小説『ハイスクールD×D ~古代龍の覚醒~ 』
作者:波瀬 青()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「どういう事か説明してください!いや、しろ!!」

俺はアザゼルさんに掴みかからん勢いで抗議をしていた。
ゼファードルをぶっ飛ばして少ししてからアザゼルさんがひょっこり表れたのだ。
後始末をしてた俺たちだが、後の処理はアザゼルさんの部下に任せ、豪華な個室に移動していた。
ロスヴァイセさんは怒り心頭の様子でオーディンさんを探しに俺たちと別行動をとっている。

アザゼルさんは飄々とした態度を崩さないで答える。

「まぁ、落ち着けよ。ほらお前も一杯」
「俺は未成年です!」

さっきからこの調子で俺に取り合ってくれない。
くっそぉ!今すぐにシェムハザさんを呼んでこのアホ総督を叱ってほしい!!

「エージ様、落ち着いてくださいまし。ここは私から説明しますので……」

レイヴェルが俺を宥める様に提案する。

「レイヴェルはさっきのが何か知ってたのか?」
「はい」

得意気に頷くレイヴェル。
本当にしっかりした娘だなぁ。こんな妹が欲しかった。

「じゃあ、教えてくれないかな」
「よろこんでですわ」

コホンと可愛らしく咳払いをしてレイヴェルは説明を始めた。

「先日のパーティーにてテロリストが表れたおり、本日のゲームも延期……または中止にした方がいいという意見が多くあがりました。
それでも魔王様方はグレモリー眷属、シトリー眷属の力を公の場で見てほしいとゲームの日程を変更しませんでした。
そこで無事にゲームを見届ける会場を作ろうとファルビウム・アスモデウス様が提案なされたのが今回の作戦です」

テロがあった翌日にゲームなんてしたらまたテロリストに襲われるかもって考えるのが妥当だ。
魔王様方は俺たち眷属の特訓を無駄にしない為にそんな事をしてくれたんだな。
やっぱり人の上に立つ人間は器の大きさが違うんだろう。

「ん?ちょっと待て……ファルビウム・アスモデウス様ってあの眠そうにしてた魔王様だよね?」

俺が始めてあった時も、若手悪魔の会合の時にも終始眠そうだったあの魔王様がこの作戦の立案者だっていうのか?

「そうですわ。エージ様のお気持ちも分からなくはないですが、戦術、戦略に関して冥界で並ぶ者無しと言われる程のお方なのです」
「そういえば冥界の軍事を担当してるって言ってたな」

アスモデウス様もやはり魔王になるだけはあって冥界屈指の実力者だったんだ。

しかし、今日俺はそのアスモデウス様の弟にあたるゼファードルを殴っちまった。
あの場合はしょうがないと俺は思うし……怒ってないといいんだけどなぁ……

「では、続きといきますわ。
その作戦の内容は偽りの会場を用意してそこで観戦するという情報を流し、テロリストが偽りの会場に来るのを待ち伏せするんです。もし、テロリストが表れたら返り討ちに、表れなければそのまま観戦をする。まぁ、いたってシンプルです」

レイヴェルは胸元から一枚の紙切れを取りだし俺に見せた。
それはアザゼルさんが移動に使った紙切れに似ていた。

「偽りの会場と言えど、テロリストに懸念を抱かせる訳にはいきません。なので会場にはテロリストを誘き出す為にルシファー様、レヴィアタン様の部下の悪魔がカモフラージュに会場に入場していました」
「他には俺の部下の堕天使とミカエルのとこの天使もいたんだぜ。まったく……くるかも分からねぇテロリストを警戒して何やってんだってシェムハザに怒られたぜ」

アザゼルさんがお酒を飲みながら付け加える。
あの会場にいた人達は全員テロリストを騙すために各勢力から動員されたのか。

「じゃあなんでレイヴェルがいたんだ?」
「うっ……私も本来ならばあの場で転移をするはずでしたが……自分の意思で留まりましたわ。
理由はあの場で申した通り、フェニックス家の威信の為です」

フェニックス家も上級悪魔だし、魔王様の依頼であの会場にいたんだろうか。

「で、お前ら囮組が観戦するのとは別の場所で悪魔と堕天使、天使のVIPは安心して観戦できるってわけだ。
VIP専用会場の確保は俺と四大魔王で行ったから情報を洩らすような真似はしなかったぞ」

アザゼルさんが億劫そうに立ち上がり、俺に真剣な眼差しを向けた。
鋭い眼光と纏う風格からはさっきまで酒を飲んでいた人物と同一人物とは思えなかった。

「あの黒いローブの連中は俺たちが和平を結んだときに襲ってきた連中と同じ派閥だ。
問題は……お前を襲ってきたゼファードルだ」

アザゼルさんは机に置いてあったリモコンのボタンを押した。
すると部屋が次第に暗くなり、俺たちの正面の壁に銀幕が垂れてきてそこに映像が映し出された。

映画館かここは……

「これはお前たちグレモリー眷属VSシトリー眷属より先に行われたグラシャラボラス眷属VSバアル眷属のレーティングゲームの映像だ」

アザゼルさんの説明の通り、画面にはゼファードルと……以前若手悪魔の集会で見たことのある野性的なイケメン、サイラオーグ・バアルだった。
ゼファードルの眷属はサイラオーグさんの眷属にやられたのか一人もいない。

「この映像はゲームの中でも終盤……ゼファードルとサイラオーグのタイマンを撮ってある」
「タイマンですか?」

サイラオーグさんにはまだ眷属がいるのになんでわざわざ敵の大将とサシで闘うんだ?

「ゼファードルからタイマンを挑んだんだよ。
普通のやつならここで断って眷属総出でオーバーキルするだろうが……サイラオーグはゼファードルの申し出を受けた」

映像のなかのゼファードルはサイラオーグさんに向かって攻撃を繰り出すも、ことごとく弾き返され直撃しても何事もなかったかのようにサイラオーグさんは無傷だった。

焦ったゼファードルが態勢を崩す。
サイラオーグさんは凄まじい速度でゼファードルに肉薄し一撃を加えた。

そう、ただそれだけだった。

「……すげぇな」

ゼファードルがサイラオーグさんの一撃を受けた瞬間、二人の回りの空気が震動した。
近くにあった建物は衝撃の余波でひび割れ、崩れていく。
映像からでも分かる。圧倒的な破壊力。

「部長と同じ若手悪魔にこんな人がいたなんて」

部長の夢を叶える為にも、サイラオーグさんは倒さなければならない相手だ。
これは俺もうかうかしてはいられない。

「この一戦でゼファードルは戦いに怯え、強い恐怖心によりこれから先のレーティングゲーム出場は絶望的になった」

サイラオーグさんの気迫に押されて闘いに恐怖を感じるのは無理もないのかもしれない。
あんな威力の一撃を受けて心が壊れてしまうのは考えられる事だった。

「ですが……彼は私たちの前に表れましたわよ?」

レイヴェルの当然の疑問。
そんな精神を叩き潰されたゼファードルが、俺たちを襲うなんて考え難い。

でも、実際に襲ってきた……
この映像以上の力を俺はゼファードルから感じたんだ。

部屋に明かりが戻り、アザゼルさんが何かを考え込むように腕を組む。

「奴はサイラオーグにやられてとても闘える精神状態じゃなかったんだがな……」

俺と闘ってる時も、ゼファードルは半狂乱状態でまともな会話が成立しなかったな。

そして俺が最も疑問に思うのは黒い蛇……ゼファードルの口から吐き出されたものだ。
あの蛇を吐き出した後、ゼファードルの力が弱まった気がした。

「……黒い蛇」

俺がポツリと呟くと、アザゼルさんが反応した。

「……黒い蛇だと?詳しく聞かせろエージ」
「は、はい……」

アザゼルさんの勢いに押されて俺は感じていた違和感をアザゼルさんに話した。

俺が話している最中にもアザゼルさんの顔は険しくなっていった。

「なるほどな……大体読めたぜ。
ゼファードルの力の原因は……オーフィスの作り出した蛇だ」

オーフィス?

「簡単にいうと……最強のドラゴンだ」
「最強のドラゴン!?ってことは……ドライグやアルビオンよりも強いんですか?」
「ああ……『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス。規格外の存在だ」

二天龍の名を冠する強大な龍を凌ぐ強さって……俺にはもう想像できない。

「そのオーフィスが作り出した蛇を取り込む事で強力な力を得ることができるが……まさかゼファードルが蛇を使っていたとはな」

アザゼルさんはめんどくさそうに頭を掻きながらボヤいた。

「エージはそこの嬢ちゃんを連れてグレモリー邸に戻れ。
今回、この会場をテロリストが襲ってきた事はまだ伏せてあるが次期に公表するはずだ。
早めに帰ってリアスたちを安心させてやれ」

椅子に腰掛けてアザゼルさんは再び酒を飲み始めた。

「分かりました……失礼します。
行こうか、レイヴェル」

俺はレイヴェルを促して一緒に退室した。

「レイヴェル、部長たちのレーティングゲームってもう終わってるのかな?」
「……多分ですが終わっていると思いますわ。
かれこれゲームが始まってから数時間経っていますし」
「やっぱり?」

後始末をする時間が長かったからなぁ。
部長たち、怒ってないといいけど………

「はぁ………ん?」

俺がグレモリー邸に帰ってからの未来に思いを馳せていると前方から肩を落として歩いてくる人影があった。

「オーディンさまぁ〜どこですかぁぁぁ。
グスッ……オーディンさまぁ。
………うぅっ」

啜り泣くような声を出しながら歩いていたのはロスヴァイセさんだった。
ヴァルキリーの姿でそんな行動されると俺の中のヴァルキリー像が音を立てて崩れるからやめてほしい。

「………あの、ロスヴァイセさん。どうしたんですか?」

俺が声をかけるとロスヴァイセさんは顔をあげた。
目に涙をためて上目遣いで見られて俺はドギマギした。

やっべぇぇぇぇぇ!今の不意打ちは危なかった!!

「古城英志とレイヴェルさんですか……オーディン様を知りませんか」

生気の感じられない声でロスヴァイセさんは言った。

「すいません、俺たちさっきまでアザゼルさんと話していてオーディンさんとはあってないです」
「……そうですか。
ああぁ……オーディンさまぁ」

またもや肩をガックリと落とすロスヴァイセさんにレイヴェルが声をかけた。

「どうかなさりましたの?」
「うぅ……あの現場を離れてからすぐにオーディン様が観戦しているはずの部屋に行ったのですが、誰も居らず……こんなものが置いてありまして………」

ロスヴァイセさんは手に持っていた紙を俺たちに見せた。

「『今日は四大魔王と堕天使総督と冥界をめぐってくるでのう。
明日には戻るから、お主は適当に休暇だと思って過ごしてくれい』」

フリーダムな神様だなオイ。

「でもロスヴァイセさんに休暇ができたんじゃないですか。ならゆっくりしていけばいいんですよ」

俺の提案にロスヴァイセは首を横に振る。

「私は一応、仕事でオーディン様に付いているのです。
それなのにオーディン様を放置して休暇をとったなどと故郷の者に聞かれたら何と言われるか……」

青ざめた顔でロスヴァイセさんはうわ言のように言う。
うーん、学生の俺にはわからないけど大人の世界は厳しいんだな。

「でも、もうオーディンさんは居ないんですからしょうがないんじゃないですか?」
「……確かにそうかもしれません。
オーディン様なら私を騙して陰から笑って見ている可能性もあるので探していたんですが……」

どんだけ信用されてないんだよオーディンさん。

「行く当てが無いなら俺も今から帰るんで、一緒に行きます?」

グレモリー邸なら客人ようの部屋はいくらでもあるだろうし、困ってるロスヴァイセさんを見過ごす訳にもいかないよな!

「……しかし、私はオーディン様の護衛という任務が……」
「この手紙にも書いてあるじゃないですか。
明日には戻るって。今日はテロリストと闘って疲れてるでしょうし休んだって罰は当たりませんよ。
それに、一緒にテロリストを撃退してくれた恩もありますから!」

早口でまくし立てる俺。
こんな美人とお近づきになれるチャンスはない!俺の夏の集大成!
銀髪美女と仲良くなる為に俺は夏休みを賭ける!!

「そ、そこまで言うならお言葉に甘えます……」

ロスヴァイセさんは困惑しながら俺の誘いにのってくれた。

よっしゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!

後は部長にお願いをして何とか泊めてもらう部屋を確保するんだ!

「エージ様……」

レイヴェルが俺の服の袖をくいっと引っ張る。
俺が振り向くとレイヴェルは顔を赤くしてポツリと呟いた。

「わ、私もお供してよろしいでしょうか……?」
「でもレイヴェルは冥界に家があるだろ?
きっと親御さんも心配してると思うぞ?」

なんせテロリストと闘ったんだ。
娘を心配するのは当然だろう。

「その……今日テロリストと闘ったのは私の独断でして……家に帰ってお父様とお母様に叱られるのが……怖いといいますか……えっと……」
「独断でテロリストと闘うなよ……
俺が父親だったらそりゃ怒るな。大事な娘がテロリストと戦闘したなんて気が気じゃないだろうから」

俺は呆れて肩を竦めた。
しっかりしてると思ったけどレイヴェルもやっぱり年頃の女の子なんだな。

「わ、分かってますわ!それでも…「ちゃんとご両親に連絡するんだぞ」……へ?」
「だから、俺についてくるんだったら親御さんに無事を連絡してからだ。怒られたら俺も一緒に謝りに行くからさ」

俺が笑顔を返すとレイヴェルの顔がみるみるうちに真っ赤になった。

「か、勘違いしないでくださいましっ!わ、わ、私には他にも行く当てがありますが今は他の方にあまり迷惑をかけたくないから貴方についていくだけですからね!!」

顔を真っ赤にしながら言い訳をするレイヴェル。
可愛いなぁ……

「じゃあ、二人とも行こうか」

俺は銀髪と金髪の美人と共に廊下を歩き出した。

……これからの運命も知らずに。






○グレモリー邸

俺とロスヴァイセさんとレイヴェルが屋敷に到着すると、辺りは既に暗くなっていた。

「結構遅くなっちゃったな」

俺たちはグレモリー邸への入り口である大きな門の前まできていた。
グレモリー邸の中からグレモリー眷属全員の魔力が感じられる。
みんな居るようだ。

俺は扉を開いて屋敷に足を踏み入れた。
俺の後ろに二人が続く。

豪華なホールを進んで階段に向かうと、ちょうど部長のお母様が階段を降りてきた。

「あら、遅かったわねエージさん。リアスが怒っていたわよ」
「す、すいません。色々あって帰りが遅くなってしまいました!」

俺は部長のお母様に向かって勢いよく頭を下げる。
やっぱり部長は怒ってるのか!これは誠心誠意謝らないと……

「うふふっ。冗談よ、リアスは寧ろ貴方を心配してたわ。
何か事件に巻き込まれたんじゃないかって」

意地悪く笑う部長のお母様。
俺は苦笑して顔をあげた。

「あ、ありがとうございます。リアス様がこんな俺の事を心配してくれるなんて光栄です」
「そう照れるものではないわ。貴方はリアスにとっても私たちグレモリーにとっても大切な存在なのだから」

部長のお母様はそう言って俺の後ろに立っているレイヴェルとロスヴァイセさんに視線を送った。

「そちらの二人は……?」
「はい、実はこの二人には会場でお世話になりまして……二人とも今日の寝床に困っているようでしたので、どうか部屋を貸してもらえないでしょうか?」

俺はまた頭を下げて部長のお母様に懇願した。

「そうね……レイヴェルちゃんは両親に連絡してあるのかしら?」
「はい、奥さま」

そうか、レイヴェルは部長のお母様と面識があるのか。
そりゃ婚約を取り付ける位だし当然か。

「そちらのの銀髪の方は?」
「申し遅れました。ロスヴァイセと言うものです。
北欧の主神、オーディン様の護衛をしているヴァルキリーです」

ロスヴァイセさんは丁寧なお辞儀をして挨拶をした。

「北欧のヴァルキリーだったのね……どうりで強い力を感じる訳だわ。
エージさんも交流関係が広いのね」

部長のお母様は感心したように頷き、

「私の娘の眷属、その恩人なら歓迎するわ。
ゆっくりしていってちょうだい」

笑顔で了承してくれた。
流石は部長のお母様!!

「「「ありがどうございます!」」」

俺とレイヴェルとロスヴァイセさんは一斉に礼をして部長のお母様に感謝した。

「気にしなくていいわよ……グレイフィア」
「お呼びでしょうか、奥さま」

部長のお母様がグレイフィアさんの名を呼ぶと、いつからそこに立っていたのかグレイフィアさんが姿を表す。

突然表れたグレイフィアさんに俺たち三人は驚いた。

「彼女たちは客人よ。部屋に案内して丁重におもてなししなさい」
「分かりました」

部長のお母様の言いつけに対してグレイフィアさんがお辞儀をする。

「では、私は失礼するわ。
三人とも良い夜を」
「ありがどうございます!おやすみなさいませ!!」

部長のお母様はそう言って去っていった。
俺は部長のお母様に頭を下げて挨拶をする。

部長のお母様の背中が見えなくなると、グレイフィアさんが俺たちに向き直った。

「お帰りなさいませ、英志さま。
そしてレイヴェル様とロスヴァイセ様、ようこそグレモリー家へ。
歓迎いたします」

ペコリと会釈をするグレイフィアさんにつられて俺たちも会釈をした。

「レイヴェル様とロスヴァイセ様は相部屋でよろしいでしょうか?」

グレイフィアさんの問いかけに二人は頷いた。

「構いませんわ、これ以上迷惑をかけられませんし……ロスヴァイセさんには北欧のお話を聞いてみたかったので」
「私も相部屋で構いません。
レイヴェルさん、私の話でよければお話ししますよ」

うん、二人の仲は良好なようだ!仲がいいのは良いことだからな!!

「承りました。ではお二人の部屋へ案内するので私についてきてください」

グレイフィアさんはそう言うと歩き出した。

俺も自分の部屋に戻る為に階段を登った。




自室に到着した俺はグレモリーの温泉に行くのをやめ、自室に取り付けられたシャワーを浴びた。
制服からタンクトップと短パンに着替える。
夏の夜はこれぐらいの軽装でちょうどいいな。
同室のゼノヴィアが居ないことからまだ風呂に入っているのかもしれない。

「はぁ……今日の反省でもするか…」

俺はベッドに寝転がりながら今日の出来事を振り返る。

テロリストの襲撃、そしてゼファードル。

魔王様から依頼されてた犯人捜し、この出来事から犯人はゼファードルなのだろうか?
テロリストと共に表れて襲撃してきた時点でそう考えられるが、俺はゼファードルが犯人だとは思えなかった。

闘いで心を折られるようなやつが、冥界の重要機密を漏洩して正気でいられるだろうか?
ばれた時のリスクを考えて、ゼファードルならビクビクして日常生活を送るだろう。

それに見た目からだけど、粗雑そうなアイツがスパイみたいに器用な真似ができるとは思えないし……ゼファードルは白でいいかな?

まだ確認してはいないけどゼファードルが誰かに操られていた可能性もある。
早く聞き出したいが、ゼファードルは俺に殴られたのが原因か目を覚まさない。

うぅ……これで死なれたら寝覚めが悪すぎるよ。

「……ん?」

廊下からの物音に俺は上体をおこした。
ゼノヴィアが戻ってきたのだろうか?

それともレイヴェルとロスヴァイセさんが俺の部屋に遊びにきてくれたりして!

俺がそんな事を考えていると、部屋の扉がノックされた。俺は内心、ドキドキしながらベッドを降りて扉へと向かう。
ドアノブを捻って扉を開けたそこには……

「よっ!」

バタンッ

「……ん〜とっ」

俺は扉を閉めて伸びをしながらベッドへと戻ろうとした。

ドンドンドンドンッ!!

しかし、扉を叩く音で足を止める。

「はぁ〜」

諦めて俺は再度扉を開いた。

「なんで閉めるんだよ!」
「……イッセー、空気読めよ」

扉の向こうにいたのはイッセーだった。
しかも何故か上半身裸で下は短パンいっちょうだ。
脇にはシャツを抱えていてる。

「そういうサービスは木場にやってくれ。
アイツなら喜んでお前の相手してくれるだろうからさ……」
「いや、それは流石に……
木場のやつ、最近はやけに目が合うんだけどもしかしてホモなんじゃないかって心配になる時はあるぜ……」

イッセーの顔が一瞬で青くなる。
木場、お前の思いはイッセーに届いてるみたいだぞ。当たり前だけどイッセーは嫌がってるけどな。

「取り合えず部屋に入れてくれよ」
「先ず服をきてくれよ……」

俺は渋々イッセーを部屋に招きいれた。
イッセーは部屋においてあった椅子に座ってシャツを着た。

「ほらよ」

冷蔵庫に入っていた缶ジュースをイッセーに放る。

「サンキュ」

缶ジュースをキャッチしたイッセーを尻目に俺はベッドに腰掛けた。
ジュースを飲みながら俺はイッセーに聞いた。

「で、どうしたんだ?」

俺の問いにイッセーは不敵な笑みを返した。

「いや…素晴らしいものが手に入ったから同志のエージにも見せておこうと思ってね」

そしてイッセーはおもむろにそれを掲げて見せた。

「そ、それは!『おっぱい戦国時代〜Gカップの乱〜』!!」

エロのカリスマ、桜井智樹さん監修のとんでもないエロエロDVDだ!
松田と元浜と俺とイッセーが喉から手が出るほど欲しい一作!!

「な、なんでイッセーがそれを!?」

動揺を隠せずに俺の声は上ずっていた。
イッセーは未だに不敵な笑顔を崩さない。

「今日のゲームのステージは大きなショッピングモール。
あそこには18禁DVDを取り扱ってる店もあるのはエージも知ってるよな?」
「ま、まさか!?」

俺は イッセーの言わんとしていることを想像して声をあげた。

「そう!人間界じゃ大人気でいつも品切状態のこのDVDが置いてあったのさ!!俺は感激したね!
これは夏休みの間、サバイバルな生活で女の子とは無縁な生活を送っていた俺への御褒美!
神様からのプレゼントなんだ!!」
「だ、だからって盗み出すのは紳士としてやっちゃいけない事だ!そうだろ!?」

人差し指を立てて左右に振るイッセーにはまだ余裕があるようだった。

「チッチッチ。俺はちゃんと料金を渡したんだぜ。
ゲームが終わった後に、アザゼルさんにな!!」

その発言は俺を二つの意味で驚愕させた。

「料金を渡した!?ア、アザゼルさんにかっ!?」

更に混乱する俺にイッセーは言い聞かせるように話し出す。

「あのステージ、悪魔の技術で造られたものにアザゼルさんがリアリティを加える為に細かい物品を設定したらしいんだ。
そして……この一作を発見した俺はゲームが終わってからアザゼルさんにお願いして売ってもらったのさ!!」

アザゼルさん……あんたのそのエロに賭ける情熱は本物だぜ。
伊達に総督やってねぇよ、アザゼルさん最高だよっ!!

「アザゼルさんのお陰で人間界に帰ってからの楽しみができた。
やっふうううぅぅぅぅううう!!!!」

テンションが高まり過ぎたのか奇声をあげるイッセー。
俺も目の前に幻の一作があるせいで正常な判断ができなかった。

こんな事して、うちの女性陣が黙ってるわけないのに……

「何をそんなに騒いでいるのかしら……」

背後から感じた殺気に振り返ると紅い髪の我が主と眷属のみんなが部屋に入ってきていた。

い、何時の間に!?
固まる俺とイッセーの眼前で部長が嘆息した。

「エージはともかく……そんなモノを手にしているイッセーにはお仕置きが必要かしら」
「ウグッ……」

顔を真っ青にして呻くイッセー。
ホッ……良かった。
俺は何とか許してもらえそうだ。悪いなイッセー!!

だけど、世の中そんなに上手くいなかった。

コンコン

部屋の扉がノックされる音。
眷属は全員部屋にいるのに一体誰だろう?

「グレイフィアかしら?小猫開けてちょうだい」

部長の指示で塔城さんが扉を開ける。
そこにいたのはレイヴェルとロスヴァイセさんだった。

「エ、エージ様。少しよろしいでしょうか?」
「レイヴェルさん、そんなに緊張しなくても相手は古城英志なのですから……」

俺は頭を抱えて踞った。

「あぁ……」

終わった。

「この二人はどうしたのかしら、エージ?
話してくれないかしら……」
「あらあら〜、私も気になりますわ。どんな関係なのかしらね、エージ君」
「そうだな、エージには私とする先約がある。
どうせならエージも初めての方が私としても嬉しい」
「……エージ先輩の変態」

部長、姫島先輩、ゼノヴィアに塔城さん……
そんな目で俺を見ないでくれぇ……四人とも視線で人が殺せそうですよ。

「アーシア……俺、もうこんな事しない。だから許してくれ……お願いだ……」
「私は何もしませんよ。その……イッセーさんの身に何もなければ私は幸せです」

部屋の隅では恐怖にうちひしがれたイッセーをアーシアさんが宥めていた。

「そうだよ、イッセー君!
イッセー君の為なら僕は頑張れるよ!!」
「ううっ……皆さん怖いですぅ」

木場は真顔でイッセーに気持ち悪い事を言っている。
アイツ、やっぱりホモなんじゃないか?

ギャスパーはギャスパーでメ○ルギアのあの人みたいに段ボールに籠ってしまった。
少しは引きこもりが治ったんじゃないのか……

「よそ見とはいい度胸ね……」
「イタイ、イタイイタイです!!」

俺の頭をアイアンクローで鷲掴みにしながら部長が言う。

「あの二人はどうしたの?」

ギリギリと頭の骨が軋む音がする。

「か、会場で……テロリスト撃破に協力してくれたので……お礼に泊まっていって貰おうと……
部長のお母様に……お話はしてあります……」

視界の隅に状況を理解できずにオロオロしているレイヴェルとロスヴァイセさんが映る。

「そう……お母様が認めているなら見逃しましょう」
「ぐぅ……あ、ありがとうございます」

やっと解放された俺は自分の頭の形が変わってないかチェックを始める。

「ところでエージ君、私の活躍見ててくれましたか?」
「え?」

背中から柔らかい感触……これは姫島先輩のおっぱい!!

「いえ、その……テロリストのせいでゲームの観戦じたいできなくて……」

ここで嘘をつくと余計酷い目に会う気がして俺は素直に白状した。
が、それがいけなかったらしい。

「……ゼノヴィアちゃん」
「任せてくれ朱乃さん」

姫島先輩に手招きされてゼノヴィアが俺の背中に回ると二人で俺の身体を羽交い締めにした!

「ちょっ!?なんでですかぁ!!」
「小猫ちゃん、どうぞ」

ボティががら空きの態勢の俺の目の前には塔城さんが構えをとっていた。

「……ありがとうございます、副部長」

ズドム!

「ごふぅ!!」

背中の二人が俺を解放すると、俺は両手で腹を押さえてベッドの上を転がり始めた。

痛い、あんな強烈な腹パンは始めてだ!
内蔵が飛び出るかと思った……

「あの……それ以上はエージ様が可愛そうですわ」

レイヴェルが俺を庇ってくれている。
ま、眩しい……レイヴェルが今の俺には救いの女神に見える。

「貴方も大変ですね、古城英志」
「ロ、ロスヴァイセさん程じゃないですよ……」

腹の痛みはまだ消えない……
けど、これでもう皆に怒られることはない。

「まだよ。エージには私たちのゲームを観戦しなかった理由を教えてもらわないと」

勘弁してください……





-56-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




ハイスクールD×D リアス・グレモリー (1/4.5スケール ポリレジン製塗装済み完成品)
新品 \0
中古 \
(参考価格:\16590)