小説『傍観者』
作者:瑚蝶()

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(一人目)


人は何を考えて生きているのだろう。
僕はビルの屋上で世界を眺め思う。
人を嫌い、憎み、妬む
人は分からない。
僕も人なのに人が分からない。
僕は傍観者だ。
人の欲を見て、人の愚かさを見てきた。
だけど、もう疲れた・・・
人の愚かさだけを見てきた僕は人の優しさを忘れてしまった。
親も友人も愛した人さえも穢れた罪人に見えてしまう。
もう僕は駄目だ・・・
僕はずっとこの小さな檻に入っていた。
だけどそれに気づいた僕はこの世界と言う檻から逃げる。
この高い屋上から底見えぬ闇に落ちる。
さぁ、みんな見ろ!僕は自由になる!
「さよなら。穢れた世界・・・。」

少年は落ちた。
私が居ると知って、最後に幸せそうな笑みを見せ一言残し落ちた。
少年は止めて欲しかったのだろうか?
私は妙に長い時間、その場に立って同じ疑問を頭の中で繰り返した。
私は泣くことも恐怖することもなく無表情に少年が立っていた場所を見ていた。
傍観者であった少年が立っていた場所を・・・
私も傍観者になろう。
少年と同じ物を見て、少年と同じことを繰り返そう。
愚かなことを繰り返し檻から出よう。
私は二番目の傍観者だ・・・




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