控え室-1
ゲームセンターの中に入った一同。開店前であるためか店内は暗く、各種ゲームの電源も落ちている状態だった。店内各所に設置されたモニターに事務局のロゴが映し出され、それが照明の代わりとなっていた。薄暗い店内を、プレイヤーたちはアリスの先導で奥へと進む。すると……。
「ウゥゥゥ……」
「アァァァ……」
「ちょっ、ゾンビ!?」
デデーン♪
『フクナガ様、アウトです』
彼らの前方にあったガンシューティングゲームの後ろから、数体のゾンビがうめき声を上げながら現れた。両腕を前に出しながらゆっくりと行進する様子を見た福永は、驚きながら少し笑った。判定音が鳴り、全てのモニターに『フクナガユウジ様 OUT』と表示された。出入口の自動ドアが開き、事務局員が店内に入ってきた。
「いてっ! つーか何でゾンビ? マジ意味不明」
ゴムパッチンを食らいながら福永はつぶやいた……。
しばらく歩き、店の奥のスタッフルームらしき部屋の前に到着した。
「準備が完了するまで、皆様にはここで待機していただきます」
どうやらこの部屋がプレイヤー控え室のようだ。アリスが扉を開け、プレイヤーたちを中へ誘導した。
控え室の中は広く、出入口側の壁に大きなモニターが設置されていた。オフィスデスク5台がL字型に配置されており、その上には3回戦『密輸ゲーム』で使用されたものと同じような青いカバー付きのトランクが置かれている。そして部屋の片隅にはドリンクバーが設置されていた。
「準備が完了し次第、お迎えにあがります」
そう言ってアリスは部屋を出てドアを閉め、去っていった。
「とりあえず座りましょうか」
葛城の言葉を合図に、席につくプレイヤーたち。バスの時と同じく席順は決まっており、出入口から近い順に直、秋山、福永、葛城、ヨコヤとなった。
「わーい! ウサギー、ウサギー! って何で俺だけコレなわけ!?」
何故か福永の席だけはイスではなくウサギの遊具だった。ちなみに、この遊具はファイナルステージ『エデンの園ゲーム』の会場にあったものである。それにまたがり、前後に揺れながらノリツッコミを入れる福永。誰か一人くらい笑っただろう、と思い彼は他のプレイヤーの顔を順番に見るが、それを聞いている者はいなかった……。
「我々の他にも誰か来るようですね」
ヨコヤが顔を右に向けながら言った。彼の視線の先にはJ字型に配置されている5台のデスクがあり、その上には赤いカバーが付いたトランクがあった。それとほぼ同時に出入口のドアが開き、事務局員とプレイヤーと思われる者たちが入ってきた。
「準備が完了するまで、皆様はここで待機となります」
やってきたのは事務局員のリエル。その後ろからは5名のプレイヤー。
「直ちゃん!? 秋山に福永まで!」
「お久しぶりです。ファイナルステージ以来ですね」
「マイさん! 仙道さん!」
坂巻マイと仙道アラタが現れた。かつてファイナルステージを共に戦った仲間の登場に、自然と笑顔になる直だが……。
デデーン♪
『カンザキ様、アウトです』
判定音と共に直のアウトが宣言された。すぐさま制裁担当の事務局員が現れ、彼女にゴムパッチンをする。
「なんでそんなので笑うんだよ……」
アウトになった直を見た顔に刺青を入れた男……桐生ノブテルがぼそっとつぶやいた。
「秋山さん、またあなたに会えて嬉しい限りです」
「秋山先生……と葛城先生!?」
錫杖をつきながら現れた壮年の男性……張本タカシが秋山に挨拶した。その後ろから篠宮優が顔を出した。彼女は秋山の同僚である葛城がこの場にいることに驚き、秋山から葛城もライアーゲームの経験者だと知らされるとさらに驚いた。
そんなやり取りの後リエルが退室。簡単に自己紹介を済ませてから優ら5人も自身の席へと移動した。席順はモニターに近い方から優、桐生、張本、坂巻、仙道だ。
『これより10人でのゲームとなります。よって、場代の合計は10億円となります』
プレイヤーの人数が増え、場代も倍になった。
「でも、場代ってどこにあるんですか?」
キョロキョロと周りを見渡しながら優が疑問を口に出した。
「あるじゃん。この中に」
隣にいる桐生が、机の上にあるトランクを開けながら答えた。トランクの中には万札の束がぎっしりつまっていた。これが今回のマネーのようだ。他のプレイヤーたちも、中身を確認するべく一斉にトランクを開けていった。
秋山も自身のマネーを確認するためにトランクを開けたが……。
カチャ、ベシッ!
中身は1億円ではなく、バネのついたボクシンググローブだった。トランクが開けられたことにより、縮んでいたバネが伸びて秋山の顔面にパンチをお見舞いした。そして、それを見た(直を除く)プレイヤー全員が笑いだした。
デデーン♪
『フクナガ様、カツラギ様、ヨコヤ様、センドウ様、サカマキ様、キリュウ様、ハリモト様、シノミヤ様、アウトです』
アウトの宣言と同時に、8人の事務局員がやってきてプレイヤーたちに順番に制裁を下していった。
「俺を笑わせるなんてな……マジすげぇわ。大したもんだよ。秋山くん? ……プクククッ」
デデーン♪
『キリュウ様、アウトです』
ツボにハマったのか、桐生は手を叩きながら再び笑いだした。退室しようとしていた事務局員の一人が引き返し、桐生にゴムパッチンをしてから去っていった。
「……」
バネが小刻みに伸び縮みし、まるであざ笑うかのように動いているボクシンググローブをしばらく無言で見つめていた秋山だったが、視線を外して自身の分のマネーを探すことにした。プレイヤーたちが笑いを堪えながらそれを見る中、直だけがパンチを食らった秋山の心配をし、マネー探しを手伝うのであった……。