体何がどうしたのか。
 ただ一つ分るのは、アシェルのその激しい怒りが、どうやらカリムに向けられているらしいということだけだ。
 ところが、次の瞬間。
 怒らせていた肩から力を抜いてイリィに向き直ったアシェルの顔からは、綺麗さっぱり跡形もなく、怒りの色が消え去っていた。
「ねえイリィ。キミ、何するのが好き?」
「はい?」
 いつものニコニコ顔ではあるのだが、その口調には、とてつもなく不穏な響きがあるような。
「あ、歌か。そだ! 一緒に歌お、歌!」
「え、え、え、何!?」
 何の脈絡なのか、イリィには全く理解できない展開だ。
「ねえ、恋人だったヤローを思いっきりののしって別れる歌って、何かない?」
「え、えっとぉ・・・・・・」
 ひょっとして、これが遺跡の呪いというものだろうか・・・・・・?
 イリィは、何をどう言いつくろおうかと、真っ白になりかける頭を必死になって巡らせた。



 イリィが遺跡の中に消えてしばらく経った頃。
 同じ道を辿って現れたのは、15歳から18歳くらいの、いかにもその方面でやんちゃそうな三人組だった。
 彼らは遺跡手前の岩の上に日向ぼっこよろしく悠然と座るカリムに気付き、一瞬ギョッとした表情になるが、そこはそれ、気を取り直すのも早かった。
 リーダーらしき少年を真ん中に、三人きれいに横並びになると、示し合わせたように足を開いて肩を怒らせて”オレたちゃ無敵だ”ポーズを作る。
「おい、お前か! 昨日ウチの弟が世話になったってーのは!」
「お貴族様だかよーせーだか知らねーが、イキナリやって来てスキ放題かよ!」
「しかも、村長たちまで手玉に取ってだまくらかすとは許せねえ!」
「オレたちの村に手出しすりゃどうなるか!」
「よーっく味わわせてやるから覚悟しろ!」
「だがオレたちにも情けはある!」
「今すぐこっから立ち去るなら見逃してやってもいいぞ!」
 口上の内容はありきたりだが、息の合った台詞分担は見事なものだ。
 こういった連中は、街中では別段珍しくも何ともないが、こういうノンビリした村にもいるものなんだなと、カリムは変なところで感心する。
 もしかしたら彼らのようなのが居るから、人の少ない村もそれなりに活気があると言えるのかも知れない。
 これで目の敵にされるのが自分でなければ、もっと単純に面白がっていられたのだが。
(ったく、面倒なことだ)
 内心、カリムは大きく息をつく。

 カリムらのことは、おそらく昨日の内には、村中の知るところとなっているはずだ。
 だが村には村特有のルールというものがあって、興味の対象と認定されれば嫌でも遠巻きの村人に囲まれることになるだろうし、触らぬ神に祟りなし認定されたなら、その輪はずっと遠くなる。
 現状、おそらく後者だと思っていたのだが、無謀な若者という人種は、その限りではない。
 彼らは彼らだけの理屈で判断し、彼らの信じる力を絶対だと思い込み、それが高じればルールなど無用とばかりに簡単に踏み越える。
 そんな奴らはどこにでも、それこそ天軍の中にだって居たりするし、そういう奴の鼻っぱしらをへし折ってやるのに、何の躊躇いも覚えはしないが。
 相手が平和協定を交わした村の住人となると、話が少々ややこしい。
 何しろ、ルールに訴えてお引取り願うなんてことは最初からやるだけムダだ。
 しかも彼らの信じる腕力という尺度に照らし合わせれば、農村生活で体格のいい彼らに比べ、カリムの外見ときたら力仕事どころか日焼けにすら縁がなさそうな生っ白くて非力な存在そのものだ。
 彼らが実力行使を躊躇する要素は無い。
 先手必勝と行きたくてもカリムの方から手を出すわけにはいかない、というのはまだしも、圧倒的に勝ち過ぎれば他の村人にも無用な警戒心を抱かれかねないし、速攻で出来るだけダメージを与えないよう気を遣えば、攻撃を食らった方は自分が何をされたか判らず、結局二度手間になったりする。
 先手は取らせて、ゆっくり動作で判り易く、あまりダメージは与え過ぎないよう注意しつつ、三人同時に相手する。
 本当に、面倒以外の何物でもない。
(これがもう少し手加減の要らない相手なら、八つ当たりのし甲斐もあるんだが)
 一瞬”あのバカ”の顔を思い出しかけて、カリムは急いでそれを振り払う。
 さて、何と挑発してやるのが良いか・・・。

 その時、風に流れて聞こえてきた少女の朗らかな笑い声に、三人が一斉に遺跡の方へ目を向けた。
 途端に彼らを取り巻く空気の温度が、目に見えて上昇する。
 なるほど、非常に分かりやすい反応だ。
「何だお前ら。女一人に手も出せないで、徒党を組んで、そのザマか」
 くすり。
 バカにするよりも、鼻先で笑われるよりも、にこやかに断言される方がよほど頭にくるものらしい。
 しかも、自分達が完全に見下していた相手になど。
 全身にゴオーっと紅蓮の炎を燃え上がらせた愚連隊三人は、「やっちまえ」の掛け声とともに、後先考えずにカリム目掛けて飛び掛った。

「ハアッ ハアッ ハアッ・・・・・・に、にーちゃんたち、ちがう、ごかい・・・・・・あれ?」
 黒ブチ模様の小犬と一緒に、息咳きって道を駆け上がって来たジーロがそこで目にしたものは、うーだかぎゅーだか変なうめき声を上げながら重なり合って伸びている実の兄とその友人二人。
「お前、こいつらに何吹き込んだ?」
 それに大した興味も無さそうに岩の玉座に悠然と座る、昨日の少年の姿だった。

「ねえ、これ、にーちゃんがやったの?」
 ぐてーっと伸びている三人組とカリムを見比べながら、ジーロはおずおずと口を開く。
「さて、ね。そいつらが勝手に転んだんじゃないか」
 もちろん、そんなはずが無いのは一目瞭然。
「・・・・・・にーちゃんって、本当にどっかの王子様か神様だったりする、んですか?」
 しごく真剣な表情で、ジーロはカリムを見上げている。
「大人たちに、何か言われでもしたか?」
「うん・・・遺跡の神様のことは誰にも言っちゃいけないって。それから、神様がいる間は遺跡に近付いちゃいけないって」
(なるほど、賢明な判断だ)
 村人の共通見解としては、相手がどこぞの逃亡貴族とするよりも、神様の類であると示し合わせた方が、後々都合がいいだろう。
 来訪者を奉っておけば、上手くすれば将来褒美が貰えるかも知れないし、来訪者が領主の敵だったりした場合でも言い訳が立ちやすい。
 どちらに転んでも損のない対処法だと、カリムは思う。
「だが、お前はそうは思わないわけだ」
「うーん。良く分からないや」
 眉間に皺を寄せながら、ジーロは正直に白状する。
「そうか。実は俺もよく知らない」
「えーっ、そうなの?」
 まさかそんな風にあっさり言われるとは思いもよらなかったジーロは、意表をつかれて大きく目を見開いた。
「・・・・・・でも、にーちゃん、強いんだよね」
「ん?」
「こいつ、トルナードってゆーんだ。オレの犬!」
「威勢のいい名前だな」
「うん、かっけーだろ! だけどこいつ、ちょっとバカでさ。誰にでも平気で吠えかかって行ったりするんだ。自分より大きい犬とか、狐なんかにもね」
 言いながらジーロは、初対面であるはずのカリムの足元で神妙な様子で伏せをしている犬の、黒い大きな斑の入った背中を撫でてやる。
「ねえ、にーちゃんだったら、イリィのこと、助けられる?」
「!」
 カリムは、真剣な眼差しを向ける少年を、真っ直ぐに見返した。
「イリィはさ、みんなに怖がられてるけど、オレもちょっと前まで怖いって思ってたけど、本当はすっごく優しいんだ。前にこいつが迷子になって、もしかしたら遺跡の中にいるんじゃないかって思って、オレ、一人で探しに行ったんだけど、そしたらオレ、自分がどこにいるのか判らなくなって・・・そん時イリィの歌が聞こえてきてさ。イリィはオレのこと、ちゃんと外まで連れて行ってくれたんだ。それに、こいつのことも一緒に探してくれたんだ。それなのに、みんな、イリィに冷たいし。こいつだって、イリィのこと怖がるし。ヒドいよ・・・・・・」
「怖い? あの娘が?」
「うん。そう」
「それでどうして、他所者の俺が何とか出来ると思うんだ?」
「だって、にーちゃんは強いし、いい奴っぽいし、イリィのことも怖がったりしないし。オレもイリィ怖くないけど、ガキの話なんか、誰も聞いちゃくれないし。でもこなままじゃ何かヤなんだ・・・」
 うつむくジーロの手を、トルナードがそっと舐める。手の甲の真新しい刷り傷は、部屋で大人しくしてなさいという言いつけを無視して窓から脱走してきた時に、うっかり擦って出来たものだ
「だが、それを他所者に頼むということは、変化を望むってことなんだぞ?」
「へんか?」
「そう。良くも悪くも。お前は、あの娘がどうなったらいいと思うんだ?」
「どうなったらって、それは、その、オレのお嫁さん! とか?」
「ッハハハハハ!」
「わ、笑うなよ! ガキだと思ってバカにすんな!」
「ハハハ。いや、そういうつもりゃない。いい答えだと思っただけだ。下手に親切ぶるより、ずっといい」
「うう・・・」
「だが、さすがにそれは保障出来ないな」
「んーやっぱりかー。仕方ない、それは自分でドリョクするよ。何たって今日はオレのが絶対、にーちゃんよりポイント稼いでるしなっ! あ、あっちのオレのにーちゃんの方な。・・・あのさ、オレのにーちゃんもさ、ホントはイリィのこと好きなんだぞ。オレがイリィとデートしたって言ったら、いっつもフキゲンになって、オレのことどついたりするんだぜ!」
 つまりは、どつかれようが何しようが、自称デートの度に自慢しているということで。
「ほーお。それで余計なことまで喋ったか」
 昨日のカリムらとのことまで。
「あー、えっと、それはそのー・・・ゴメン、にーちゃん!」
「いーけどな、別に」
「・・・それはそうと、なかなか起きないなあ、オレのにーちゃん」
「そうだな。そろそろ起こすか」
 カリムは、自分の足元で伏せをしたままの黒ブチ犬に視線をやる。
 わん!
 心得たとばかり、黒ブチ犬のトルナードは飛び起きるや、伸びたままの三人組の周りを吠えながら駆け回り、それでダメならとむき出しの手や顔を遠慮なく舐め倒す。
 ボンヤリ頭の少年らは、むにゅむにゅの怪獣に強襲されでもしたかのような変な声を上げて手足を動かし、それが仲間にバシバシと当たってさらに変な風に絡まっている。
「ワハハハハ! 見たか! ゲンコのカタキだ!」
 思いっきり腹を抱えて笑うジーロは、力の強い兄に、相当うっぷんが溜まっているらしい。兄弟とはそういうものだが。
「いい犬だな。小さいなりに、主人を一生懸命守ろうとしてる。だろ?」
「ああ、うん。そう」
 ただちょっと、自分の力量というものを判っていなくて、逆にジーロが世話を焼かなきゃならなくなるだけで。
「誰かを守るのに、”強い力”ってのは、”絶対に必要なもの”ではないよな」
「ええ? だって、強くなくちゃ、何にも出来ないじゃないか!」
「そうだな。強くないとな」
「? うん。そーだよね」
「あの娘のことは、俺に出来るだけは、何とかしてみる。お前の他にも、同じことを言った奴がいるからな」
「ホント? それ、誰?」
「俺の連れ。昨日会ったろ」
「あの妖精さん!?」
「俺よりずっといい奴だ。仲良くなってくれると嬉しい」
「うん、そーするよ。ありがとうにーちゃん。あ、そだ。オレはジーロ! にーちゃんは・・・そか、言ったらダメなんだっけ・・・」
「カリム。でも内緒な」
「うん!」

 そして、子犬に散々いいようにされた三人は、げんなりと疲れた様子で並んで草地に座り込む。
「・・・・・・なんでジーロが居るんだ? てか、オレたち何でこんなコトに・・・・・・?」
「しっかりしてよにーちゃんたち! ボロ負けして気イ失ってたんだよ。覚えてねーの?」
「・・・・・・お前、どっちの味方なんだよ!」
「そりゃモチロン、オレのことどつかない方!」
「・・・・・・」
 昏倒する直前の、カリムとの顛末を思い出したらしい少年らは、一応根性を見せるべく立ち上がろうとしたが、立ちくらみですぐに地面と仲良くする羽目になる。戦意は完全に喪失したようだ。
 その様子を見ていたカリムは、さて、とジーロに視線を移す。
「お前、頼んで悪いが、ぶどう酒取ってきてくれないか」
 カリムに遺跡を指して頼まれ、ジーロは少し迷った素振りを見せたが。
「うん、わかった!」
 何事か察するものがあったらしく、一つ大きく頷くと、遺跡に向かって駆け出した。
 トルナードが、一度カリムを振り返ってから、すぐにその後を追う。
 ジーロはすぐに戻るつもりだろうが、その前にアシェルとイリィに捕まるだろうから、多分しばらくはかかるだろう。
 酒が欲しいというのは半分以上本心なのだが、まあ、それは仕方が無い。
 ジーロが立ち去ったことで、格好をつけねばならない相手がいなくなり、少年らは実にすんなりと大人しく降参した。
 思った通り、力関係さえハッキリすれば、却って素直で扱い易い。
「それで、お前らに聞きたいことがあるんだが」
「ははっ! 何なりと!」
・・・・・・少し効果が強すぎたかも知れない。

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