小説『絶対に笑ってはいけないLIAR GAME』
作者:カテゴリーF()

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控え室-2



 秋山の机の上にはトランクが2つ並んでいた。ひとつは彼の顔面にパンチをお見舞いしたびっくり箱。もうひとつは現金1億円入りのトランクだ。どうやら、秋山はあれからすぐに自身のマネーを見つけることができたようだ。

「これ、なんでしょうか……?」

 その一方で、直が机の後ろにある棚の上に紙製の黒い箱を見つけた。彼女は箱を自分の机の上に移し、おもむろに蓋を開けた。

「……お菓子、ですね」

 箱の中身は熊本名産いきなり団子だった。10個入っており、1個ずつ袋詰めにされていた。

「ちょうど10個ありますし、みんなで食べましょう」

 直は席を立ち、いきなり団子を他のプレイヤーたちに配った。彼女に礼を言ってから、プレイヤーたちは各々封を切り、いきなり団子を口に運んだ。

「あっ、おいしい!」

「熱いお茶が欲しくなってきましたね」

「食べたら1億円のペナルティ……は無いよね?」

 感想を述べるプレイヤーたち。そんな中……。

「ゴホッ! ゴホゴホッ!」

 どういうわけか、桐生が突然咳込みはじめた。顔の刺青が歪み、若干涙目になっている。

「クソッ……これ、辛子じゃねぇかよ!」

「フフフフッ!」

「ハハハッ、か、辛子って……ご愁傷様ぁ!」

「そんなに笑ったら失礼ですよ……フフフッ」


 デデーン♪
『シノミヤ様、サカマキ様、ハリモト様、アウトです』


 桐生が口にしたいきなり団子は、サツマイモの内側に大量の練り辛子が入っているものであった。辛さに悶え苦しむ桐生の様子を見た優、マイ、張本がアウトになった。ちなみにこのとき、福永も笑いそうになったのだが、大きく口を開け閉めしてなんとか耐えてアウトを免れた。

「痛いです……」

「あたしたちより桐生の方がつらいんじゃない?」

「そうでしょうね」

「みっ、水……」

 アウトになった3人が制裁を受ける中、桐生は口を押さえながら席を立ち、部屋の隅にあるドリンクバーに駆け込んだ。

「桐生さん! 大丈夫ですか?」

 そんな彼を、直だけが本気で心配していた。彼の傍に駆け寄り、コップにジュースを注いで彼に手渡す。

「いたよ……篠宮優以上のバカが……」

 お人好しな直をバカと称しつつも、桐生はコップを受け取り中身を一気に口の中に流し込んだ。

「なんだこれ?」

 その一方で、机の引き出しをチェックしていた福永が黒い封筒を発見した。早速見つけた封筒を机の上に置き、中を確認した。中には黒い紙が入っており、白い文字で何か書かれていた。

「なになに? 『おめでとうございます。これは不幸の手紙です。今、これを見ているフクナガ様に近いうちにいくつかの不幸が訪れます。回避方法はありません。フクナガ様のご健闘をお祈りします。ライアーゲーム事務局』……は? おめでたくなんかねーし。事務局め、何企んでやがる……?」

 キョロキョロと周囲を見渡し、警戒体勢を強める福永。しかし、何かが仕掛けられている様子は無かった。

「何も無さそうだな。ただのハッタリかぁ」

 ホッと一安心し、肩の力を抜いた福永。だが……。


 パァン! パパパパパパァンッ! パパパパパパァンッ! パパパパパパパパパァンッ!
「ぎぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 痛っ! 弁慶超痛いんですけどぉぉぉ!」


 福永の足元で、あらかじめ仕掛けられていたであろう大量の爆竹が爆発した。油断していた福永は完全に不意を突かれ、バネ仕掛けの人形のように席から飛び上がりながら奇声を上げた。そしてその拍子にスネをどこかにぶつけたようだ。

「ンフフッ……」

「アハハハッ!」


 デデーン♪
『カンザキ様、サカマキ様、シノミヤ様、アウトです』


「えっ、私もですか!?」

 その様子を見て笑った直とマイがアウトになった。超がつくほどのお人好しな直だが、福永のことを心配をしている様子は無かった。おそらく、彼女の中で福永がすっかりギャグキャラとして定着してしまっているのだろう。優は笑うまいとして手を口に当てて表情筋を動かさないようにていたが、わずかにニヤけてしまったらしくアウトを宣告されてしまった。

「痛いです……」

「おのれキノコめ……!」

「判定基準厳しすぎます」

「あーびっくりした、あーびっくりした、100パーびっくりしたぁ」

 ゴムパッチンを受ける三人。福永もなんとか落ち着いたようだ。

「私の机にも、何か入っているのでしょうか?」

 ヨコヤも机の中が気になってきたらしく、右側の引き出しを順番にチェックしていった。しかし、中は全て空っぽだった。そして、ヨコヤは最後に残った左側の引き出しを開けた。すると……。


 プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!


 その中からヨコヤに向けて筒が伸び、冷却ガスが噴射された。それにより、彼の顔が服や髪の色と同じ色に染まった。

「アハハハハッ! ヨコヤたんお顔真っ白!」

「ククククク……ざまぁないなぁ? ヨコヤ。フフフフフッ……クハハハハハハッ」


 デデーン♪
「フクナガ様、アキヤマ様、アウトです」


 福永と秋山が笑い、アウトになってゴムパッチンを食らった。特に秋山は腹を抱えてここぞとばかりに笑っていた。彼にとってヨコヤは母を死に追いやったマルチ組織のトップ。一度赦したとはいえ、最も憎い存在だ。そんな仇敵の醜態を笑わないはずが無かった。

「笑いましたね、秋山君」

 一方のヨコヤは、白いハンカチで顔を拭き、してやったりといった表情で秋山を見た。冷却ガスを食らったことはヨコヤにとっても想定外の事態だったが、秋山にアウトを与えることができたため、それはそれで良しとすることにしたようだ。

「あんなに笑う秋山初めて見たわ……」

 マイがつぶやくと、他のプレイヤーたちも一斉に頷いた……。

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