小説『甲斐姫見参』
作者:taikobow()

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甲斐姫見参



              taikobow


一、大阪へ

 成田甲斐、成田家の長女であり、幼い頃実母と生き別れ忍城に住む。豊臣秀吉の関東攻略の際、小田原城の

北条家の傘下にある支城はことごとく攻め込まれ、この忍城を除く全ての城は開城した。

 そして一ヶ月以上も篭城した後、小田原城開城の後に豊臣勢の入城を許し開城した。甲斐姫はこの際、鎧兜

で変装し落ち延びたと言われる。そして氏長が会津に移封されると甲斐姫も従った。そして氏長は福井城に入

った。

甲斐姫は

 「この福井城に浜田将監という武将を召抱えたとあるがまことか。」

と聞いた。すると侍従の待女が

 「はい、そのとおりでございます。蒲生氏郷様のご意向で上方から召抱えたとあります。」

と答えた。すると甲斐姫は

 「そうか、蒲生が上方から。感心せぬな。我等成田が忍城での篭城を知らぬわけでもなかろうに。」

と言った。すると待女は

 「そうですね、何か裏がなければ良いのですが。」

と言った。

 そのすぐ後、伊達政宗が塩川へと進軍したとの知らせを受け氏長は出陣した。

氏長は

 「甲斐、留守を頼むぞ。浜田は信頼できる家臣じゃ。しっかりな。」

と言った。すると甲斐姫は

 「はい、父上。お戻りになるまでしっかりと城をお守りします。」

と答えた。

 その三日目の夜、浜田将監と浜田十左衛門の兄弟は謀反を起こす。

将監は

 「わっはははは、こんなものか成田の兵は。すぐにこの城は我等のものだ。」

と言って浜田兄弟は天守閣に立てこもる成田家譜代の家臣をことごとく打ち倒した。そして氏長の妻も手に掛

ける。それを知った甲斐姫は

 「おのれ、浜田の逆賊め。このままでは済まぬぞ。」

と言って槍を手に持ち、家臣十数名と共に離れの屋敷を出ようとした。そこへ浜田十左衛門の手勢が押し寄せ

てきた。

甲斐姫は

 「十左衛門、おのれこんな真似をして恥ずかしくはないか。」

と大声で叫んだ。すると十左衛門は

 「フン、どんなに武勇に優れていても所詮は女だ。男に勝てるわけはない。一気に潰せ。」

と言った。

 ジリジリと甲斐姫達に詰め寄る浜田の兵、そこへ甲斐姫は言い放った。

 「主に刀向かうとは逆賊の非人である。忠義のためなら命を惜しまない坂東武者の手並みを見るがいい。」

と言うやいなや前面にいた者の首筋に槍を突き立てた。その者は「うーーーー。」という呻き声を上げて槍を

手で掴んだがそのまま倒れた。すると周りにいた兵達は一瞬怯んだ。そこへ甲斐姫の護衛の兵達が一斉に槍を

突き出したちまち浜田の兵十数人を打ち倒す。

 浜田の兵は次々と倒され、総崩れとなって逃げ出した。浜田十左衛門は馬に乗って逃げ出したがそれを甲斐

姫が追いかける。

甲斐姫は

 「待てーーー、この弱い者。よくも我が母を殺したな。許せんぞ。」

と言って鬼の形相で追ってくる。浜田十左衛門は馬で逃げるが、とうとう甲斐姫達が追いつき十左衛門の馬を

取り囲んだ。

馬から降りた甲斐姫に十左衛門は

 「この小癪な小娘。返り討ちにしてくれる。」

と言って馬上から切りかかってきた。それを甲斐姫はひらりとかわし持っていた手槍で二度目の襲撃の際に脚

を突いた。十左衛門は馬から落ち転げまわっているところを甲斐姫が

 「この卑怯者め。死んで詫びろ。」

と言って十左衛門の首を大刀で跳ねた。

 甲斐姫の家臣の家永斎太郎は

 「姫、これからどうしますか。」

と聞いた。すると甲斐姫は

 「黒川へ落ち延びる。そこで態勢を整えてあの浜田将監を討ち取るのだ。」

と言った。甲斐姫に付添った兵達は「おおーーーー。」という歓声を上げて甲斐姫と行動を共にした。

 黒川へ行く途中、斥候の一人が戻ってきて

 「姫、あちらから松明を照らして進軍してくる軍勢を見受けます。おそらくお味方では。」

と言った。甲斐姫は
 
 「分かった。我れが先に行って確かめてくる。」

と言い馬を蹴り迫ってくる軍勢に向かって行った。するとそこには浜田兄弟の謀反を知って引き返してきた氏

長の姿があった。

甲斐姫は

 「父上、浜田十左衛門は討ち取りましたぞ。福井城は浜田将監が居座っておりまする。」

と言った。すると氏長は

 「おお、甲斐。無事だったか。よしこれから浜田を討ち取る。ついてまいれ。」

と言った。

 甲斐姫の手勢は氏長の軍勢について、また福井城へと戻っていった。そして蒲生氏の軍勢も加わり福井城を

囲んだ。それを苦々しく天守閣から見ている浜田将監。

 「なにをしている。早く逃げる道筋をつけろ。」

と言った。すると家臣の兵が

 「逃げるのでありますか。こんなに上手くいっていたのに。」

と言った。すると将監は

 「バカ者、これだけ囲まれたら我等の生きる術はない。」

と言った。

 浜田将監は天守閣からの階段を降りて地下へと向かう。そこから逃げ道へと続く坑道を通るのだ。

将監は

 「もっと松明を照らせ。危なくて歩けんわ。」

と言った。そしてようやく坑道から出たところで、待っていたのは甲斐姫だった。

甲斐姫は

 「将監、そなたの弟は討ち取ったぞ。観念せい。」

と言った。すると将監は

 「なんとも男勝りの女子よのう。十左衛門のバカめ。あっという間に討ち取られよって。」

と言った。すると甲斐姫は

 「心配ない、お前もすぐにそうなる。」

と言って槍を抱えて突っ込んだ。将監も大刀を抜き甲斐姫の槍の切っ先をかわしている。二度三度と攻防があ

り、両者互角の戦いをしていたが将監の脚が水溜りに取られすべった。それを見逃さず甲斐姫の槍が将監の大

刀を払い落とした。そして槍の刃で将監の右腕を切り落とした。

将監は

 「くっ、これまでか。我が首討ち取れ。」

と言った。すると甲斐姫は

 「良く言った。しかしお前は生け捕りだ。」

と言って家臣に命じて将監の体を荒縄で縛った。 


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