「さあこっちよ!!」
四人は艦内を走り回っていた。ドラえもんは右手に『空気砲』、ジャイアン、スネ夫は『ショックガン』を装備していた。
そして彼女は慣れた様子でドラえもん達三人を上手く先導している。
“エミリア、前方30メルト先右側に分岐通路があるヨ。
その先50メルトから5人程の生体反応確認。こっちにゆっくり近づいてきているわ。反応が連邦とは異なる生体信号……どうやら敵のようね”
「了!」
通信機を通してミルフィのサポートナビを受けて直ぐ様、彼女は三人に指で指示を出し、さらに速く駆け出す。
ミルフィのナビ通りの位置へ辿り着き、エミリアは曲がり角の手前でストップ、静かに覗くと確かに複数の足音が少しずつこちらへ近づいて来るのを確認、三人の方へ向き、小さな声でこう指示した。
(この通路から敵が来るわ。あたしが敵の対処をするからあなた達はその場で前後通路の安全確認をお願い……)
“わかりました……っ”
四人に緊迫した空気が包む。
本気で自分達を殺しにかかってくる敵がこちらへ向かってきているのだ。
しかしのび太達を助けるためには泣き言は言っている訳にはいかない。
生き残るには彼女を指示に従う以外、道はなかった。 0;
――エミリアは『ユンク』と違う、もう一つの拳銃を口元へ持っていき、
「『テレサ』、フルバースト射撃……オン」
銃がエミリアの言葉に反応し、銃身が『カチ』と音がした。
……段々近づいてくる足音。エミリアは目を瞑り、息をゆっくり飲み込み、吐かずにそのまま止めた。
その時、エミリアはすぐにそこから飛び出して通路へ入ると直後に伏せ、『テレサ』を前に寝かせた左腕でしっかり固定、照準を合わせた。
そして向かってきたのは武装したアマリーリスの戦闘員達。
彼らも前に誰かいるのを確認、目をこらすと銃口を向けた人間が自分達を狙っている。
「なっ!敵か!?」
この時すでに遅し、エミリアは一気にトリガーを引くと、針のような極小の光が目に見えぬ速さで連射。
戦闘員達の脚部に容赦なく突き刺さり、次々と倒れていった。
「ぐぐっ!!」
足に激痛が襲い、立つことができない。 しかし彼女はすぐに立ち上がり、彼らの元へ向かうなり持っていた火器を足で蹴り飛ばし、奪い取り武装解除。
火器を一ヶ所に集めて、もう一つの銃『ユンク』でそれらへ連続発砲。 直撃し、火器はみるみる内に破壊、溶かされ、誰がが見てももはや使用不可能と分かる。
「……」
エミリアは彼らを見ながら拳をギュッと握りしめて、睨み付ける。
奴らは彼女にとって憎悪の対象だ。今すぐにも復讐、報復したい、殺してやりたい……ところだが、カーマインの言葉が頭に浮かんだ。
“いくら悪者であろうと命は命だ”
それを胸に秘めているのと、あとあの三人の友達救出を最優秀であることを考えると何とか一線を越えずに済めたのである。
“エミリア、最初の通路へ戻ってまたまっすぐよ。今いる通路の先はどうやら逆戻りするみたい”
;
通信を受けて、まだ戻っていく彼女。三人とまた合流し、異常がなかったか聞く。
「エミリアさん、敵は……」
「ええっ、戦闘不能にしたわ。しばらくは身動きとれないハズよ。さあ、先を急ぎましょう」
彼女は彼らを安心させるように優しく笑い、再び通路を走っていく。
――しばらくして、今度はY字通路と出くわした。この艦内はまるで迷路のように複雑化している。
足を止めて、ミルフィに通信を入れた。
「ミルフィ、 二つの分岐があるんだけどどうすればいい?」
“そ……こ……に……あ……れ、つう……しん……”
「ミルフィ!?まさかもう通信が……」
どうやら通信ができなくなったようだ。エミリアは一度通信を切り、腕組みする。右か左か……どちらへ行けばいいのか……。
「困ったわ……こうも早くミルフィのナビが使えなくなるなんて……」
「ドラえもん、なんかいい道具ないのか?」
「こうなったら……『ミチビキエンジェル』は今はないしこれで代用だ!!」
ドラえもんがポケットからまるで杖のようなひみつ道具を取り出した。
「『たずね人ステッキ』!!的中率が7割だけどないよりはマシだ!!」
ドラえもんは『たずね人ステッキ』を分岐通路の手前に立てた。
「ステッキよ、のび太君としずかちゃんに会えるにはどこの道に行けばいいか?」
そう告げ、手を離すとステッキは左側の通路を指すように倒れた。
「左側に行ってみよう。当たるかはどうかは分からないけど今の状況はこれが頼りだ、エミリアさんこっちです!」
「ええっ、ありがとうドラちゃん」
ステッキの導き通り、全員が左側通路に走っていった。
三人はすでに息を切らしているが今はそんなことより早くのび太達を見つけることが先決だ。
ただひたすらに――エミリアの後をついていったのであった。
その最中、向かい側からまた複数の足音が聞こえた。敵か……それとも味方か……、全員が気を引き締めてその場で止まった――。
「エミリア!?」
「クーちゃん!?」
何と現れたのは連邦隊員達。その中に彼、クーリッジが混じっていた。
二人は喜びを分かち合い、直ぐ様抱きついた。
「よかった、無事だったんだな!!」
「ええっ!!クーちゃんこそ無事で嬉しいわ!!」
「ミルフィはどうした?」
「今、大破したイクスウェス内部でナビをしてもらったんだけど、通信が出来なくなって……」
「そうか……。なら俺らがミルフィを迎えにいくよ。
あと提督も今、この艦内にいるぞ」
「て……提督も!?」
「ああ、艦内で指揮をとってる。今では俺達の方が優勢だ!!」
それを聞いた彼女は安心し、表情が柔らかくなった。
「なら、俺らは行く。エミリア達も早くあの子らの友達を救出できるといいな!」
クーリッジ率いる集団は彼らから去っていった。
「クーちゃん……ミルフィをお願いね……」
安直の一時を過ごしていたが、すぐに気持ちを切り替える。
「みんな、私達が有利な状況になったわ。
今からさらに気合いを入れていきましょう!!」
「「「はいっ!!」」」
彼女のかけ声で三人の気迫はさらに上昇。もしかしたら本当にのび太達を助けられるかもしれないと言う希望、それしか考えられなかった。
………………………
のび太としずかは、数人のオペレーターと戦闘員と共に避難できる場所を探していた。
その中にユノンもいたが彼女は走れるほどの体力などなく、仲間の一人に担がれていた。
「く、くそっ!!このままでは……」
彼らの疲れた表情を見る限り、かなり走り回った様子だ。
「なあ……」
「どうした?」
仲間の一人がのび太としずかを見つめていた。
「今ならのび太としずかを連邦に保護してもらえるんじゃねえかな……てな」
「……そうか。確かにそうだな」
こんな状況にも関わらずに二人のことを考えてくれる彼らは……一体悪人なのか善人なのか……。
「二人とも、多分その場にいればきっと連邦の奴らが見つけてくれて保護してくれる。そうしとけ!」
彼の問いに二人は困惑する。
確かにその方が安全だし、これで自分達は地球に帰れる。
そして彼らがいった『地球に帰す』と言う約束は完結されるのでこれで後腐れがなくなるだろう。
だが――。
「やっぱり……僕達、おじさん達についていくよ!」
「ええっ!!私もよ!!」
二人の揺るぎない答えに彼らは二人を疑うような目をする。
「バカかお前ら!!これで助かるってのに」
「俺らみたいな悪党についてきて何の意味があるんだよ!!」
その問いに二人から出た理由とは――。
「僕達、ここの人たちに優しくしてもらったし……そのまま何もせずに地球に帰るってのも……」
しかし、一人の男がギラッとした眼光でのび太を睨み付ける。
「……おい、何ふざけたこといってんだよ?」
のび太の胸ぐらをグッと掴むと一気に引き寄せた。
「はっきり言ってやろうか?お前らは足手まといなんだよ。
お前らさえいなけりゃ今すぐにでも――」
「お願いです!!わたしものび太さんと同じです!!」
「しずか!?」
「私も何かできないかなと思っていたんです。だからあなた達に役立てることをしたいんです!」
「……お前らみたいなガキどもに何ができるってんだよ。
それに……そうなるとお前らは俺ら悪人に加担することになるんだぞ。
悪いことは言わねえ、大人しくここで……」
しかししずかはユノンの元へいき、優しく手を握った。
「それに……ユノンさんのことが心配なんです。お願いします……あたし達もついていくことを許してください」
「ぼっ、僕もお願いします。しずかちゃんだけついていって僕だけ残るのもイヤです……」
二人の懸命な願いに黙り込む。しかし確かに疲労困憊し、衰弱している彼女はしずかが近くにいれば安心しているかのように表情が和らいでいるように見える。
ラクリーマがいない今、落ち着いているのはもしかしたらしずかのおかげであるかもしれない。
――男があきれた顔をして、ため息を吐いた。
「――けっ、どうなっても知らねえぞ。それでもいいならついてこい」
「えっ……?」
「早く行くぞ!!その代わり足手まといになるようだったら今度こそお前らを置いていくからな、早くしやがれ!!」
二人はだんだんと笑顔になっていき――、
高らかに返事をした。他の全員もあきれた表情をしているが、まんざらでもないようにも感じられた。
――全員はまた動き出し、長い通路を走っていった。
――レクシー達は度重なる戦闘により窮地に追い込まれようとしていた。
次々と仲間が捕まり、戦力的にも自分達の体力も限界であった。
「もう……本当にだめかもしれん……」
敗走の最中、仲間が弱気な声でそう呟いた。
「し、しっかりしろよ!!諦めんなよ、リーダーがそれ聞いたらキレるぞ!!」
「だがよ、もう俺らさっきから逃げ回ってばかりだぜ!?
それにリーダーに助けよんでも来ねえなんて……もしかして――」
全員に嫌な予感がよぎった。
「なっ、何ふざけたこといってんだよ!?
リーダーは今まで俺らを助けなかったことあったか!?」
「確かにそうだけどよ……」
「もう、何のために戦っているかどうかもわかんねえよ……」
次第に士気が無くなりつつあるレクシー達。もしこの状態で連邦隊員に囲まれたら一網打尽だ。
そんな状態にレクシーがついに苛立ちから震えはじめ……。
「てめえらいい加減にしろ!!そんなにイヤなら今すぐエクセレクターから逃げやがれ腰抜け野郎共!!」
「はあ!?」
その言葉が気に触れたのか、仲間の一人がレクシーに突っかかった。
「レクシー、もういっぺん言ってみやがれ!!」
「何度でも言ってやんよォ、今のお前らはヘタレに成り下がってんだよ!!」
「おい、殺されてえのかオラァ!」
「上等だ、殺れるもんなら殺ってみろよ!!
……ついに互いに対立する二人。他の仲間は全員仲介に入るが一向に止まることのない。
だが、
「そこにいるのは誰だ!?」
彼らの後方から大声が聞こえ、全員が注目する。
次第に見えてきたのは自分達とは異なる服装をした集団。
――連邦隊員達であった。
「やべぇっ!!奴らだ!!」
「逃げろォ!!」
一目散に逃げ出す。もはや纏まりがなくなった以上、どうすることも出来なかった。
――追い付かれ、次々に取り押さえられる仲間達。
レクシーと数人はかろうじて逃げ切るも最早、その顔から絶望しか読み取れなかった。
(リーダー、何してんスか……早く来てくださいよ。こうしている間に仲間が……仲間が……)
彼の思いはラクリーマに届いたのであろうか……いや、届いてないだろう。
でなければ今すぐにでも彼なら駆けつけるハズである。
アマリーリスは衰退の一途を辿っていた。
………………………
そしてエミリア達はまだ艦内を走り回っていた。『たずね人ステッキ』を駆使してもまだのび太達に会えないでいた。
「もう……疲れた……」
スネ夫が息を切らして立ち止まった。
「スネ夫、しっかりしろよ!!」
「もう少しの辛抱だよ!!」
ジャイアンとドラえもんが彼の引っ張ろうとするが本人の足がもはやガクガクに震えていた。
そしてジャイアン達も全く疲れていないとは言い切れない。顔中、汗だらけであり辺りに熱気が立ち込めていた。
「少し休みましょう。焦ることはないわ……」
エミリアもかなり息を切らしているが、まだ冷静でいられるようだ。
「そうだ、あなた達にもレーションが受領されてたの忘れてたわ」
彼女は腰に装着している弾帯の小型ポシェットから3つの液体の詰まったパックを取り出し、三人に差し出した。
「これはなんですか?」
「これはレーションって言って、戦闘中とか食事できない時に、いつでも食べれるようにした戦闘糧食よ。
味は……期待しないほうがいいけど今のあなた達は摂っておいたほうがいいかもしれない」
その『レーション』を彼らに渡した。どうやら銀河連邦では固形ではなく飲料系のようである。
彼女は辺りをキョロキョロ見渡し始めた。
「あなた達は飲みながらここで休んでて。あたしは敵がこないか確認、警戒してくる」
ドラえもん達は彼女を働きぶりにすごく感心していた。
「エミリアさんって……スゴいね」
「ああっ、女の人なのに俺達より頑張れるなんて……なんか恥ずかしいなぁ」
まあ、彼女は軍人であったし偵察隊員だけにこういう任務は得意分野である。
「僕達もエミリアさんに負けないように、あと心配させないように今から頑張らないとね!」
――三人は『レーション』の吸飲口をくわえて一口飲んでみた。が、
「うえっ!!ナニこれ〜〜っ!!」
「変な味するし……」
「濃すぎる!!」
全員の評価は最悪である。
元々『レーション』は戦闘や行軍による過度の疲労やそれで失われる塩分補給を想定して保存性、高カロリー、高塩分で作られるため味が濃いのは当たり前である。
それにここは地球ではない。自分達には分からない素材を使っていてもおかしくない、変な味がするのはそのせいである。
証拠にエミリアの言う通り、味には期待できず隊員達の評価も著しく低い。
つまり空腹時にはあるだけましだと思わなければならない代物である。
……三人はこれをどうするべきか悩んでいた。
はっきり言って自分達にはキツくて飲めない。まるで毒を飲むようなものであるが、せっかく彼女からもらったものを「飲めません」と言うのも気が引ける……。
「あら、どうしたの?」
「「「いいっっ!!?」」」
タイミング悪くエミリアが戻り、三人はとっさにレーションをグッと飲み干した。
「あら、これあなた達にも合わないかなと思ったから無理だったら飲まなくてもよかったのに……」
「へっ……」
飲んでしまったからにはもう遅かった。が、三人とも顔がひきつっているも、無理に笑顔を作った。
「だっ、大丈夫ですよォ……とても美味しかったです……ねえ、ジャイアン……?」
「そうだよ……。なあスネ夫?」
「う、うん……ははっはは……」
「……?」
とは言うものの……あんなキツイ飲料を一気に飲んだせいで胸焼けと吐き気が彼らに襲うが、彼らは意地でも吐くことはなかった。
「――なら、行きましょう」
しっかり休憩を取り、5人はまた走り出した。
しかし何やかんやで『レーション』を飲んだおかげか確かに疲れがとれたような気がした。
寧ろ、あの不味さが彼らに活力を出す活性剤となってくれたのかもしれない。
――しばらくして4人が着いた場所は広大な広さと周りには様々な精密機械が至る所に配置されて、その中央には巨大な塔がそびえたっていた。
――中央オペレーションセンターである。
しかし、もぬけの殻であり誰一人といないようであるが……。
「ここは……一体……」
「見たところ……この艦の重要場所であることには間違いないようだわ……ヴァルミリオン艦でいう中央デッキといったところかしら……?」
周りを見渡すがやはり静かで何か不気味だ。
「気をつけて……何が起こるか分からないわ……」
4人は離れずに気を引き締めて周辺を注意深く観察する。
……その矢先――
「ん!?」
明るかった自分達を中心に丸い影が現れた。
見上げるとそこには……。
その場で全員が硬直した。まるで時間が止まったかのように。
見えるは黒いタイツに身を包む大男。まるでこちらを嘲笑うかのような下品な笑みをし、鈍く光る左手で殴りかかるかのようにこちらへ落下してきている。
そして、その顔は開戦前にモニターで見た憎たらしいほどの余裕と威圧感をもった、今作戦、戦闘で史上最悪の被害を出した張本人、そしてエミリアにとって不倶戴天である本当の敵……ラクリーマであった。
「危ない!!」
エミリアは急いで彼らを全力で突き放し、自分もその勢いでその場から離れた2秒後、
奴の握りしめた左拳が地面に直撃。轟音と共に地面が激震した。
すぐに体を起こし、彼女達にその獲物を見つけたかのような野獣の瞳で狙いをつけた。
「……ここで待ってた甲斐があったぜ。絶対にてめえら連邦がここに来るってわかってたからなァ!!」
ついに彼らは対峙する、あの凶悪な犯罪組織『アマリーリス』の総大将、ラクリーマ・ベイバルグ。
その並みならぬ威圧感と殺気に早速圧倒されるドラえもん達。
「この男が……あの」
「う……ん」
「あわわわわ……っ」
人間とは思えない紅蓮の眼光が妖しく光っている。
エミリアもいつでも戦闘へ移せるように拳銃に手を忍ばせていた――。
一方、ラクリーマは……。
(何だ……あの青いタヌキみたいな奴とガキ共は……奴ら保育でもやってんのか?)
連邦隊員であるエミリアよりもその後ろにいる彼らが気になっていた。
するとドラえもんは自ら前に出て、彼にこう問い詰めた。
「の……、のび太君としずかちゃんは一体どこだ!!?それに無事なのか!!?」
「「「ドラえもん(ドラちゃん)!?」」
いつもなら出しゃばることのない彼が先に立って二人の居場所について問うのはかなり珍しい。
彼はそれほどまでにのび太としずかが心配だったのだろう。
しかしラクリーマは一向に喋らない。だが本人も少し驚いていた。
(ドラえもん……だと?あの時のび太が言ってたドラえもんとはまさかこいつのことか……、じゃあこのガキ共はまさか……)
ラクリーマの表情は段々とにやけてくる。
(そうか。こいつらはのび太達を助けにわざわざ地球から……。あいつらもなかなかいいダチを持ってるな……だがな)
なかなか考察が鋭いが、彼の心には一つしかなかった。
(ワリィなのび太。お前らは地球に帰れてもコイツらとはもう二度と会えねえわ。なぜなら……)