小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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Side 一子


相手は今までよりもずっと強いのが肌で感じる。
大変かもしれないけど、勝つしかないわ。
無理矢理ペアにした流川君を守らなきゃ!

だけど、相手はアタシの予想以上に強かった。
無闇に二人相手に攻撃を振るってもするりと回避される。
かといって、1人に標的を絞ったら、この通り端まで吹っ飛ばされた。
相手が逆の端から走ってくる、どうやら二人同時に来るようだ。
すぐに体勢を整えようとするが、思ったより蹴りが深くまで入っていた。

でも、絶対に負けられない!
アタシが諦めたら、誰の支えにもなれない!







アタシは2年生になって、ファミリーの皆とおんなじクラスになって、とても
嬉しかった。
当然、そこには知らない人もいて、そんな中ウメ先生に出欠確認でいきなり、
鞭で叩かれた生徒がいた。
ウメ先生に「おう」なんて答えたのだ。

その生徒の名前は“流川海斗”。
無口で無表情、誰に対しても他人相手の京みたい、ううん、それ以上にそっけ
なく、とにかく人と話してるとこを見たことがなかった。

そんな彼のことが少しだけ気になった、何故だかは分からない。
たまたま起きていた授業などは彼のことを観察していた。

そして、気づいた、その瞳に。
あの誰も信用しようとせず、現実に飽き飽きしている気だるい瞳。
眼鏡のせいでよく見えなかったが、何度も見てようやく気づいた。

その瞳はアタシにはよく見覚えがあった。
孤児院にいたとき、親に捨てられたばかりの子たちが一様に持っていたその瞳。
人がやってくるのを拒むようなその瞳。
そこでアタシは何度も何人もそれを見た、あるいはアタシもそうであったのか
もしれない。

これが気になっていた理由だったのだ。

アタシはタッちゃんに守られて、川神院に引き取られて、ファミリーの皆と遊
んで過ごして、色々な人達に助けられて、支えられて、楽しい毎日がある。
今のアタシがいる。
だから、今度はアタシが助けて、支えになってあげたかった。

実際に話かけてみると、2文字の返答ばかりで流石の無口ぶりだったけど、無
視するなんてことは一度もされなかった。
絶対に悪い人じゃないと思った、本当は優しいんだと感じた。

だけど、表情だけは変わらないままだった。

もっと知りたかった、流川君のことを。
そして知って欲しかった、毎日は楽しいことを。

ウメ先生からタッグマッチの話があった。
ペアは自由に決めていいようだった。
途端にクラスの女の子たちは“流川君とは嫌だ”と言い始めた。
ヒソヒソ話のつもりだったんだろうけど、静かなクラス全体にその声は聞こえ
ていて、気まずい空気が流れた。
だけど、流川君はそれを大して気にした様子もなく、ただ現実として、受け入
れていた。
そんな横顔を見たアタシはペアに立候補した。
これでもっと仲良くなれると思ったから。

午後の授業がタッグマッチの準備にあてられた。
流川君は大和の話だと、あまり運動が得意でなく、力も強くないという。
だから、アタシが守ってあげるといった。

時間が余ったから、練習も嫌だろうと思ったアタシはしりとりを提案した。
相変わらず、無口だったけど、アタシは見事に遊ばれた。
せっかく勝てたのに、悔しくて必死に抗議した。

そんなときに流川君が初めて微笑みを浮かべた。
無機質でない、今まで見たことのない柔らかい表情だった。
それを指摘したら、流川君はばつが悪そうに帰って行っちゃった。

嬉しくて胸があったかくなった、手をあてると少しどきどきしていた。
修行で走り回ったあとのどきどきも好きだけど、それとは違って、でも、何だ
か心地よかった。







目の前で何が起こっているのか分からなかった。
敵二人の拳がアタシの前に立つ流川君に突き刺さっていた。
守ってたはずの人に、今アタシは守られていた。

別に一瞬でアタシの前に移動したとか、そんな離れ技をしたわけじゃない。
見えていた、隅にいた流川君が、相手が攻撃のモーションに入る前に、こちら
に向かって歩いてくるのが。
ホントにゆっくりとアタシの方へ近づいてきた。

そして、アタシの驚きで大きく開いた瞳を見て、溜息を吐いたかと思うと、何
が起こってるのか分からずにざわめく会場も無視して、アタシの前で停止した。
状況が飲みこめずにただ前の流川君の背中を見ることしか出来なかった。


Side out


右のあばらと左のわき腹に二つの拳が突き刺さる。
てか、この女の方がダメージでかいってどうゆうこっちゃ。
だが、俺は声を上げることもなく、その場にとどまる。


「あれれ〜?」

「おいおい、こいつ攻撃が効いてねえのかよ。」


馬鹿か、しっかり痛いっつーに。
しかし、あれだ。
我ながら馬鹿なことをしたもんだ。
放っておけば、試合は終わって、目立つことなく終了したってのに……

本格的に自分が分からなくなってきた。
偉い迷惑だよ、人の意志に干渉してくるなんてな。
はあ、もうやってしまったものはしょうがない。
腹くくって、これからを考えるか。

動いたからにはこの勝負、勝たせてもらわねえとな。

-8-
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