カウントダウンはすぐそこに―――。
…彼は相変わらず窓の外を見つめている。
無愛想な無関心に近い表情でずっと。
私に特に話しかけない。それは、彼が愛嬌のあるタイプではないからだ。
腕が良いのにそれがないから指名をとれないなんて損すぎる。
もったいない。
「―――美雪さん」
彼が突然私の名を呼んだ。
「何…?」
「髪、また伸びてきましたね」
彼が私の髪をしげしげと見つめる。髪はもう肩ぐらいまでとどいている
「あー…私伸びるの早いからね。重くて仕方ないや」
「…じゃあ、切りましょうよ」
そう言うなり彼はどこから出したのかヘアカット用の銀のハサミとスーパーの割引チラシを私に見せた。
「えぇ? 病院で髪切っていいの?」
「ダメだと思いますけどべつにいいんじゃないですか?」
彼は他人事のように言い放つ。危機感が少なすぎる気がした。
私は彼と裏腹に、ナースに髪を切られている姿を見られたらどうしようかとはらはらしていた。
でも髪は重たいしどうしようか…。
「どんな髪型にします?」
「………前髪をシャギーに切ってくださいっ!」
私の考えて考えて考えた選択だった。切るのは前髪オンリーでという注文は。
私は髪形を変えるよりもナースをとったのだ。
「それ、髪形じゃないし…」
「今回はこれで許して。ねっ?ねっ?」
「…わかりましたよ」
いかにも不服そうな彼はしぶしぶと前髪を切りだした。
シャキシャキとハサミの刃がすれる音だけが空間を支配する。
シャキッシャキッシャキ
切るの、上手くなったなぁ――。
「髪切るの上手くなったね」
「気づきました?」
無邪気にクシャリと小野君は笑った。