小説『この気持ち』
作者:小仁沢 為絵(BRAVO!Nippon)

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 家に帰ってからも高瀬のことばっかり考えていた。
 どうして学校休んだんだろうとか、その頃にはもうそんなことどうでもよくなってて、頭の中には、笑った高瀬の顔しか浮かんでこなかった。
こんなに高瀬のことばかり考えて、あたしの好きは友情じゃなくて、もしかしたら恋なのかも。
 そんなことをつらつら思っていたらいつのまにか寝ていた。
 携帯が鳴って目が覚めたとき、時計は12時をさしていた。
 ディスプレイに高瀬の名前が表示されている。あたしは慌てて受話ボタンを押した。
「もしもし」
『あ、柳川?俺、高瀬』
 別に名乗らなくても解っている。
「告白の返事ならまだはっきりとは出てないよ」
『いや、別にそれを聞きたくて電話したんじゃないんだけど・・・』
「じゃあ、何」
『電話したかったから』
「夜中なのに。あたし今寝てたんだよ?」
『電話をしたいと思ったときにするのが恋なんだよ、柳川』
「意味が解らない」
『恋人ってのはそういうのを許せる関係なんだってこと』
「あたし恋人じゃないから」
『そうだな』
 高瀬の乾いた笑いが聞こえる。
「何で学校休んだの」
『昨日の夜どうしても落ち着かなくて、眠れなくて、一晩中ジョギングしてたから寝不足で』
「あんたって本当に馬鹿だね」
『馬鹿っていうなよ。こっちは頭のなか柳川のことしかなくて、何見てもお前の顔に見えて大変だったんだぞ』
「何見ても?」
『そう。月を見たらお前の顔が浮かんでくるし、駐車場に止められた車のタイヤもお前の顔に見えるし、自販機でジュース買おうと小銭を出した時も小銭一枚一枚が柳川の顔に変わっていって大変だったんだ』
「・・・とりあえず、それは病院に行ったほうがいいと思うよ」
 ていうか高瀬の頭の中では円いもの=あたしなのか?あたしってばそんなにまる顔なのか?
『そう思うならお前が家にきて看病してくれよ』
 冗談めかして高瀬が言い、笑った。
 声を聞いたら高瀬の子どもっぽい可愛い笑顔か頭に浮かんできた。
「高瀬、あたし一つ解ったことがある」
『何だよ?』
「あんたがいないとね、クラスの雰囲気暗いよ。やっぱりあんたはクラスのムードメーカーなんだよ」
『今頃解ったのかよ』
「あんたが学校に来ないから、今日、あたしつまんなかった」
『そうか』
「あたしも一日、高瀬のことばっか考えてた」
『・・・うん』
 高瀬の声が少し小さく聞こえた。
「本当はね、少し会いたかった・・・・・かも」
『かもって何だよ?そこは冗談でも会いたかったよって言おうよ』
 あ、ボケと突っ込みが逆になった。高瀬に突っ込み入れられるなんてあたしもまだまだだな。
「だから今から行くね」
『何それ!?どうしてそういう展開になんだ』
「看病しにこいって言ったでしょ。だから行くから待っててよ」
『だってもう12時過ぎてるぞ?』
「あたしは『今』、高瀬に会いたいの。会いたいときに会いに行く、それが恋ってものなんじゃないの?」
 高瀬が息を呑む音が聞こえた。
「会いに行くから。返事もちゃんと持っていくから。お茶くらい用意しといてね」
『俺も途中まで迎えに行く!自転車で来いよ、歩きよりかは危なくねーから!!』
 高瀬は一方的に電話を切った。
 慌てて準備をしている姿が想像できて笑えた。
 着替えをすまし、こっそりと外に出て、自転車にまたがった。
 高瀬に会いたい。今すぐ会って、話がしたい。
 高瀬の子供っぽい笑顔を見て、安心したような気分になりたい。
「この気持ちを何て呼ぼうか」
 答えは出ているのに、あたしはそんなことを考えながら、ペダルを思いきり踏み込んだ。


(FIN)

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