小説『俺の妹が中二病すぎて困る』
作者:陽ノ下 天音()

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〜第九話 だから俺の妹は綺麗なんだ〜

 時は六月。梅雨の時期。雨も振り続けてジメジメする。俺、小鳥遊悠騎にとって一番嫌いな時期だ。
 だって運動ができなくなるだろう?外に出ることができなきゃ走ることもできない。そのため、室内にいることが必然的に多くなる。学校内で室内と表せる代表的な場所は・・・・・・やはり教室だろう。
 俺がいる教室はオニセンがいないため自習時間だ。
 俺は今、その教室で妹に勉強を教わっている。『どこの世界に妹に勉強を教わる兄がいるんだ?』だって?いるじゃないかここに。中学時代から頭がおかしくなって今現在も運動と家事しか能がない高校一年生が。
 何より教えてくれているのは美少女(見た目は)で大学教授なんかにも全くひるまない超天才な自慢すべき妹だ。妹だからなんだ。神の前では皆平等。同じ人間なんだよ。
「兄よ、ここの式はaにこの数字を代入して・・・・・・」
 今教わっているのは中学生の内容。神よ、本当に君の前ではみんな平等なんだろうか?頭の作りが違いすぎるじゃないか!全然わからないぞ!
「全然わからん。小学生からやり直そうか・・・・・・」
「お、お兄ちゃん小学校からやり直すの!?」
 ニコが中二病モードを解除して過剰に反応する。そんなに反応しなくても・・・・・・
「お兄ちゃんが弟になっちゃう・・・・・・お兄ちゃんって呼べなくなっちゃう!で、でも私は・・・・・・お、おね、お姉ちゃんに・・・・・・」
 赤面して何か言ってる。いや歳は変わらないぞ。
「だ、ダメだよ・・・・・・ゆーくん・・・・・・私達は姉弟なのに・・・・・・」
 やばい、なんか変な妄想がニコの中に発生しているようだ。即刻止めないとやばいじゃ済まなそうだ。
「誰がゆーくんだ、誰が。妄想から帰ってこーい。」
「ふぇっ!?夢か・・・・・・ゆーく、お兄ちゃん大胆だったなぁ・・・・・・」
 大変だ。俺の妹は寝なくても夢が見れるそうだ。実質、妄想だけど。
 つーか通称ゆーくんことニコの夢の中の俺、一体ニコに一体何をしたんだ。
 ニコの妄想癖を改めて実感したあと俺は背後から声をかけられた。
「小鳥遊くん、勉強はかどってる?」
 第九話にして初めて登場。今話しかけてきたこいつが俺の幼馴染、学級委員の如月撫子だ。
 名前の通り大和撫子といっても過言ではない清楚な見た目をしている。ニコと同じくらいの髪の長さなのにきっちりぱっつんにしてある。その髪の黒はとても鮮やかでまるで夜空を表したようだ。スラッとしたボディーラインで出るとこはしっかり出ている。
 一番目を引くのはやはり高校生らしからぬ胸だろう。F以上はあると思ってもいい。目測でわかるくらい大きいのだ。制服にギリギリで収まっているという感じだ。
 ニコを大平原と例えるなら、撫子はアルプス、もしくはエベレスト×2と表せるだろう。
「なんで『大』がついてるのぉ!」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 久々に登場したサンダーガトリングにノックダウン。っていうかまた心が読めたんだな!?もしかしてニコは中二病じゃなくて本物?とか思った自分が恥ずかしい。
「まぁまぁ、ほんとに『大』平原なんですから♪しょうがないですよ♪」
 なぜか撫子が乱入。しかも今さらっと『大』の部分強調したな
「貴様!今さらっと『大』の部分を強調したな!我は脳に魔力が集中したから胸に魔力がいかなかったんだ!だ、だからその気になればすぐにでもおっぱいはおっきく・・・・・・」
「うん・・・・・・うん・・・・・・そうだね・・・・・・」
「哀れんだ瞳で見るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 ニコは教室をダッシュで出て行った。ちょっと泣いてたぞあいつ。
 ニコが出て行ったと同時に何人かの女子が撫子の元に寄って行った。口々に「よくニコさんと話せたね」だの「ほら今チャンスだよ」と笑いながら言っていた。チャンスってなんだよ。
 何人かの女子が半分強制的に撫子を俺の元に寄せてきた。
「あのっ!小鳥遊くん!えっと・・・・・・その・・・・・・今日の放課後、空いてるかな・・・・・・」
 撫子はなぜか赤面しながら俺に問いかけてきた。
 今日の放課後・・・・・・忘れもしない。今日はあの日だ。
「ゴメンな、今日だけは絶対無理だ」
「えっ?まさか・・・・・・ニコちゃん絡み・・・・・・?」
 そう言った撫子の目はほんの少しばかり潤んでいた。『ニコ』という単語を自らが言った時からだ。
「あぁ、ほんとゴメンな」
「・・・・・・・・・・・・ううん。いいよ」
 顔は笑っていたはずなのに・・・・・・雰囲気は全く笑っていなかった。
 その後ニコは教室に戻ってきたがやはり俺以外とは喋らなかった。
 なぜだろうか、今日はニコが俺以外とやっと会話ができたのに、撫子とも久しぶりに話せたのに、
初めて『学校が楽しくない』と思っていたんだ。

      ◆

 帰り道、梅雨にしては珍しく、夕方になぜか雨が止んでいた。
 俺がニコについていくようなかたちで帰路を歩いている。
「なぁ、ニコ・・・・・・」
「なんだ?我が眷属よ」
「お前、さ・・・・・・撫子のことでどう思っている・・・・・・か?」
「やつは何か他の人間とは違う気がするのじゃ。なにか・・・・・・我と同じ匂いがする」
 それがどんな共通点か俺にはわからなかったが、少なくとも撫子をよく思っているようだ。
「胸に関しては許せんがな!」
 ・・・・・・本音だろうな。
「もうひとつ質問だニコ。今日が何の日か覚えているか?」
 その質問を聞いたニコは驚愕してしばらく固まっていたがやがて口を開き始めた。
「・・・・・・・・・・・・覚えていてくれたの?」
 中二病モードは解除してくれてるようだ。
「当たり前だろ・・・・・・今日は・・・・・・んぐっ!?」
 柔らかかった。
 何が柔らかかったかって?
 ニコの唇だ。
 ニコは今俺に唇を押し付けてきたんだ。
 俺たちが歩いていた道はちょうど坂道。ニコは俺の正面から少し背伸びして俺の唇、初めてを奪っていったのだった。
「言わないでよ。思い出話は家で・・・・・・ね♪」
「・・・・・・あぁ、そうだな」
 俺は見た、頬を紅潮させながらも笑顔だったニコを。いつかみたいに夕焼けとあやふやにならなかった。
 その時のニコを俺は可愛いとは思わなかった。

 綺麗だったんだ。

 とっても。この世のものとは思えないくらいにな。
「・・・・・・綺麗だな。ニコ」
「ふぇ?何か言った?」
 俺のつぶやきはニコの耳には届かなかったらしい。
「いや、なんでも・・・・・・」
「ふぅん・・・・・・」
 ちょっとジト目で見てくるニコ。
「我はお兄ちゃんを信じているから疑ったりはしない・・・・・・よ?」
「なんで最後疑問形なんだよ!?つ、つーかあの場で、きっ、キスはないだろ!仮にも俺ら兄妹だぞ!?」
「義妹だからへっちゃらだよ♪お兄ちゃん♪」
「俺は・・・・・・」
「我は・・・・・・」
「「初めてだった・・・・・・」」
 見事にセリフがかぶってしまい俺とニコは赤面してそっぽを向いたのだった。

      ◆

 ちゃき・・・・・・ちゃき・・・・・・ちゃき・・・・・・
 カッターを出す音が聞こえる。
「ユルサナイユルサナイユルサナイコロスコロスコロス」
 ちゃき・・・・・・ちゃき・・・・・・ちゃき・・・・・・
 カッターを出す音が聞こえる。

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