小説『あたし達はがむしゃらに生きてくんだ!』
作者:和泉()

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一章 第一話 始まり


朝、目が覚める。昨日遅くまで起きていたこともあり、何となく瞼が重い。
油断するとするに睡魔がやってくるだろう。
その前に勢い付けて布団から出る。子供っぽいカーテンを開ける。
朝日が目に刺さった。真新しい制服をハンガーから取ると ドアを開け 二階へ上がる。
階段のドアを開けると目玉焼きの匂いが鼻に広がる。台所にはカリカリのベーコンとスライスした赤いトマトが乗せられてあった。
 寝ぼけてないで早くしたくしないと遅刻するよ。 後ろから忙しそうに母が走る。
あたしは はぁい と気の抜けた返事をし、押し入れに向かった。

押し入れは寒い。今日は四月にしては暖かいのだが、押し入れだけは寒かった。
雪解け水のような冷たい寒さを感じながらあたしはパジャマを脱いだ。
体が震える。
急いでYシャツを着る。一度も袖を通したことのないYシャツ。パリッとしていて固い。
続いてスカートをはく。リボンをつける。紺の靴下を履く。
全てが新しくて暖かい。この暖かさは新生活への高揚感。
制服を身に着けると、雪解け水など冷たくはなかった。押し入れを開け 洗面所へ向かう。
そこにはボサボサの寝癖に新一年生の顔をしたあたしがいた。
クシで髪をとかす。寝ぼけっ面に水を浴びせる。
母が向こうでせかすものだから化粧はやめて食卓へ行った。

案の定、今日のメニューは目玉焼き。箸で黄身だけを切り取って白米に乗せた。
膜を切る。半熟の黄身が白米に流れ出す。醤油を数滴垂らし 口にかきこんだ。

「楓、制服中々似合ってるじゃないか。」
父はそういうとあたしの隣に座った。リモコンに手を伸ばし音を二つあげる。お天気コーナー。
東京の気温は20度。暖かい。花粉症の人注意。
活舌の良いキャスターの言葉を塊で聞き取る。あたしはトマトに箸を伸ばした。

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