小説『俺の妹が中二病すぎて困る』
作者:陽ノ下 天音()

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〜第十話 パンドラボックス〜

「なんだよ・・・・・・これ・・・・・・」
 六月十七日、朝教室に入った俺は驚愕した。いや、驚愕という感情よりも当たりどころのない憎しみに駆られていたのだろう。

 ニコの・・・・・・俺の妹の机が荒らされていた。

 荒らされたなんてレベルじゃない。カッターのような刃物で刻まれたであろう文字が机の表面に刻まれていたのだ。刻まれた文字は・・・・・・
「『バケモノハキエロ』だと・・・・・・!」
 この文字を書いた見えない敵に沸々と怒りがこみ上げてきた。誰だ・・・・・・!誰がやったんだよ!こんなこと!
 幸い今日はニコが少し遅れてくる。何か用があって遅れてくるそうだ。
「時間があるならこれを何とかしないとな・・・・・・」
 気持ちを落ち着かせてとにかくこの机をどうするか考えた。とりあえずオニセンには報告してみよう。あの人なら親身になって相談に乗ってくれるだろう。
 こんな机でニコに授業をさせるわけにはいかない。
「兄としてできることをやってやるんだ・・・・・・」

      ◆

「お、オニセンがいないのか!?」
 時は昼時。机に顔を伏せるようにして寝ていた俺は撫子に聞いた事実について顔を上げて驚愕した。
「うん。今日は休みなんだって」
 風邪をひかない健康なボディが自慢のオニセンが風邪!?いや、風邪とはまだ決まっていないが・・・・・・今日に限って休みだなんて・・・・・・
「クソッ!まさかオニセンがいないなんて!」
「小鳥遊くんどうしたの?ニコさんもいないし・・・・・・?」
「ニコはちょっと用事があっていない。オニセンにこれについて報告したかったんだ・・・・・・」
 そう言って俺は机から立ち上がって机に散らばせていた教科書などをどけた。
「・・・・・・なに・・・・・・?これ・・・・・・?なんで小鳥遊くんが・・・・・・?」
 撫子も驚愕した。この有様はひどすぎるからな。
 いま撫子が驚いた理由は俺がやられたと思い込んでいるから・・・・・・なのか?あやふやだがそれはともかく俺がやられたと思ってくれたならそれでいい。
 俺はニコと自分の机を入れ替えたんだ。ニコさえ誤魔化しきれば放課後に事務室の机を取り替えてもらう。
「誰がやったの!?こんなひどいこと・・・・・・?」
 撫子はもう泣いていた。目尻に涙をいっぱいためて。クラスメイトに対して疑いも持ち始めただろう。
「泣くな撫子。俺もわかんねぇ・・・・・・このクラスの人間かもしれないし、他のクラスかもしれない」
「わ、私っ!クラスで話し合おうと思う!小鳥遊くんも・・・・・・いいよね?」
 後半ちょっと自信なさげだったが撫子は俺に問いかけてきた。
「いや、ダメだ。ニコに知られたらやばいからな」
「なんで・・・・・・やばいの?」
 撫子はその純粋な瞳で俺に聞いてきた。
「いっ、いや!とにかくニコには言うなよ。わかったか、撫子?」
「なんかはぐらかされた感じだけど・・・・・・わかった言わないよ」
 そう言って撫子は席に戻った。
 撫子が席に着いた瞬間、来たんだ。俺の妹がな。
「兄よ!我は今来たぞ!」
「お、おう・・・・・・やっと来たか、ニコ」
「どうした兄よ?やけにテンションが低いな」
「いやなんでもないよ!うん!」
「そうか・・・・・・まぁいい。で、そ、その・・・・・・」
 口ごもったニコはカバンから何かを取りだした。弁当箱みたいだな・・・・・・まさか!?
「お兄ちゃん!そ、その、おっ!お弁当を作ってきたから?食べてもいいよ?」
 テンパってるニコは俺にツンデレ口調で渡してきた。
 やってしまった!ニコは弁当を作っていたのか!もう机よりやばいぞ!主に俺の命に危険がやばい!
 ・・・・・・遅れてまで作ってきたんだから食うしか・・・・・・ないよな・・・・・・
 めちゃくちゃ男子から睨まれてるよ俺!弁当がそんなに羨ましいのか!じゃあ食ってくれよ!この毒を!
「アリガトウ、イモウトヨ、イッ、イタダキマス・・・・・・」
 とりあえず恐る恐るそのパンドラボックス(弁当箱)を開けてみた。
(いぎゃぁぁぁぁぁぁ!なんか触手が生えてる!これ食えるの!?つーかこれ地球の食材か!?)
 一言で言おう。これ料理じゃないよ絶対。
 弁当のおかずの本命である唐揚げから触手が生えている。ちょっとわさわさ動いているし。なんだよ!生きてんのこいつ!?卵焼きらしきものからは泡が立ってる。これ紫の液体だよね!?毒という名の液体!?煮物ってこれ何を煮たんですか!?炭を煮るか普通!?おぞましいな!・・・・・・あっ、炭じゃなくて食パンか。いやいやいや!普通食パンを煮込むか!?しかも焼いたやつ!
 米なんかもう禍々しい。米って洗ってスイッチ押せば完成するよね!?なんで赤いの!?真紅の米って怖いわ!何の液体で米炊いたのかいやな想像しちゃうよ!?つーか硬い!炊いてねぇだろ!?絵の具塗ったの!?調味料の紅色であってくれ・・・・・・たのむ・・・・・・
 弁当ってこんなにカオスなものだったっけ?俺の中の弁当のイメージが崩れていくな。
「さぁ!兄よ腹一杯になるまで食べるといい!」
 この状況っていうだけで既に腹いっぱいだよニコ。
「じゃ、じゃあ唐揚げから・・・・・・」
「おおっ!それは我の自信作なのじゃ!」
 ほう、ニコはエイリアンを作り出すのが得意なのか・・・・・・

 ぱくっ。

 そんな音を立てて頬張った矢先・・・・・・
「おおおおおおおお、おいおいおいおおい、おいししいいいいいいいよっよよよよよよよ!」
 ・・・・・・こうなった。
 動揺してるのがモロバレだよね!?これはばれたか・・・・・・
「そうかっ!よかったぞ!」
 屈託のない満面の笑み。それは女神のように慈愛に満ち溢れていた。料理さえまともだったら本当に女神だったのに・・・・・・
「じゃあ次は卵焼きを・・・・・・」
 ドロッドロしてる!これじゃドラ○エに出てくるスラ○ムだ!毒属性の!
「なあニコ・・・・・・この卵焼き何で作ったんだ?」
「卵を焼くときに硫酸を混ぜたのじゃ!化学式通りに作ったのじゃがなにか?」
 料理に化学を持ち出すな!俺個人としてはレシピ本見てほしかったね。うん。
 俺は恐怖しながらもこのスラ○ムを頬張った。スラ○ムにビビる・・・・・・って・・・・・・
「‥‥‥‥‥‥‥‥・・(バタン)」
「兄よっ!どうしたのじゃ!兄よっ!」
 意識が遠のいていく・・・・・・味の感想をひとつだけ・・・・・・
 卵焼き・・・・・・怖い・・・・・・

      ◆

 気がついたら俺は保健室のベッドに横たわっていた。どうやら気を失ったようだ。
 なんだ・・・・・・夢の中で神作ベスト100が復活していたのに・・・・・・
「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」
 っ!この特徴的な寝息は!
「っ!?」
 横でニコが添い寝をしていた。添い寝の刑再びか!?
 ニコの端整に整った顔が俺の顔と近い!あと何mmもあるかないか・・・・・・大きくて綺麗な二重の瞳は蕾のように閉じている。いつ花を開くのか緊張してしまう。ニコの特徴とも言えるサラサラでケアを怠ったことのないであろう銀髪から鼻腔をくすぐるような甘い香りがする。女の子の匂いってやつだろうか・・・・・・
「あっ・・・・・・お兄ちゃんおはよう・・・・・・」
「なんでお前添い寝してんだよ!誤解されるだろ!?」
「だってお兄ちゃんが倒れちゃってからもう7時間も経つんだよ?つい寝ちゃった・・・・・・ふにゃぁぁぁ」
「七時間!?嘘だろ!?」
 急いで時計を見た。現在8時ジャスト。早く帰んねぇと!
「ニコお前先に帰ってろ!教室から忘れ物取りに行ったら俺も帰るから」
「えぇぇっ!?嫌だよ!一人は怖いよ!お兄ちゃん!私も一緒に行く!」
「しょうがないな・・・・・・ほら行くぞ」
「うん!あっ、そうだお兄ちゃん。さっきなんで倒れたの?」
 やべぇ!この件を忘れていた!俺ニコの料理で7時間眠ったのか・・・・・・真実は・・・・・・
「お、お前の料理がうますぎて、たっ、倒れちゃったんだよ!ハハハっ・・・・・・」
「そうなんだ!じゃあ後であまりも食べてね♪」
 あ、悪魔との契約より恐ろしい・・・・・・
 おぞましい約束を交わして俺とニコは暗い廊下を歩いて教室に向かったのだった。

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