……武器倉庫。艦内の全隊員の装備品一式が保管されている場所である。
拳銃やライフル銃、光学兵器や重兵器などの武器系統は勿論、ガスマスクや弾装、弾薬やエミリアの言っていたシールドといった装備品なども保管されている。
彼女の専用武装『テレサ』、『ユンク』も普段はここに保管している。
ドラえもん達が彼女に連れてこられた場所は、何やら高さ、幅……はわからない位に広くそびえ立つ金属の箱だ。
よく見ると、『とって』がないが引き出しのような四角い区切りがあるのが分かる。
彼女はリフトを使い、約4m程の高さに上り、その『引き出し』部分に手を当てた。
『ウィィーン……』と静かに引き出しが開き、中にはまるで昔のレコードみたいに分厚く幅広い円盤と四角い電池みたいな金属物質が納められていた。
それらを取りだし、引き出しを閉めて、三人の側に移動した。。
「これがシールドよ」
その2つを三人に見えるように掲げた。
「これがシールド……ね」
「どうやって使うんですか?」
「使い方はいたって簡単よ。まずこれをお腹の部分につける。
そして、真ん中のボタンを押すだけ」
彼女がいった通りに動作するととその円盤の四方からそんなに強くないほどの蒼白い光が放出し、彼女を取り巻いた。
「これでシールドは展開されたわ。試しにタケシくん、あたしにパンチしてみて?」
「いいんですかホントに……」
「ええっ、本気でもかまわないわ」
「なら……うおりゃあ!!」
彼は本気で彼女に拳を振り込んだ。が、
エミリアの周りにエネルギーの膜が展開されて、拳が膜に衝動した瞬間に弾け飛んだ。
「うわあっ!!バチバチしたぁ〜〜っ」
「すごぉい!!」
三人はシールドの効果に目を奪われた。
「これで大体の武器は防げるわ。けど、あまりにも威力が高い攻撃や連続で攻撃を受け続けるとエネルギー切れでシールドが破壊されて効果がなくなるから注意が必要よ。
もしエネルギーがなくなったらこのカートリッジで回復させることが可能よ」
突然、ドラえもんは急に大きく息をはいた。
「よかったぁ〜。『バリヤーポイント』は点検でドラミに預けてたからどうしようかと思ったよ〜〜」
「たくぅ。こういう時に限っていい道具を持ってきてないんだから……」
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そうスネ夫は本人に気付かない声で愚痴っていた……。
「それであなた達も何か武器を持った方がいいわ。
けどあなた達には殺傷をさせたくないから、なにか気絶させる程度の武装があれば……」
「それなら……えっと……っ。『ショックガン』、『空気砲』、『時限バカ弾』、『ひらりマント』…………『マイク』……『こしょう』……?」
ドラえもんはポケットから色々な道具を引き出したが中には変な物も混じっている……。
「二人とも、好きな道具を選んで!
これで気絶か一時しのぎぐらいならなんとかなるはずだ」
「サンキュー、ドラえもん!」
ジャイアンとスネ夫はそれぞれの道具を選び持っだ。が、
「おお、マイクがあるじゃねえか。何か歌いたくなってきたなぁ……。
ならここは景気づけに一曲……」
「「うわあああっ!!」」
ジャイアンがマイクを手に取った瞬間、ドラえもんとスネ夫は急に慌てふため始めた。
「ジャイアン!!今は抑えて!!ねっ!?」
「ここじゃなくてもっと良いとこで歌いなよ!!」
「そうか……」
二人に説得され、彼は手を下ろす。
止めたことで二人は内心ほっとしていた。
それもそのハズである。ジャイアンは歌うのが好きなのだが、肝心の歌のほうは壊滅的に音痴であった。
たまに空き地でリサイタルを行うが、そのたびに呼んだ人を恐怖と絶望のどん底に叩き落す。
中には『これだけで人を殺せる』と言った人がいるほどであり、二人が止めたのは正解である。
「…………?」
そのやりとりを事情の知らないエミリアはただポカーンと見ていた。
「ようエミリア!」
4人の元に一人の男性隊員が現れた。皮膚がまるで赤く、髪の毛がない代わりに鬼のような角が生えてる以外はジャイアン達地球人とほぼ同じ容姿であった。服装はエミリアと同じで違う所は襟についている職種を表す職章の形が違う所である。
「あら、クーちゃん。装備品の整備?」
「ああ、エミリアは?」
「この子達にシールドの使い方を教えてたのよ。
みんな紹介するわ。彼は……」
「俺が紹介するよ。俺はクーリッジ。ヴァルミリオン艦所属の第82光特科小隊長を務めてる。君らは例の地球人だな、どうか今後ともよろしく!」
特科とは砲兵器主体での戦闘、後方支援攻撃を担当する部隊のことである。
『光』と言うのは光学兵器のことでありつまり、光学系の砲兵器を操る部隊である(ちなみにエミリアとミルフィは偵察部隊であり、カーマインは艦長兼偵察部隊長である)。
――その好男性の第一印象を持つ彼、クーリッジは爽やかな笑顔で手を差しのべた。
「「「はじめまして!!よろしくお願いします」」」
「元気でいい声してるな。それができれば上出来だよ」
笑顔で握手を交わす三人。あのサルビエスのように性格が悪くなさそうだ。現にエミリアの表情は和やかである。
「それにしても大変な任務を任されたな、エミリア」
「ええっ……」
クーリッジは彼女の肩に優しく置いた。
「無理をすんなよ。俺はお前に死んでほしくない。友達を失うのは嫌だからな……」
「クーちゃん……」
「三人とも、どうかエミリアと今はここにいないがパートナーのミルフィの助けになってやってくれ。心から頼むぞ」
「「「はい、任せてください!!」」」
それを見て、彼は優しい笑顔になった。
「……君らならあまり心配なさそうだな、安心したよ」
三人は仲良く話すエミリアとクーリッジの二人を見て、和むであった。
「いい人みたいだね」
「うん。エミリアさんもいい顔してるね」
彼はエミリアの男性友人の中でも一番仲の良い人物であった――。
……………………………………
一時、探知していたアマリーリスの動きが止まり、勘づいて進路変更するかもと騒がれたが、それもなく2日後にはこちらの方へ動きだしたのを確認され、一応の作戦が狂わずに済んだのであった。
……そして、奴らがあと1日でこちらの宙域に到着するとミルフィ達オペレーターによって確定され、それぞれ迎え撃つ準備に取りかかった。
中央デッキでは、カーマイン以下、直属の兵士達がモニターに映る、この宙域周辺の映像を見ていた。
「各艦、配置完了しました」
「了解、だが油断するな。進路変更する可能性は十分考えられるからな――」
モニターを見ると、ヴァルミリオンを中心に左右にヴァールダイト級5隻、両端側にはグラナティキ級12隻の計18隻がお互いが衝突しないように距離を空けながら弧を描くように並んでいた。
A級、B級クラスであるヴァールダイト級、グラナティキ級の全長はヴァルミリオンよりも半分程であるがやはり超巨大である。
日本列島の半分ほどあるのだからだから、普通の人間からしたらとても想像できるわけがない。
銀河連邦はそれらを無数に保持しているため、全宇宙でも屈指の戦力を持つのである。
「本艦の各兵器、戦闘ユニットの方は?」
「ほぼ全機、整備完了とのことです」
「そうか。このあと艦内で簡単な壮行パーティーを開こうと思ってる。どうかな?」
「いいと思います。隊員達の気晴らしになると思いますよ」
「ありがとう。これない者も何か差し入れでもしよう」
その場にいる隊員達はそれを聞いて大いに喜んでいる。
……しかし、微笑ましい話の最中、彼は目を瞑り、こう言った。
「私の予想だが……犠牲は避けられないな……今作戦を決行すれば……」
「…………」
明るい声が聞こえる中、彼と副長は静かになった。
本当なら犠牲者を出したくないが……絶対でないのは無理に近い。ましてやS級の攻撃を受けたらこちらもただでは済まないのはわかっていた。
今作戦の総司令を務めるカーマインからすれば、所属隊、種族は違えど仲間である隊員たちの命をここで散らせたくないのである。
「……大丈夫ですよ。どんな結果になろうとあなたについていきます。
少なくとも私や本艦全員は善を尽くせれば本望ですよ」
「副長……」
副長の励ましに彼は目を開いて小さく頷いた。
「頼むぞ、副長。私に力を貸してくれ」
「はい!」
二人は心を一つにして心に決めた。必ずやアマリーリスを逮捕、壊滅させることを――。
……………………………………
その頃、アマリーリスはワープホール空間へ移動していた。
……訓練エリア、座学室内。
「……お前、本気か?」
「ああっ」
中でレクシーとユーダがなにやら話をしていた。
「なんで脱走なんか……?」
「ここの奴らが気に食わん。気持ちワリィぐらいに馴れ合いなぞしやがって……リーダーからしてあんなんだ。
ここは俺の居るべき場所じゃない」
ユーダはどうやら脱走を企ているらしい。
「……けどお前、今まで生きてこれたのもアマリーリスのおかげだぞ!?
お前、脱走がバレたら今度こそリーダーに抹殺されるぞ!!」
「へっ、隙を見てバレねぇようにすんだよ。レクシー、誰にもいうじゃねえよ。
もし言ったら真っ先にお前を殺してやるからな」
「……外に行ってもお前に居場所なんかねえよ。
俺らみたいに大罪を犯しまくった奴はどこにいっても、仲間外れにされて惨めな思いになって……最終的に捕まって死刑になるのがオチだよ
……悪い事は言わねえ、脱走なんかやめとけ!」
レクシーが必死で説得するが、ユーダは全く聞いていない。
「もういい。お前と話しても意味がない、俺は行くぜ。
誰にもいうんじゃねえぞ、分かったな?」
脅し口調で言った後、ユーダは去っていった。
「あのバカが……。なんで分からねえんだ……」
レクシーはすっかり落胆して深くため息をついていた。
……………………………………
数時間後、ヴァルミリオン内では艦内の者だけで即席の壮行パーティーが開かれた。
酒は一杯くらいしか飲めなかったが、今まで作戦準備で気を張り続けていた隊員達にとって、幸せの一時であった。
もちろん、エミリア、ドラえもん達も参加し、色んな隊員達と話したりと大いに楽しんでいた。
……そしてパーティーも終わり、なにもない隊員達は明日に向けた休眠をとりはじめていた頃――。
……艦内の中央フロア。エクセレクターの休憩広場みたいに広く、天井一面に張り巡らせたウィンドウから見る宇宙はなんとも壮大で幻想的である。
その中のソファーではエミリアが何か思い詰めた表情しながら座っている。
そこはあまり明るくないため、彼女はサングラスを外していた。
「……エミリア?」
「あっ、提督……?」
偶然、カーマインが姿を現し互いに目を向き合う。
「眠れないのか……」
「ええっ……」
彼女の声に元気がないことを彼は感じ取っていた。
「となりに座っていいか?」
「どうぞ……」
彼は彼女の横に座るとゆっくり息を吐いた。
……沈黙の時間がただ流れる。二人ともなぜか口を開こうとしなかった。
が、
「提督……」
「どうした?」
エミリアは悲しそうな表情で彼の方へ向いた。
「私……自信がないんです。あの子達をちゃんと守りきれるどうか……それに……」
「それに?」
「私は奴らを、アマリーリスをものすごく憎んでいます……。
レイドを……同胞を……わたしの全てを奪ったあの悪魔達を……わたし、絶対に憎しみに負けて殺してしまうかもしれないです……。
提督はそれを望んでいないでしょう……?
わたし、どうしたら……」
彼女はそう打ち明けた。
口に出さなかったが彼女は今までそれを悩んでいた。
気持ちは非常に分かる。彼女からしたら犠牲になった人達、そして殺された恋人の敵討ちをしたくてたまらない。
だが、彼女は軍人であり、警察の役目を持つ役職でその考えはあまりにも個人的な報復行為である。
言ってみれば彼女の仕事上においてモラルも誇りもへったくれもないのである。
「……実はな、わたしもお前をこの任務につかせるのを身が引けている」
「……どういうことですか?」
「この任務は一番危険だ。命を失う危険性が非常に高い。
……まして、あの子達の命までも危険にさらさせるなんて……私は提督失格だな。
現に私はこの作戦が終われば全ての責任を背負って辞表を出そうと思っている、万が一お前達にもしものことがあれば、私も一緒にお前のあとを追うつもりだ」
「えっ……そんな……っ」
「実際はそれではすまないぐらいだ。
もう妻と子に遺書を書いて遺してる。私はそれほどまでに覚悟を決めている。だからエミリア達を信じてこの任務をつかせたのだ」
「提督……」
彼はエミリアの肩に手を触れて、優しい笑顔をとった。
「奴らを殺すか殺さないかはお前の判断だ。
私はもう何も言わない、自分で決めろ。
私の願いはただひとつ、絶対に死ぬな、そしてあの子達を守りぬいてくれ
あの子達と心を一つにして協力すれば絶対にお前達を導いてくれるハズだ」
「提督……ううっ……」
彼の優しい言葉に彼女は涙を流していた。
「エミリア……頼んだぞ」
「はっ……はい!!」
その返事は十分に気合いのこもった発音であった。
彼女は気持ちを入れ直し、来るべき明日へ心を決めたのであった――。