――オペレーションセンター内では……。
「副司令、脈数低下……このままでは……」
絶望的な報告に次第に騒いでいた声が静かになり始め――。ついに、
「しずかちゃん!! 」
ついに見るに耐えかねたしずかが駆け出した、行き先は……もちろんユノンのところである。
まるで野次馬とかしている司令塔に自ら入り込んでいく彼女。
人を必死にかき分け、やっと思いでユノンの元へ辿り着くしずか。しかし彼女がそこで見たものとは……。
「ゆ……、ユノンさん……」
おぞましいものであった。最初は半分以上が露出していたユノンの身体が最早、異形と化した機械類によって全て取り込まれて、残っていたのは彼女の顔の部分、即ち目と鼻と口がうっすらと見える程であった。
だがその時の表情はもはや無。まるで死んでいるかのように生気が全く感じられなかった。
しずかは大粒の涙を浮かべて、彼女の両頬に位置する部分を優しく触れた。

「ユノンさんしっかりして!!ユノンさぁん!!」
大声で必死に呼び続けるしずかに後ろで見ていた全員がただ呆然と見ているだけであった。
「ユノンさん死んじゃいやよ!!
あなたやっと孤独じゃなくなったのにこのままじゃあ!!」
しずかは我を忘れ、無我夢中でユノンを叫び続けた。
……………………
「はあっ!!?」
ユノンは突然、目覚めた。しかし周りは真っ暗で何も見えない、何もいない。
「ここは……」
次第に恐怖に駆られる彼女。
そして走り出す。息を切らしながら、あてもなくただ走り出す。しかし全く何も見えてこない。
あるのは暗闇だけである。
「くっ、あたしは一体……」
頭がズキズキする。身体が焼けるように痛む……こんな気分は生まれて初めてである。
「みんなは……どこ?ラクリーマは……ラクリーマは!?」
必死で誰かにすがりたい。特に、特にラクリーマとまた再開したい。
その気持ちでいっぱいであった。
(ラクリーマ、いったいどこなのよ!!なんでいないのよ!!
あたしをたすけてよォ!!)
そんな思いで走っていると前方に突然、まばゆい光が……。
ユノンは一目散にそれを目指して一気に駆け出した。
だが!!
「! ! ?」
後ろから気持ちの悪い何かが彼女の腕を掴み止めた。
それはあの金属の触手である。
(ああ……あっ!!)
次第に彼女の体を捕縛し、また暗闇へ引きずりこもうとしていた。
(いやっ!!いやよイヤァァっ!!)
脱出しようと必死にもがくがさらに彼女に絡み寄せて、どんどん引きずり込んでいく。
(誰か……助けてぇ、独りになるのはもういやよ……ラクリーマ……)
彼女は涙を流し、あの光に手を差し伸べようとしたが距離は遠くなっていく。
しかし、
(……さん、ユノン……さん)
突然、光から自分を声が呼ぶ声が。それは暖かく、優しさの籠った聞いたことのある女の子の声である。
(だっ……だれ……)
ユノンのその光に刮目した。その中からは……。
(し……しずか!?)
そう、しずかが彼女を懸命に呼ぶ姿が見えた。
「ユノンさん!!お願い、戻ってきて!!お願い!!」
瞬間、触手の絡みは弱まりユノンはその隙に抜け、無我夢中に光へ走り出した。
(しずか!!助けて、助けて!!)
しずかも手をこちらへ差し伸べ、ユノンも手を出し、互いに掴もうと必死であった。
少しずつ、少しずつ近づいていきそしてついに――。
………………………
『デストサイキック・システム』がついに解除され、あの機械達が次第に元の場所へ戻っていく。それに伴いユノンの身体も少しずつ現れている。
そして全部が見えた時、その場から落下、慌てて近くにいた一人が彼女を受け止めた。
全員がユノンの元へ集まる。彼女は裸であり、あの剥ぎ取られた服を上から被せる。
「ユノンさん……」
次第に彼女の目は開き、虚ろであったがすぐに駆けつけたしずかに手を差し向けた。
「し……しずか……、またっ……あなたに……助けられたわね……」
かなり衰弱しているが優しい笑顔で迎える彼女にしずかは手をギュッと握り、涙を浮かべてウンウン頷いた。
「ユノンさん……ホントによかった……」
「しずか……」
のび太も駆けつけて全員が彼女らを囲む。
二人の触れ合いを見て、一時の安息と喜びに酔いしれていた。
………………………
一方、サイサリスとラクリーマはオペレーションセンターへ向かっていた。
「うらあっ!!」
「死に腐りやがれェ!!」
行く先に現れる連邦隊員を全て蹴散らしていく。
あのサイサリスも手持ちの大型火器で対等以上に応戦している。
はっきりいって本当に四十歳いくかいかないかの女性なのかと疑いたくなるほどの勇猛っぷりであった。
「ちい、キリがねえぜ!!」
「くそぉ、一体何があったんてんだ?
あの時は本当にあたしらの優勢だったのに……」
二人は傾きつつある形勢にだんだん不安となっていく。
「しかしまあ、あのコらどうだった?」
「ああっ……あんな化け物兵器を造るたぁ大した奴だよオメェはよお……」
「よせやい、照れるじゃねえかよ!!」
「…………」
高圧的な笑みであるサイサリスに対し、ラクリーマの表情は笑っているがどこか無理しているようであった。
そんな中、二人の通信機に連絡が入る。
“サイサリスさん、リーダー、ユノンさんの救出に成功しました!!”
「ホントか!!」
それを聞いたサイサリスは拳をグッと握り、ガッツポーズをとった。
「ラクリーマ、聞いたか!!ユノンちゃんが救出……ん!?」
しかし、本人は喜んでいるどころかフラフラ壁に寄りかかるなり……。
その場で嘔吐。しかしただの嘔吐ではない、大量の血を含んだおぞましい光景であった。
「ラクリーマァァ!?大丈夫か!?」
彼女はすぐに駆けつけて彼の上半身を触る。
しかしよくみると身体には紫色の斑点が至る所に浮かび上がっている。
(こいつまさか……?)
サイサリスは彼の顔を掴み、すぐさま顔を合わせる。
彼の顔は疲れ、窶れきっていた。
そして口の中を見ると、歯茎からも途切れることなく出血し、今にも歯が抜けそうな状態であった。
今の彼は……苦しそうであった。
サイサリスの額に冷や汗が流れる。この症状はまさか……。
「ラクリーマ、今すぐメディカルルームにいくぞ!!お前を治療しに行く!!」
サイサリスは無理矢理引っ張ろうするがラクリーマは力ずくで拒否。
「い……っ、今はそんなことしてる暇なんぞねえっ!!ユノンが無事なら今から心起きなく徹底抗戦だ!!」
真剣の口調で鳴り響く怒号の後、辺りが静寂した。
「……お前、連邦の核弾頭が爆発したあの後、あの宙域通ってきただろ?髪の毛簡単に抜け落ちなかったか?」
「……」
彼女の問いに黙り込むラクリーマ。彼女は確信した。
「お前の身体は何がどうなってるか教えてやろうか?
核が爆発した時に生じた膨大な量の放射能を急激に受けて……お前、完全に放射線障害にかかってんだぞ!!」
「……だからどうしたってんだよ!!
そんなの今じゃなくても治せんだろ!!」
彼は頑なに治療を否定するがその瞬間、サイサリスに胸ぐらをグッと掴まれた。
「おい、なにやせ我慢してんだよ。
お前、このままだと精々持って数日がいいとこだ!!
今すぐ治療すればそれだけ生存率が高くなるんだぞ!!」
「だから、そんなことしている間に連邦の奴らがここに乗り込んでんだぞ!?
このままじゃアマリーリスはここで――」
「しかも貴様、ログハートを駆使しまくったおかげで身体中がヤバい状態なんだぜ。
ここの優れた医療技術でもここまで来ちまうともう治せねぇかもしんねえ。
そんな状態でもまだ動けるっつうことはまだ『BE-58』の効果切れてねえんだな……副作用でさぞかし地獄すら生ぬるいほどの苦痛が全て襲いかかる――いくらお前でもその時はどうなるか分かるだろ?
そうならないよう今のうちに痛みを軽減させてやろうというんだ、素直にあたしの親切を受けやがれ!!」
サイサリスは胸ぐらを放し、深く息を吐いた。
「ひとつ聞け、お前はなぜこのアマリーリスのためにそこまで命を捨てようとしてるか知らんが、そんなじゃエルネスやランちゃん、今まで死んでいった仲間達は絶対に喜びやしねえぞ。
お前あってのこの組織だ、お前が死んでここの奴らや特にユノンちゃんはどうするつもりだ?
彼女をまた傷つけるつもりか、あの子を幸せにするって約束はその場だけのデマカセだったのか?」
「……」
「そろそろいい加減にしやがれラクリーマ。お前に前言わなかったか、『自分自身をいたわれ』とな。
これでも嫌だというならお前を今すぐボコボコにしてでも連れていくぞ!」
彼女のその冗談とは思えない断言に、彼の口からは、
「……わかった。なら早く行くぞ!!」
「ラクリーマ……分かってくれたか。
なら急ぐぞ、あたしが先頭に行く。連邦野郎はまかせな!!」
「……」
二人は進路を変えて、メディカルルームの方へ向かった。
その途中、いくつかの通信が二人に耳に入った。
“ラクリーマさん、こっちもヤバいっす!!敵の数が多すぎて、仲間が段々減っていくばかりでこれじゃあ持ちこたえれません”
“リーダー、劣勢と聞いてオペレーションセンターにいる者も戦闘に加わろうと思いますが、よろしいですか!?
ユノンさんは衰弱してるのでのび太としずか、他数名に託して今艦内の安全な場所へ移動しています……何か指示を……”
“リーダー、何か命令を!!”

“リーダー、リーダー!!”
彼に必死にすがろうとする声が耳元で鳴り響くたびにラクリーマの表情はさらに苦渋となっていく――。
「ラクリーマ、気にすんな。そんなもんあいつらが甘えているだけだ。
今はお前の治療が先決に決まってる。
今はお前らだけで持ちこたえやがれとでも伝えろ!」
さすがはサイサリス。こんな状況になってもこのような判断ができるのは素晴らしいものである。
――そしてメディカルルームに辿りつき、ラクリーマをベッドに寝かす。
サイサリスは早速コンピュータで彼の身体状態を調べ上げる。
「…………っ」
彼女の顔は段々と渋い表情となりつつあった。
身体中の細胞があの放射能により、大部分が破壊されてガン細胞に変化。
白血球の数も膨大になり、リンパ腺の異常、そしてあの症状……白血病と免疫低下により、何らかの合併症を引き起こしている可能性が高かった。
しかし、それより深刻なのが元々安静にしなければいけないほどに怪我をおった身体をさらに無理させたため、もはや身体中の骨格、肉体、そして内臓共々致命的なダメージを被っていた。
やはり動けるのはあの麻酔のおかげでありその効能は凄まじいものがあるが、当然しっぺ返しもどれほどのモノか想像がつかない。
正直な話――もはや手の施しようのない状態であった。
「ちくしょォっ、あたしを誰だと思ってやがる!!こんなぐらい治せねえで何が天才科学者だよ!!」
彼女は僅かな可能性を捨てず、彼を治すことに全神経を集中させている。
その時の彼女からは凄まじいほどの覇気がジンジンと伝わってくる。
その時、近くから爆発したような轟音が鳴り響き、走る音が一つ、二つ、三つ……複数聞こえた。
「ちい、こんなときに敵か!?」
コンピュータキーから手を離し、再び火器のグリップを掴む。
「サイサリス!?」
「寝てな、あたしが始末してやる!!」
そう言い残し、彼女は颯爽とメディカルルームから飛び出していった。
彼女が通路の音のした方向へ向くとそこには6人ほどの武装した集団がいた。
しかし、アマリーリスとは違う銀色のパイロットスーツ姿でピストル、ライフル等の銃火器を携行している……彼らは連邦隊員であった。
互いに対峙し、連邦側は彼女に銃口を向けた。
「今すぐその火器を地面に置いて、手を上げろ!!
我々は無益な殺生はしたくない。しかし抵抗するならば排除対象と見なす!!」
その警告に対し、サイサリスはこんな状況にも関わらず笑みを浮かべている。
「……るせえよ。あたしは元々死ぬ気でいるんだ……。例えこの身が吹っ飛ばされようとも一人残らずテメェらを地獄へ道連れにしてやんよぉ」
彼女はその憤怒した顔で携行火器を彼らに向けた。
……大多数の銃声が通路内が鳴り響く。。その結末は。
「がっ……」
サイサリスの腕に光弾と実弾が数発擦り、その場にうずくまった時、連邦隊員は彼女の元に駆けつけ、強引に取り押さえ、その場で倒し伏せた。
「逮捕だ!!」
しかし彼女はこんな状況にも関わらず、相手に弱さを見せなかった。
「へへっ…貴様らに捕まるくらいならここで……」
彼女はすぐさま舌を出すと歯に挟んだ。これはまさか……彼らはその場で慌て出した。
「やっやめろーーっ!!」
「アバヨっ!!」
彼女は歯に力を込め立てたその時、
後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる。全員が振り向くとそこにはラクリーマがまるで鬼のような顔つきでこちらに殺気を送っていた。
「お、お前はまさか!?」
「あの男だ!!」
全員が警戒の余地なくすぐにこの男に銃口を向けた――。
「キサンら、俺の大事な仲間に手ェ出しやがってェ!!
かち殺したるわァァァァっ!!」
ラクリーマは一気に飛びかかり、反撃させることなく次々と相手を血祭りに上げた。
まるで狂っているかのように暴れ、八つ裂きにし、高らかに奇声を上げるその様はまさに『狂人』そのもの。
自分の視点から見た彼に対し、彼女はそう思った。
……そして残虐行為が終わり、辺りはまるで血の池と化し、肉塊が辺りに散乱する通路内でラクリーマは一呼吸を置いて、サイサリスに駆け寄った。
「サイサリス大丈夫か!?」
「……腕に弾丸がかすっただけだ。寝てろといったのによくもまあ……」
しかし、ラクリーマも今度は彼女に胸ぐらを掴み、こう言い放った。
「何死のうとしてんだよ!!てめえも人のこと言えねえじゃねえか!!」
「ククク……」
彼女は突拍子で笑っている。
「……何だ?ついにお前、頭狂ったか……?」
「……ラクリーマ、あたしはお前と同じで悪行でしか生きられん。
捕まって死ぬまで退屈な人生送るくらいならってな……」
「サイサリス……」
「心配すんな。お前はあたしが命に変えても守ってやる。
お前はあのバカ野郎の大事な忘れ形見なんだからな……」
本人はその想いに無言になる。どう思っているのか分からない。
――その時、レクシーや部下が通信が入る。
“リーダー、次々に敵が攻めてきてもう戦力的にも体力的にも限界です!!
どうすれば!!”
“リーダー、もう持ちこたえれません!!
場所はエリア2通路付近です、助けてください!!”
それを聞いてラクリーマは立ち上がるが、サイサリスは腕を掴む。
「まて、まだお前を治療してねえんだ!!
行くならその後だ!!」
「サイサリス……すまねえ……」
突然、彼女に謝るがその刹那、
彼女の腹部を強打した。
「ぐぅ…………ラク……リーマ……」
顔を歪め、その場に倒れ伏せるサイサリス。全く動かない様子を見ると気を失っているようだ。ラクリーマは彼女をゆっくり担ぎ、軽く跳ねてしっかり固定した。
「お前みてえな奴がそんなこと言うとかどうかしてんぜ。だがな、お前は本気で命を棄てかねん女だ」
ゆっくりとその場から歩き出した。
「……ワリィな。お前まで死なれたらそれこそエルネスに顔向けできねえよ」
――しばらくして到着したのは近くの戦闘ユニット専用格納庫。その最端に配置してある小型の乗り物へ移動し、ボタン操作で扉を開放。
中に入り、サイサリスをその床に置き、手前のコンピュータパネルのキーを器用よく打ち込む。
動作が終わると、サイサリスの着用している白衣のポケットに手を忍ばせた。
「お前にエクセレクターに関する構造、全ノウハウが詰まったデータを託す。お前ならそれを参考にエクセレクター以上のモノが造れるはずだ……」
ラクリーマはそこから出て、また扉を閉めた。
「もう二度とお前と会えねえ……。
生きろ、サイサリス。いちいちうるせぇ奴だったが一緒に仕事できて心から感謝している……じゃあな!!」
彼はその場から離れたその瞬間、サイサリスを乗せた小型機は起動。ターンテーブルが上昇し、壁のハッチが開放したと同時にその奥へ移動していった。
ラクリーマはそれを見届けると、一呼吸置く。その時であった。
「ぐっ!!」
また血が胃から込み上げて、口を押さえ一気に飲み込んだ。深呼吸し、息を吐くと振り返り、また彼は歩き出した。
(ユーダの言う通り、もはやアマリーリスは終わりだろう……自分でまいた種は、自分で枯らせる。だがその前に――)
その時のラクリーマは『リーダー』としてでなく『一人の戦闘員』として、『一人の極悪人』のようであった。