小説『甲斐姫見参』
作者:taikobow()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 福井城は成田氏長の手に戻り、浜田将監は吟味の上磔にされた。そして斬首され城外に晒された。

甲斐姫は

 「父上、母上の葬儀でごさいますが。」

と言った。すると氏長は

 「うむ、しかしこれだけ死者がいると我等の身内の葬儀は後になるな。」

と言った。すると甲斐姫は

 「分かりました。全て終わり次第行います。」

と言った。

 
 甲斐姫の武勇は周辺の国々にまで広まり、関白豊臣秀吉の知るところとなった。

秀吉は

 「三成、三成はおらんか。」

と大阪城の廊下をけたたましく走る秀吉の姿があった。それを見て江姫が

 「大殿様、何をそんなに急いていらっしゃるのですか。」

と聞いた。すると秀吉は

 「すぐに会津に使者を送れと思うたのに。いつも三成は肝心な時におらん。」

と言った。すると茶々が

 「大殿様、またよからぬことですか。」

と聞いた。すると秀吉は

 「茶々か、お前には聞かせたくはないわ。」

と言った。すると江は

 「また側室を設けるつもりですよ。全く何を考えているのやら。」

と言った。すると茶々は

 「福井城にいる甲斐姫が所望なのでしょう。浜田将監を討ち取ったという。」

と言った。すると江は

 「そうなのですか、あの浜田将監を。浜田はなにをしたのですか。」

と聞いた。すると茶々は

 「なんでも城主の成田氏長様の留守に城を乗っ取ったようです。それに怒った甲斐姫が弟の十左衛門共々、

討ち取ったのです。」

と言った。すると江は

 「そんなに凄い女子がいるのですか。それを関白さまが側室にしたいと。」

と言った。すると奥から出てきたねねが

 「殿はそういう女子が好きなのじゃ。全くあの性格は歳を取っても治らないわね。」

と言った。江は

 「姉様を側室にしたすぐ後にまたそんな女子を呼ぶなんて。」

とちょっと膨れた顔をした。すると茶々は

 「仕方ないでしょ。大殿様の言われることに逆らう者などいません。」

と言った。

 三の丸にいた石田三成はいきなり秀吉に

 「こりゃ、三成。何をしておるか。すぐに会津に使者を出せ。」

と言われた。すると三成は

 「会津にですか。すると甲斐姫を側室にするのを諦めてはいないということですか。」

と言った。すると秀吉は

 「そうじゃ、諦めてはおらんぞ。わしが足腰が立つ間はな。」

すると三成は

 「忍城開城の際は甲斐姫に上手く逃げられましたからな。全くあの長親という男は白を切って甲斐姫がどこ

へ行ったのかを言わずに通しよりました。」

と言った。すると秀吉は

 「そうじゃ、しかし甲斐姫が福井城にいると分かっていて何もせんのは良くない。わしが密かに甲斐姫に会

えるよう根回しをしておいてくれ。」

と言った。すると三成は

 「では殿、何時が良いでしょうか。」

と聞いた。すると秀吉は

 「来月の三日が良かろう。節句の日じゃ。」

と言った。三月三日の桃の節句に日程を合わせたのである。

 春の日差しが柔らかく水も温くなる三月三日、下野の国、小山での会食と相成った。名目は関東の視察とい

うことであったが秀吉の目的は甲斐姫である。

 小山にある屋敷でそれは行われ、秀吉が待つ間甲斐姫は衣装替えをしていた。そして雲が切れ日差しが屋敷

の広間を明るくするとそこに甲斐姫が現れ、すっと近寄り跪き頭を下げた。その美貌と所作の美しさに一同息

を止めていた。なんとも美しい姫がそこにいた。

秀吉は

 「おうおう、そちが甲斐姫か。なんと美しい姫であろうか。」

と言った。すると甲斐姫は

 「関白様にお会いできて嬉しゅうございます。」

と一言言った。

 後は豊臣側家臣と成田側家臣の無礼講で呑めや歌えの宴会となった。

 その間も秀吉は甲斐姫のそばを離れず、じっとその美しい顔を見入っていた。なんとも羨ましいが一つ秀吉

が気がかりな事がある。

 「甲斐姫には思う男はおらんのか。」

と聞いた。すると甲斐姫は

 「おりません、私は独り身ですし思う男などおりません。」

と言った。すると秀吉は

 「わしは聞いておるぞ。成田長親、あののぼうが好きじゃったのだろう。」

と言った。すると甲斐姫は顔を赤くして

 「そんなこと聞いてもらいましても困ります。」

と言った。すると秀吉は

 「そうか、そうか。まだ好きか。それでも良いのじゃ。」

と言った。しかしその顔は笑ってはいない。

甲斐姫は困ってしまって言葉を失ったが、そこへ秀吉と帯同していた江が

 「殿様、甲斐姫が困っていらっしゃいます。もうその辺で許してやってください。」

と言った。すると甲斐姫は

 「あなたは。」

と聞いた。すると江は

 「私は浅井長政の娘で江です。よろしくお願いします。」

と言った。すると甲斐姫は

 「あなたが江さま。甲斐です。よろしくお願いします。」

と言った。



-2-
Copyright ©taikobow All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える