……………
……やめて!
彼女は耳を塞いでいる。何故なら、
(気持ち悪いんだよ、そんなに自分の血を見るのが好き?)
(趣味ワリィなぁ〜〜っ)
(死ねばいいのに!!)
“ううっ……。あたしだって好きでしてるワケじゃない!!
こうでもしないと――!!”
周りには今まで彼女を馬鹿にした奴らの顔が浮き出て、高笑いしながら視線を彼女に注目する。
(へへっ、美人がそんなことして……知られたらさぞかし変な目で見られるだろうな……)
(おいおいっ、やめろよ♪可哀想だろ……ってか、止めれないくせに♪)
(俺達が手伝ってあげましょうかぁ〜♪気持ちよくなるために……)
彼女の顔は一気に歪み、このままで本当に心が病んでしまいそうだった。
“チクショォォっ!!どいつもこいつもあたしをバカにしやがってぇぇっ!!
全員死ねっ!死ねぇっ、死ねぇぇぇぇぇ!!”
………………
「!!」
目を覚ますと、部屋のベッドの上だった。
「〜〜〜〜〜っ!!」
休むために寝たはずが返って夢のせいで精神的に異常をきたしていた。
「ううっ!!」
反射的にまたカミソリで手首に当てて切ろうとするが……。
「ああっ……あ!?」
いつもならもう切っているのだが、今の彼女には色々な思念が混ざり合い、思いを遂げるのを遮っていた。
「ハァ……ハァ……っ」
カミソリを床に叩きつけ、腕に歯形がつくほど噛みついた。
“気持ち悪い、そんなのわかってる!!”
また涙を流してしまい、彼女は自分が一体何がしたいのかわからなくなってしまっていた。
「よお、起きてるかぁ!?」
「! !」
レクシーが起こしに部屋へ入る。彼女は汗だくで青ざめた顔をしていた。
「おっおい、どうした?大丈夫か?」
彼の気遣いに反して、彼女は挙動不審そうな視線をしながら頷いた。
「……ならいい。もう作戦開始だからいくぞ!」
そういえば別の惑星を侵略するってラクリーマが言っていた。
彼女は今思い出した。
「起きたなりで悪いがついてこい。格納庫に案内する」口10;
今日の彼の声は恐ろしいほどに怖かった。
昨日のような優しそうな柔らかい声ではない。
それは目標惑星の住民にとっては惨劇となることを物語っていた。
彼女は言われるままにレクシーについていく。
彼は全く喋ろうとしない、それは今から始まる仕事に集中している証拠であった。
「…………」
彼女は歩きながら、左腕をギュっと握っていた――。
――長い通路を抜け、二人がやって来た場所は、
(うわぁ…………)
彼女の口は空いたまま塞がらなかった。
無限と思えるような無機質の空間には横にズラっと統制されて配置している、全長10m以上はあろう全身機械の巨人が何十、いや百は越える数が並び、その前には、全体が赤色のさまざま兵器が搭載してそうなフォルムを有する戦闘機がやはり、それらと平行になるよう並んでいる。
(すごい……初めて見たわ……)
口10;
驚きを隠せないユノンに対し、レクシーは自慢そうな表情で彼女を横目で見た。
「すげえだろ?あの巨大なメカは『スレイヴ』ってんだ。
けど、今回は惑星侵略だからこの『ツェディック』を使用する、早く乗るぞ」
レクシーに連れられて、『ツェディック』と呼ばれる例の赤い戦闘機に乗り込んだ。
“パチっ……ウィーン……”
不思議なほどに広く感じる操縦席に座り込むとセンサーが反応して自動的に起動した。
しかし、レクシーは目の前の操縦幹を握ろうとせず、モニターに目を通していた。
“戦闘員、配置は完了したか?”
モニターに映るのはラクリーマであった。どうやら彼も別の同機体に乗り込んでるようだ。
「12号機レクシー、配置完了しました」
その旨を伝えると、突然ラクリーマはニヤっと笑った。
“レクシー、ユノンはいるか?”
「へい、隣に着座させてます」
“そうか、ちょっと変わってくんねえか?”
「了解。おい、リーダーがあんたに話があるそうだ」
レクシーが前のボタンを押すと、彼女の前にあるモニターが起動した。
彼女はそのモニターを見ると、ラクリーマはいかにも楽しそうな目をしながら彼女を見ていた。
“よお、ここでの朝のお目覚めはどうだ?”
「…………」
悪いに決まってる。こんな状況且つ、あんな夢を見たのなら。
“……あんまり良さそうじゃねえな。
まあ、それもあと一時間後にはキレイさっぱり吹っ飛ばしてやる”
もしかしたら新たな快感味わえるかもよ、破壊や殺戮によ?”
「…………」
この言葉が彼女をゾッとさせる。
この男は自分よりはるかに異常だ。
「よし、あと30分後に目標惑星に到着するぞ、それまでは待機だ。ユノン、それまでレクシーに聞きたいことがあったら好きなだけ聞いとけ、こいつは真面目だからちゃんと受け答えしてくれる」
そう言い、彼は通信を切ってしまった。
「…………」
「…………」
……案の定、全く喋ろうとしない二人には非常に気まずい空気に包まれていた。
(喋った方がいいのかな……。けど……何を聞けば……)
質問内容を見つけようとして考えようとモジモジしている彼女を彼は急にため息を突きだした。
「そんなに気を使わなくてもいいさ。
まあ、あんたのその性格だとしょうがねぇのかもしれんが、そんなんじゃあここではやっていけねえぞ。
全員のノリはハンパじゃねえからな」
――もう自分をここに入れる方向に進んでいる。
彼女の意思とは無関係に前に行くのは何か腹立たしかった。
「……ねぇ……?」
「おっ、ついに喋ったか。どうした?」
声は小さかったがユノン本人から話しかけたのだった。
これは自分でも驚いている。
「……確か……アマリーリスって名前よね……。
凄い技術……使ってるようだけど……どっ…どんなエネルギーを使用してるの……?」
「いきなりエネルギーの話か?あんたはそれ関連のことに詳しいのか?」
「ええ……まあ……」
「なら話は早い。アマリーリスの技術を支えているのはNPエネルギーってもんだ」
「ニュープラトン……ですって……」
彼女は驚愕した。
「知ってるのか?」
大学の授業で聞いたことがある稀代の産物。
けど確かあれは銀河連邦が独占していて他の種族には使えないハズでは……。
「――くくっ、美人で且つ頭がいいなんて恵まれてんな。
羨ましいぜ。あんたがここに入ってくれればもしかしたら――」
「えっ……どうゆう……」
「――もうそろそろ始まるぞ。まず惑星に主砲撃ち込むから、揺れに気を付けろよ」
「主砲……」
そしてまた、モニターが入り、彼が画面に現れた。
「目標惑星に到着した、すぐさまリバエス砲を撃ち込む。各員、衝撃態勢をとれ」
「了解!」
レクシーはすぐさまベルトを締め始める。
「あんたも早くベルトを締めろ。もう行くぞ!」
「えっ……ああっ……」
言われた通りにすぐに締め、身体を固定する。
次の瞬間、
格納庫が地震の直撃を喰らったかのように震え出した――。
無論、戦闘機内部である。
「きゃああっ!!」
揺れに翻弄されている彼女に対し、彼は全く動揺せず、落ち着いていた。
これは彼、いやここにいる全員にとって日常茶飯事であることを物語っていた。
……数十秒後、揺れが治まり、全体が落ち着き出した頃、
「〜〜〜〜〜っ!!」
「……初めてなら無理もないか。だが何回も味わえば、じきに慣れるもんさ」
ユノンはまるで二日酔いにあったかのように頭を押さえてうずくまっていた。
生まれてきてからこれほどの震動は味わったことがなかった。
しかし、その横でピンピンしている彼の姿に唖然とした。
“やっぱりこいつらはおかしい”と心底思うのだった。
“よおし、惑星に主砲を撃ち込んでほぼ壊滅状態だ。
俺がいつも通りに先頭に出る。順番に発進だ!”
「了解、よし出るぞ!」
慣れた手つきでパネルを操作した後、操縦幹を握りしめた。
前方を見ると、格納庫の出入口が全部閉まり、ターンテーブルのように全機体が回転、壁の方に向く。
すると壁が上下に開き、一機分が通過できるほどの空洞が現れた。
「12号機、発進!」
そして、
「っ…………っ!」
急発進し、物凄いスピードで空洞を駆け抜ける。
その内部衝撃も、ベルトや気を緩めたらたちまち体ごと吹っ飛ばされそうだ。
そして、宇宙空間に突入。速度も安定し、広大な光景を前にしているにもかからわず、彼女はそれを見る余裕はなかった。
「ううっ……気持ち悪い……」
「おいおい、ここで吐くのはホントにカンベンしろよ。深呼吸して外でも見てろ」
言われた通りに大きく息を吐き、横のウィンドウを眺める。
……まともに見る宇宙空間はどんな心境だったんだろうか。
彼女はまるで心を奪われたかのように見つめている。
「ユノン、逆を見なよ。俺らの母艦だ」
「…………えっ?」
次の瞬間、彼女は息を飲むことになる。
一面の白銀がどこまでも続いている。前を見ても船首か船尾か分からないが、とにかく終わりが全く見えないのだった。――その方面の上を見ても下を見ても宇宙空間らしきものが全く見えない。
――この宇宙船……とてつもなく巨大だ。彼女は確信した。
「デケェだろ?」
「………………」
頷くしかできなかった。表現のしようがない。「デカイ」しか思い浮かばなかった。
「なら、惑星に向かうぞ。大気圏突入するから、また衝撃に備えろよ」
またか……。さっきの気持ち悪さがまたぶり返ると思うと気が引けてくるのであった。
……そして、やっと船首を突き抜け、惑星が見えかかった時、
(……ああっ……なんてこと……)
彼女は惑星の凄惨さに思わず口を押さえた。
上の丸い表面の3分の1がなくなっている。
どういう風に?そのままの意味である。
巨大な丸い石をハンマーで叩いたらその上の部分がボコっと割れたように例えるのが分かりやすい。そんな感じだ。
この有り様では直撃を外れた惑星内の土地でも壊滅的な被害を受けているに違いない。
“よし、惑星に降りるぞ。作戦の通り、今回はチームに分けないで固まって行動だ。
着陸したら各員は俺を中心に周りを散策だ。
降りる場所は一都市だが、そんなに大きくはない。すぐに終わらして別の場所に移動するぞ!
ちなみにレクシー、ユノンがいることだしお前は俺と一緒に行動な。保護しながら俺をサポートしてくれ”
「うっす!
……つうワケだ。俺らから、はぐれんじゃねえぞ?いいな?」
「…………」
今から何が起こるのかは分からない。しかし、絶対地獄の見るのは確かだ。
元々、強制的に連れてこられた彼女からしたらもしかしたトラウマを植え付けられるかもしれない……喉が乾く、唇も乾く、まだ二十歳くらいの女性がなぜこんな目に遭うのかと思いたくなる。
――思えば生まれてきてから全くいいことがない、常に空虚な人生だ。今に始まったことではないが彼女はもう、泣きたい思いである。
――そして、ラクリーマ率いる戦闘員の搭乗する各機はその惑星に突入していった。
……………………………………
激震する惑星内、主砲の一撃でどれだけの命を奪ったか計り知れない。
しかし、直撃圏内でない土地も多大な被害を受けていた。地形が大幅に変わったことにより、
地震は起こり、津波も起こるなどの自然災害も多数発生し、平和な世界が一瞬で終わりを告げたのだった。
惑星内のとある土地の上空、黄緑色をした空をしたなんとも奇妙な光景である。
しかし、雲がないことからこの周辺は快晴であることをしめしていた。
“ここに降りるぞ、降りたら俺の合図で出てこい、そこから作戦開始だ!”
「ユノン、聞いたか……って」
彼女は完全にへばっていた。体を鍛えてない彼女には度重なる衝撃の前にはいくらなんでもきつすぎたのだった。
しかし、彼はもういい加減見飽きたのか、歯ぎしりを立てだし……。
「シャキッとしねえか!!」
突然の渇に彼女はビクッと起き、ひきつった顔でレクシーを見た。
その時の彼の表情は威嚇しているような恐ろしい顔だった。
「いい加減にしてくれ!あんたがそんなんじゃオレのやる気も失せる。
守られる側ならまだしも、俺はお前を守りながら行動しねえといけねんだぜ?」
「〜〜〜〜〜っ!」
……あんたらが私を勝手に連れてきたくせにその言い方はなんだ。
反論したい、一発殴ってやりたい……ところだが、見ての通り、ここは上空だ。事故を起こしたら墜落して完全にあの世行きだ。
しかも、彼は武装をしている。興奮させてケンカ沙汰になれば、丸腰の自分では明らかに勝ち目はない。
よって、選択肢は『従う』しかない。
彼女は震える手をギュッと握りしめて何とかこらえたのだった――。
……降り立った場所は、この星にとっては『都市』と言える場所であった。
が、地震のあったせいか、見るも無惨に倒壊した建物があちらこちらにたたずんでいる。
――全機を着陸させる広大な場所が見当たらないため、彼らは上空を飛び回っていた。
“各機へ、今からXK方位の50メルト先の所に光子ミサイルを撃ち込む。退避しとけ!」
彼の命令に、各機はラクリーマの乗る機体から散開する。
“ターゲットロック、ハデにぶちかましてやる”