小説『堕ちた物真似師』
作者:()

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表通りは昼間の喧騒が嘘の様に消え、辺りは肌寒く陰気な闇夜に包まれている。
真夜中の十時、空は暖かい西風が吹き、黒い雲が緩く流れる間からは、思い出したように半月が覗いていた。
ローグタウン街に立ち並ぶ街灯の光は、闇のなか朦朧とし、石畳の舗道の上に弱い光線をなげている。
ショーウインドーの黄色い光は闇夜の舗道に流れ出て、人通りの多かった往来を朧気に照らしていた。
こうした薄暗い光のなかに蠢く数少ない人間の悲しげな、また嬉しげな、或いはやつれ果てた、または楽しそうな顔、それらが暗がりから明るみへ、また暗がりへと出つ入りつしている有様は、それ自体が人生であるように眺められた。
そんなメインストリートから五つ目を右手へ曲がりくねった横丁に入ると、両側にやや明るい石造りの建物が並んでいる。
横丁の中心部に近づくと、明るく照明された商店や、それにもまして数の多いBarや賭博場で、横丁は賑わっていた。
無法者達は、犯罪で仕入れた沢山の札束を、そんな店で費消してしまうのである。

「あれが、『カジノ・ザ・ファンタジー』だよ、坊や。……へへっ、さっきは襲おうとしてすまなかったね?」

ボロボロの案内者はホテルかと思うぐらい立派なカジノを指した。

「ああ、道案内ご苦労様。これはチップだ、とっといてくれ」

そういうと子は一緒に歩いてきた男と別れ、鞄を手にして露地を入って行った。
子は店内に入るとすぐに店の匂いに包まれる。

ジューシーで女性のような甘さ。

ーーそう、まるでバブルガムの様な香り。

店の中は窓はなく時計もない。朝なのか夜なのか一切分からない空間の中に存在するスロット、ディーラーと客、コインの流れ出る音、そして客の歓声。

ーー夢の国。

子の心の中にそういうイメージが浮かび、心の中を早くカジノをしたい、ずっとこの場所に存在したい、そういう感情が激烈の勢いで駆け巡る。
その後、子はこれから待ち受ける大勝負に向け、目を閉じ集中し始める。
イメージするは頭の先から足の先まで極限まで鋭利に研ぎ澄まされた

……そう、”究極の勝負師”。

どんな状況でも穴を穿ち、貫き通す”全方位型の槍”

ーー”あの男”。

暫くすると子は目を少しずつ開ける。
その顔に現れたのは、ギャンブルに飢えた者の表情そのものだった。







▼▼▼







此処は、ダレンが一世一代の大博打を打っている『カジノ・ザ・ファンタジー』の社長室。
中は広々とした上質の大理石のホールがあり、快適そうな机や椅子、足載せ台、部屋の一面を埋めた本棚がある。
そしてこの高価な書物が入れられた本棚。
この本棚には仕掛けがあり、その絡繰りが地下室に導いていた。
明かりを絞った大理石の階段を降りていくと、ホールに続く部屋の、丈夫そうな木の扉が目の前に現れる。
その扉を開けると、客間にはあの社長室と対照的な質素な長テーブルがあり、黙り込んだ人々で埋められていた。

「……では次の議題だ。ニコ・ロビンの消息についてだ。何か進展はあるか?」

低く寂れた声が言った。

「オハーラの子の件なら捜索部隊の情報によると、彼女、色々な組織を転々としてるみたいね。そして現在の消息はまだ見つかっていないっチャブル」

独特の語尾が特徴的な声の男が答えた。

「……あの子は”世界と戦った国オハラ”の唯一の生き残りであり、我々革命軍にとって、”革命の灯”だ。……故に断じて政府の手にかかる事は許されない。イワ、捜索部隊が発見次第、直ぐに報せろ」

「了解チャブル」

イワが答えた。

「では、次の議……」

男が話し出すその時、あの重い木の扉が開いた。皆が其方に視線を向けると、そこにはいたのは此処のオーナーであった。
しかし様子がおかしく額は汗で光り、顔は真っ青だ。

「どうしたチャブル?」

イワが問いかけた。

「……ご報告がありまして……あの……その……」

困り果てた様に返答に詰まるオーナー。

「……何なの? ハッキリおし」

オーナーの煮え切らない返答にイワが苛立ちを込めて再度問う。
オーナーは気合いをいれる様に深呼吸をし、正面を向いた。そしてゆっくりと話し始める。

「……この店に小さな男の子が入店しているんですが」

「……はっ?」

イワ達が疑問の声をだす。
それもそのはず、此方にはめったに来ることのない男が来るのだから、何か店の者では手に負えない者でも暴れているのかと思っていたからだ。
それが小さな男の子だ、疑問の声もでる。

「待って!! 小さな男の子? 冗談を言いにわざわざここまで来たの?」

イワが問いかける。
するとオーナーは慌てながら、

「滅相もない!! 違います!!」

「……どういう事チャブル? 分かるように説明して頂戴」

イワはとりあえずオーナーに話しを続ける様に促した。

「はい……その男の子は入店した当初、周りをぶらぶらしていましたが、しばらくするとルーレットの席に着きました」

「……」

部屋の者達は黙って聞いている。
オーナーはというと、この重い雰囲気に冷や汗をかいていた。

「……さっきも言った通りまだ小さな男の子でしたので、ディーラーは初め、子供に帰宅する様に促そうとしましたが、その子は賭け金を多少なりともしっかり所持していたので、見方を変え、子供を客として捉えて仕事をする事にしたのです。しかし……」

オーナーは口を途切らすと、顔色が急に悪くなり体が震え始めた。どうやら話の一部始終を思い出してしまったようだ。

「……オーナ」


テーブルの一番奥から、先ほどの寂れた声が言った。
声の主は暖炉を背にして座っていた。その為遠くからは黒い輪郭しか見えなかった。しかし、影に近づくにつれて、薄明かりの中にその顔が浮かび上がってきた。黒髪の長髪、鉤鼻であり、顔の左側面には、顔面を縦断する紅色の大きな刺青がある。

「続けてくれ」

刺青の男が、呼ばれて驚いているオーナーに先を促した。

「っはい!! その後子供はしばらく賭けていましたが、賭け方がど素人丸出しで外してばかり。そうなると周りの野次馬たちも誹謗するのも必然的で、中には子供に対して侮辱発言をする客まで出てくる始末でした。しかし、子供はうるさがりはしましたが特に気にすることもなく、ただただ賭けていくばかりです。ただ、妙なところに視線を向けていましたが」

「妙なところ?」

イワが問いかけた。

「はい、ディーラが言うには子供はずっと”球”を見ていたらしいです」

「”球”を……」

刺青の男が考え込むように呟いた。

「う〜ん、でもそれはおかしい行為チャブルね。普通、ルーレットは台なんか見ずにディーラーを見るナブル。やるとしたら初心者かただの馬鹿チャブル。そうよね? イナズマ?」

イワがイナズマに言った。

「おっしゃる通りです。ルーレットの勝負の肝は、ディーラーの狙い目がどのセクションなのかを推理すること、ですので、チップを増やすには腹を探る勝負に自信がないといけません。」

イナズマがイワに同意する。

「はいその通りなんですが、彼は球をずっと見てばかりで賭けることに関心がないようでした。しかし、ついに彼が動き始めます。……そしてあれが”奇跡の序章”だったのかもしれません。……彼は始め1〜8までの八目を、ディーラーが投げてからセクションしました。そしてそれは当たりました。しかしあの場の状況的に、ディーラーが投げ込むのは1〜12までのファースト(1st)で、彼は八目賭けですので、当たる確率は二分の一に過ぎません。次に彼は20〜3までの八目で100万ベリーずつ賭けました。なので当たる確率は21%です……そしてこれも」

ここでテーブルの者達が息を呑む。

「当たってしまったのです。……つまり2800万プラス、連続的中です。しかし、こんなことまぐれでできることではありません!! 何か根拠がなければ。そして彼はというと、鼻歌交じりで余裕そのもの。ですので、それを見たディーラー、客も含めて彼の得体の知れない何かを感じ取っていました。」

この時、この場にいる全員が子供の異常さを感じとっていた。たかだか5〜6歳の幼児が、誰もがやらない戦術を使い一度も外さなくなった異常さに……。

「……7目1億4500万プラス、6目3億プラス……」

オーナーの体が再び震えだす。周りも子供が賭け目の数を減らしながら、徐々に賭けているセクションの真ん中に近づいてきていることに気がつき、身震いする。しかし刺青の男だけは、不敵にも笑みを浮かべていた。

「……そしてついに、”子供は最後にする”と発言しました。賭け金は……3目に1億ずつ……、ディーラーが球を投げました。子供は球を見ることに集中しています。子供が押さえたのは、00を中心に両側の1と27……そして子供はというと、押さえたあとはもうあらぬ方向を見て余裕な表情……そして球は……」

周りのものはオーナーの言うことに全神経を使って耳を傾けていた。
オーナーはふらつく体をなんとか支え、震える声でこう述べた。









「……球は……、00に落ちました。さ、33億プラスです……」

続く






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補足)
今回ルーレットで使用された台は、アメリカ式のルーレット台で、その特徴は、ヨーロッパ式が0だけなのに対し、0と00があるタイプです。
そして賭け方は、赤或いは黒に賭けるのがカラーベットで2倍。一点賭けのストレートアップベットでは36倍。また、隣り合う4つの数字に同時に賭けるコーナーベットや、同列の3つの数字に賭けるストリートベットなど多種多様な賭け方があります。
今回ストリートアップベットの配当は36倍で、控除率は、38分の2≒0.526(5.26%)よって、大部分でディーラー(カジノ)側に有利な数字になります。

追記
暫定的にタグに恋愛要素なしを追加しました。理由は、二日前くらいから急にお気に入り登録がめちゃくちゃ増えたので、ハーレムとかR-18を期待している人達を減らす為です。
……その結果、二十人くらいの方がお気に入りを外してくれました。
今現在お気に入りに登録してくれている読者の皆様、驚かせてすいませんでした。

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