小説『あたし達はがむしゃらに生きてくんだ!』
作者:和泉()

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一章 十一話 H2



「何?新入生部員?」

「えっ・・・はい。」

背が高い女性。黒髪をひっつめてポニーテールにしてある。
赤メガネのフレームメガネをくいと上げ 楓に言った。

「あなた楽器は何かしたことある?」

「楽器・・・ですか。」

「そ。初心者ならまず楽譜・・・「あたし、ヴォーカルがしたいです。」

言葉を遮り、大声で言った。
爆音が鳴り響いていた軽音部に沈黙が訪れる。
音楽室には10人程いたが一斉に楓を見た。

「おー・・・一年生で。しかも初心者で。けどどうどうとヴォーカル希望たぁやるねー。名前はなんて言うの?」
赤に近い茶髪。ざっくばらんなおかっぱでピアスは片耳二個ずつ。
いかにもというその少女は楓をみてにいっと笑う。

「氷川・・・氷川楓と言います。」

「楓ね私は愛奈、ギター担当で三年生だよ。で、このひっつめポニーテールは部長の前原千尋。
見ての通り固い女だけど小さいころからクラリネットやってて音楽経験は部一番。」

「よ、よろしくお願いします。」

「楓はどこのクラス?今ねー入るかどうかは別として一年生の仮入部含め新入生が14人来たんだけどさー。」
クラスの事をきかれ一瞬どきりとする。同じクラスの人はいてほしくない。
神様に願うように楓は「D組です。」とうつむいていった。

「まじ?Dかー・・・。いなかったと思う。残念。」

「そうですか・・・。」
ほっと胸をなでおろす。するとさっきまで口を出さなかった前原が割り込んできた、

「で、ヴォーカル希望なら何か一芸してくれるんでしょうね?」

「は?一芸って・・・。」

「歌よ。歌。音楽室に入ってきてそうそうヴォーカル希望と大声で言うんだからそれなりにプライドはあるんじゃないの?」

「そっ・・そんな事無いです。」

「まぁいいから何か歌えるものあるかしら?好きなバンドとか・・・何か。」

「好きなバンドはH2です。」

H2。男性4人組のバンド。ギター、ベース、ドラム、ヴォーカルがそれぞれ一人ずつ。
質の高いロックバンドで10代の若者たちから支持されている。
高校生ならだれでも知っている有名バンドだ。

「H2ね・・・。私も知ってるわよ。じゃあその中で一曲何か歌ってもらえる?」
無理です と連呼するが部員全員が楓を見ていて拒否出来る状況ではない。
悟るや否やピアノの上にあったメトロノームを拾い「これ借ります」という。
鞄から縦長のペンケースを取り出した。利き手でもち マイク代わりにする。

曲はアコースティックギターバージョンのバラード曲

カチッ カチッ カチッ と一定の速度で動くメトロノームに合わせて歌った。

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