終わったって思った。
あの時働いていたカラオケ屋の金で俺と母さんの生活の大半を支えていたから、潰れるなんて現実を受け入れたくなかった。現実逃避を久しぶりにしたくなった。
次の日、俺は高校を休んだ。
授業がとっくに始まってる時俺は繁華街にいた。人の通りが多く、賑わう場所。
こんな盛り場に俺が来てる理由は一つしかない。
そう、俺は学校を休んでまで仕事を探しに来てる。他人から見ればいかれてる奴だって思われるのはわかってる。でもそんなことどうだっていい、普通の生活したくて生活費を稼ぐために仕事を探してるんだから何が悪いんだよ。
繁華街をずっと歩いているとすぐさま声をかけられた。
やけに黒いスーツを着てニヤニヤしているおじさんに。
「兄ちゃん男前だなぁ。なに、仕事探してるの? ホストクラブはいらない? 兄ちゃんならイケルよきっと!」
返事を待たずにベラベラとおじさんは俺に仕事を進める。ホストクラブか。
「あの、時給いくらですか?」
接客業は少しはできるかもしれない。
「3000円だよ」
「一万だ」
「え?」
おじさんの声のあとにやけに低い声がした。一万って。
「だれだよあんた。こいつは先に俺が目ぇつけたんだよ。口出しするなっ」
おじさんはさっきの猫なで声からは想像できないきつい声でその男を威嚇した。
男はそれに動じず俺を見つめている。男はサングラスと黒いスーツにノーネクタイ、背は190ぐらいありそうだ。
「最終的に決めるのはこいつだろ? 黙りな」
低い声でクールに吐き捨てた男。妙にかっこよく俺にうつった。
「…で、兄ちゃんどっちにいくんだ? 先に声をかけた俺かアイツか」
俺は迷わなかった。
「じゃあ、あなたで…」
サングラスをした男のほうへ目を向けてそう言った。
おじさんはチッと舌打ちして俺を睨みつけどこかへ消えた。
「ついてこい」
低いドスのきいた声が俺を繁華街の奥へとつれていく。