―大切な人―
「姉ちゃん入るよ」
横引きのドアを引いて見えた光景は―――
「香奈、久しぶり」
「ども…」
姉と見知らぬ男だった。
――だれ?
「…この人は私が前に行った美容室の美容師さん。小野君っていうの」
姉に紹介された゛小野゛という男は無愛想に会釈した。
「さっきまでね小野君に前髪切ってもらってたの。上手に切れてるでしょ?」
綺麗にそろった前髪を指先でつまんでニコリと姉は笑った。
その姿はとても病人には見えない。
「別にわざわざそんなこと言わないでいいですよ。俺そんなに腕良いほうじゃないし」
小野さんはさっきとかわらず無愛想な表情のままだったが姉に褒められてどこか嬉しそうだった。
姉はそんな小野さんを見て笑い、数分ほど他愛のない話をしていた。
「そんじゃ」
小野さんは病室を出ていった。