小説『大長編ドラえもん のび太の宇宙大決戦!!【R-15】【完結】』
作者:はならむ()

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――壁の修理が終わり、ラクリーマとのび太の二人はプラントルームの中央にあるベンチでたそがれていた。

ラクリーマは傷だらけでまだ制裁された所が痛いらしくスリスリなでている。

「……にしてもあいつら……っ、ただ風呂場に入ってだけで本気でボコりやがって。手加減てモンを知らねえのか……?」

その横ではのび太はため息をついて酷く落ち込んでいた。

「ああっ……、しずかちゃんに嫌われちゃったかも……っ」

ラクリーマはそんなのび太を、まるで悪気がなかったかのようにニカッと笑う。

「いい経験になったじゃねえか。なかなかよかったろ?」


「よかったじゃないよっ!!
僕は何にも悪くないのにしずかちゃんにビンタされるし、壁を修理させられるハメになるし、どうしてくれんのさぁっ!?」

「うるせぇ!!てめえも何だかんだでハナ血噴き出してニヤついてたクセに言える立場かぁ!」

実に情けない。下らない口論へ発展するが、元はと言えばラクリーマが言い出したのが原因である。



「こんなしょーもない口喧嘩してても仕方ねえや。
これで止めにしようじゃねえか!!」

「ちょっ、それで終わらすつもり!?」

「うるせえなぁ。なら、『俺がワルかった。許してください』。これでどうだ?」

「くぅ……っ」

その謝罪の言葉からは全く誠意が感じられない。のび太は納得できるハズがなかった。


「本当にしつけぇヤロウだな。ならおれがしずかに謝っといてやるよ。それでいいだろ?」

「……わかったよ……っ」

渋々、承諾する。
ラクリーマは溜め息をついてのび太を変な目で見つめる。

「けっ、こっちはお前らを地球に無償で送るってのに、なんだその態度は?」

「なっ!?」

「あ〜あっ、ユノンの言う通り、もう地球に送んのやめよっかなぁ?」

彼の約束を放棄する発言に、のび太はその場で慌てふため始める。

「じょっ、冗談はやめてよぉ!その時はどうなるんだよ!?」

「まあ、おめえらはここにいても役立つことしなさそうだし……まあ死ねや」

「! ?」


顔色が一瞬で真っ青に。いくらなんでも無茶苦茶だ。


「クカカカッ!!冗談だよっ!」

「…………」

高笑いするラクリーマに対して、のび太は顔を膨らまして冷ややかな視線を送った。


「しかしなぁ、ただ送るのもこっちには全く利益ねえし。
条件つけようか!」

「条件……?」

そう言うと、ラクリーマは腕組みをして考え込む。
一方、のび太の方はあまりいい気じゃなく、心配そうな顔をしている。

もともと地球侵略を計画していた極悪組織、アマリーリスの頂点に立つ男だ。
とんでもない条件をつけてくる……のび太はそう思っていた。



……一分後、

「よっしゃあっ、決まったぜ!!お前らに2つの約束を果たしてほしい」

ラクリーマは顔を上げて、のび太の方へ向くと不敵な笑みを浮かべる。

「2つの……約束……なっ、何?」

「まずは第1……っ」


のび太は息を飲む。あからさまに無理なコトを言われたらどうしようか……。







「……俺はともかく、あいつらに地球のうめぇメシ、食わせてやってくんねぇか?」

「え……っ?」

「どうした?無理か?」

「そっ、それでいいの?もっとメチャクチャなコトを言われるかと思った」


「ああっ、地球に興味持ってる奴は沢山いるからな。
そんかわり、たらふく食わせてやれよ、あいつら大食いだからなっ」

意外にものび太にでも出来そうなことだった。ただ人数分的には無理があるが、そこはドラえもんの道具を使えばなんとか出来そうだ。


「もうひとつは……俺個人の頼み事だ」

「え?」

「地球の花や、植物を少し分けてくれ、どうだ?」

「どっ、どうして?」

ラクリーマは周りに元気に生い茂っている花や植物を見渡す。その時の顔は普段の彼からは全く考えられないような穏やかな表情をしていた。

「地球の植物を、ここの仲間に加えてやりてぇんだよ。別に地球の生態系を崩すほど持っていかねえからよ?」


「…………」


「この二つを果たすと約束すれば、お前としずかをちゃんと地球へ送りかえす。どうだ?」


のび太はそれを聞いて段々奮いだち、笑顔になり、そして得意満々な表情とラクリーマをグッと見つめた。


「わかったよ!!
それでいいなら僕にまかせて!!
とびきりのおいしい料理食べさせてあげるし、かわいい花を探しだして渡すよ!!」


「ほぉ、それは楽しみだな。期待してんぜ大将!」


ラクリーマはのび太に向かってとびきりの笑顔でガッツポーズをする。


この二人は生まれは違えど、端から見るとまるで仲のいい兄弟だ。それは誰が見ても承認するだろう。





「……ラクリーマを見てると毎日が楽しそうだね」


のび太はそうボソッと口にする。


「本当にそう思うか?」

「うん」

「……それはありがとよ」

するとラクリーマはズボン(というよりタイツ)のポケットに手を突っ込み、姿勢を正すと上を見上げる。

プラントルームはいつも明るいわけではない。
ちゃんと植物が育つように、朝夕夜になるよう照明が設定されていて地球さながらの朝焼けや、夕暮れが再現できるのである。

今はちょうど夕方あたりで、この室内は夕焼け色に染まっていた。


そうした中、ラクリーマは静かに口を開く。


「けど、それは違うな」


「えっ、違うの?」

「ああ、こんな楽しくできる時間はほんの僅かなだけだ。
俺らは『様々な銀河、星々、たまに他の種族の宇宙船を巡っては侵略、略奪』を繰り返す、いわば海賊行為をやっている。
ほぼ毎日はそれに費やしてるっていっても過言じゃねェぜ?」

「…………」


「今はお前らを地球に送るためだけに動いているからこんなに自由な時間があるが、ホントは俺とユノンはいつも徹夜してまで侵略や交戦の作戦を練っているから、寝てねえんだぜ?」


「……徹夜してまで大事なことなの?」

「前に言わなかったか、これは仕事、生活のためだって?
やるからには当然、効率のいい方法を考えねえといけねぇし、仲間の犠牲を出したくねぇしな?」

「…………」

実際、のび太はあまり想像できていなかった。
そういう行為をしたことのないためか、それとも単に理解出来なかったか、あるいは……。


「犠牲を出したくないって……侵略してるってことは住んでいる人達の物を奪ったり殺したりするんでしょ?
なんか……言ってることが矛盾してるような気がする」


「そんなの敵は敵、味方は味方だろうが。
俺ら以外にも同じ性質の奴らは宇宙には、わんさかいるぞ」

「けどさぁ……」


ラクリーマは息を入れ直して、顔を下げているのび太の肩に手を置いた。

「あのなぁ……侵略は一概に全て悪いワケじゃねえよ」

「……どうゆう……コト?」


「教えてやろうか。『移民』だ」

「移民?」

彼に自信げな表情でそう言った。

「……この宇宙にはな、異常気象、天変地異、戦争……何らかの理由で故郷の惑星をなくし、宇宙をさ迷っている種族がゴマンといるんだ。

俺らは惑星を移住する気はない、遊牧組織、簡単でいう海賊みてぇなもんだ。

“俺らが侵略し、根こそぎ取る。しかし惑星自体は無人になり、肥やしとなる。そしてさまよっている移民種族がその惑星を見つけ、移住する”。
――つまり、俺達はそいつらが移住できるよう、一役買ってるってワケだ」


……なるほど、確かに一理ある考えだ。
しかし、それには数々の問題が出てくる。

“そのために狙った惑星に生存している者、全てが犠牲になってもよいのか?”

“引っ越してきた移住種族が住む惑星をもう襲わないと言いきれるか?”

……などなど、挙げるとキリがない。


「異星人が住める星と、住めない星。その惑星環境に適応する種族と適応しない種族。世の中、都合よくいかないことばっかだ。
だがな、こんな世界ほど楽しく面白いことはねえな!」


と、大声でそう解釈する。
なんと独特の考えを持った男なんだ、ラクリーマは。

「……コーヤコーヤ星を思い出しちゃった。
ロップル君やチャミー、あとクレムちゃんやモリーナさんや住む人達は今、元気かなぁ?」


コーヤコーヤ星。以前、のび太達が行ったことのある『ガルタイト』と呼ばれる鉱石が採掘できる開拓途上惑星で、そこに移住した少年、ロップルとそこに住む人々と仲良くなり、友情を育んだ。

そしてそのガルタイトを狙う悪徳企業『ガルタイト鉱業』の悪巧みにより一時、惑星崩壊の危機に遭うも、のび太達の活躍により、その危機は救われたのだった。

そう言えば、ロップルたちも他の惑星から移り住んだ移民種族だ。

「ほぉ、コーヤコーヤ星を知ってるのか?
地球から相当離れた惑星だぜ?」

「えっ、ラクリーマ知ってるの?」

「ああっ、ガルタイトが採れる惑星だろ?行ったことはねえが話は聞いてる」


するとのび太はおそるおそる彼にこう質問した




「……まさか、コーヤコーヤ星を襲うワケないよね?」


「へっ、襲わねえよ。あんなとこ、襲ってもなんの利益になんねえし。
ガルタイトなぞ、せいぜい『Bランク』のエネルギーしかならねえからな。

ニュープラトンさえあれば事足りる」


「ニュー……、なんかよくわからないけど……襲わないんならよかったぁ……」
のび太は安心し、大きなため息をついた。
しかし、



「だがな、今後、俺らに一目置かれるような発展をすれば……侵略するかもな」


その言葉が、のび太の一瞬で顔色を変えた。


「やっやめてよ!!あそこに友達がいるんだよ」


「……友達だと?」


……のび太は彼に教えた。コーヤコーヤ星のことを、ロップルたちのことを、全てうち明かしたのだ。


「………そうか」

「…………」


二人の会話は止まり、静かになった。
ただ聞こえるのは、機械によって植物に与える水を振りまいている音だけだった。


「ワリィが……たとえ友達がいようが、そこまでは守れねぇな」

「ええっ!?どうして!?」

「こっちにもやり方ってもんがある。お前にどうこう言われる筋合いはねえ。

所詮、全種族は繁栄したらいつかは必ず没落する。そんなもんだ」


「ーーーーっ!」


のび太は、今にも泣きそうな顔をして彼にこれでもかというくらいに睨み付けた。


「なんだ、文句あるのか?」


「……くくっっ!」


それとは逆に、ラクリーマは平然とした態度をとっている。
のび太はさらに怒りを募らせるのであった。

「……なら、取引すっか?」

「……取引?」


突然、ラクリーマはのび太の右腕を掴み、ベンチに押しつけた。

(ギャン!!)

「! !」

鈎爪を突出させ、その右腕へ向けた。
銀色の光を放った鋭い爪が照明によってさらに輝きを放っている。


「てめぇの右腕を切り取って俺に差し出せば、コーヤコーヤ星には近づかねぇと約束する。これで手を打とう!」

「ええっ!?」

のび太は目が飛び出るほど、驚愕した。

「右腕が嫌なら左腕、それも嫌なら片方の目ん玉か足でもいいぜ。それでも嫌ならしずかに代わってもらう」


「むっ、むりだよぉ!!」

ラクリーマはまるで鬼のような形相で、彼に悪夢のような選択を押しつけた。


「それでも嫌なら、俺を今すぐ殺すか。ある意味そっちのほうが手っ取り早いか。
最も、その場合は俺もお前を容赦なくぶち殺すけどな!」

「ん……ああっ……」

「俺はこのまま待ってやる。時間はいくらでもあるから好きなだけ考えろ。

ちなみに逃げたらどうなるか……わかってんだろうな?クックック……っ」


ラクリーマはニヤニヤ笑いながら鈎爪を構えている。
一方、のび太はあまりの恐怖でガタガタ震えている。


ーー決められるワケがない。

どっちを転んでも地獄だ。自分が苦痛を食らうか、もしくはしずかに……いや、これは男として 、いや人間として最低な行為だ。

殺そうにも、その時はラクリーマは本気で襲いかかってくる。
あの訓練で見た通り、この男の戦闘能力は桁違いだ。
射撃を抜いたら能力など軒並み以下であるのび太には天と地が転ばない限り、勝ち目はない。

逃げたら間違いなく……。

もう完全に八方塞がりな状態である。

「のび太、そんなに大切ならここまでする覚悟があるんだろうな?
さぁ、どうする?俺はどちらでもかまわんぞ」


彼の眼を見ると、冗談で言ってるようには思えない。

『本気だ』

痛烈に感じさせる。

「へっ、ただ五体のどれかを捧げるだけで、その友達はおろか、コーヤコーヤに住んでいる奴らの存亡の脅威が一つ減るんだ。
そう考えたら安い取引じゃねえか?

もし俺がお前の立場なら、喜んで右腕を差し出すがな」


見せられる度量の違い。
子供だろうが大人だろうが関係ない。


「きっ……決められない……よぉ!」


「…………」


のび太泣きべそをかきながらそう回答した。


「……フフッ、こえェだろうなぁ。まだ子供のくせに身体の一部を失うかもしれねぇなんて……考えられねぇだろうな。
だがそれはお前が決めたことだからな、俺はお前からその『決意表明』をもらえばそれで済むがな」
ラクリーマの笑みはさらにのび太を追い込むことになる。

「なんで……こんな……」

「なんでかって?クククッ……」

彼は震えるのび太にこう答えた。

「『こんなこと』を平然とやるのが俺たちなんだ。わかってんのかのび太?」

その時の彼の顔はまさに悪党そのものであった。

……ラクリーマは取り押さえていたはずの右腕を離し、鈎爪も引っ込ませた。


「あれ……やめるの?」


「こんなんじゃあ全く決まらなそうだ。もういい」


「じゃ……じゃあ……?」

「もちろん、取引不成立だ。何にも変わらねえぜ」

「ううっ……」

彼はまた泣き出してしまう。ラクリーマも彼の泣き顔を見て、とても情けなく感じるのだった。

「ハァ……俺はこんな泣き虫に早撃ち負けたのか。情けねェぜ」


「…………」


今度はどんよりとした空気が二人を包む。
しかし、ラクリーマにとって、そんな雰囲気が耐えられないのであった。


「あ゛ーーっ、こんなしみったりぃ話はやめようぜ!!

おっ、そうだ。お前らに聞くの忘れてたが……どうやってエクセレクターに乗り込んだんだ?」


「それは―――っ」

のび太は彼に経緯を全て話したーー。

ラクリーマは非常に興味津々な表情で聞いていた。
もう深紅の瞳がさらに輝きを放っている。

「未来から来たロボットかぁ。そりゃあいい、俺もぜひ会ってみてぇな!
のび太、地球に寄ったらぜひ会わせてくれ!!」


「うっ、うん……」

「イイ奴だなお前はよぉ!!」

腕をのび太の首に絡ませてグイっと引き付けた。
幾分の年下であるはずののび太が恥ずかしくなるほど、子供のような笑みではしゃぎまくる。
しかし、これこそが本来の彼の姿なのである。


「そのドラえもんてのは、友達なのか?」

「うん。ケンカしちゃうこともあるけど、僕の大切な親友だよ!!」


のび太のはきはきした声からは、嘘ではないことを物語っていた。

ラクリーマはそんなのび太を何か暖かい眼で見つめる。

「……ラクリーマ?」

「……」

彼はあることを思い出していた……。

……………………………………
5年前、こと座M12宙域、惑星サミドール。まだ宇宙海賊だった頃、
侵略過程でリバエス砲を惑星に撃ち込んだが、出力を間違えて、惑星の中心核に異常を与えてしまい、惑星崩壊の刻が迫っていた。

しかし宇宙海賊のキャプテン、エルネスは侵略はすれど、惑星崩壊までは望んでいなかった。
彼は考えた答えは、責任をとるべく自らニュープラトンの膨大なエネルギー爆弾を直接、中心核に撃ち込み、安定させることに決めたのだが……。

「エルネス、待て!なぜ関係のない惑星一つ如きで命を捨てようとするんだ!?」

「何故かって?
……惑星の質量を計算したにも関わらず、リバエス砲の出力を間違えるようじゃあ俺はもう終わりよぉ。なら尻を拭くのは俺だ」


「バカなことを言うな!
お前は宇宙海賊には必要な人間なんだ!それに他にも方法が……」


「ふふっ、俺の後継者ができたから俺は行くんだ」

「……後継者だと?」

「おうよ。ラクリーマ、お前がやるんだ。部下を……仲間を、ランを大事にしろよ!」

「…………」


……………………………………

「……ラクリーマ?」


「おっ、おおっ!?どうした?」


のび太の呼びかけに反応し、慌てて返事を返す。


「ぼぉーっとしてたけど、どうしたの?」

「いっ、いやなんでも――。そろそろ俺は仕事に戻る。お前はまだ居たいならいろ」

「うん。そうする」


ラクリーマは立ち上がり、のび太に背を向け、歩き始める。


「のび太?」

「え?」


彼は顔を振り返り、歯を剥き出しにして笑みを浮かべながらこう言った。

「取引不成立といったが、終了とは言ってねぇからな。その気になったら俺んとこにこい。
その時はまた取引してやる」

「なっ!?」


「もし俺を殺したかったらそれでもいいぜ。
部下から実弾銃を借りるなりして……いつでも殺しにこい。俺は逃げも隠れもしねえからよぉ」

「……」

何をここまでこだわるのか、彼には全く理解できなかった。
本当に真理は全く図りしれない。







しかし、




(ズ ド オ オ オ ッ ! !)




「うわああああっ!」

「なっ、何事だ!!」


突然、艦内に激震が発生する。

(ヴィーーッ、ヴィーーッ)

“緊急事態、緊急事態。各員戦闘準備!
総司令官は直ちにオペレーションセンターへ集合、繰り返す……っ”

サイレンと共に放送が入り、艦内に緊迫が走る。


ラクリーマはのび太をそこに置いて、すぐに全速力で走り出した。

(敵か……もしくは何かが衝突したか……?)


一体何が起こったのだろうか。
しかし、彼はこんな状況にもかからわず笑っていた。

まるで何か楽しみ一つを見つけたかのように。

だが、今はそんな暇などない。

――彼はひたすら目的地へ走っていった。

-25-
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