たどり着いた場所は細長いビルだった。グレーがかかったビルとは不釣合に吊るされた看板の文字。
―――…風俗。
「早く入れ」
男に押された形でビルの中に入った。湿っぽい空気が頬にへばりつく。
長めな階段を上ると廊下にでた。男は慣れた様子で廊下を歩き横についているドアをノックする。
コンコンッ
「店長、つれてきましたよ」
男の低い声がでるなりドアが開く。
「はーい。いつもありがとうね〜。…って結構イケメン君だね」
そう言ってニコリと笑う店長という男。女みたいな甘い声だ。背は俺より少し小さい。
「質の悪いものより格段に良いものを選ぶのはあたりまえですよ。この業界なら特に」
そう言って男は口元にニヒルな笑みを浮かべる。
「ふふ、まぁね。次も期待してるから」
店長は首を少し横にかたむけて目を細める。
それを見ると男は外へと階段を下りていった。
店長にドアの中へ案内されて驚いた。
綺麗な大部屋にいくつか部屋が分かれていて広々とした空間。
「じゃあこれからよろしくね、ええっと君の名前は…」
「矢木矢です」
「じゃあ矢木矢君、これからよろしくね」
あの時からもう始まっていたんだ。
リミットが。