小説『この気持ち』
作者:小仁沢 為絵(BRAVO!Nippon)

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 週番だった私は放課後教室に残って週番日誌を書いていた。
 そしたら突然、帰ったと思っていた高瀬が教室に飛び込んできて、
『柳川、俺と付き合ってくれ!付き合ってくれないならここから飛び降りて死んでやるからな!』
 そう言って、高瀬は窓のところまで走ってってあたしの方を振り返った。
 まさかそんなことを言われるなんて思っていなかったあたしは、返事に困り咄嗟に、
『じゃあ、死ねば』
 と言ってしまった。
『なんだよ、もう少し考えるとかないのかよ!てか死ねばって冷たすぎだろ!!』
自分で死ぬとか言っといて、高瀬は今にも泣きだしそうな顔であたしを責め立てた。
『だって、あたしには死にたいって言ってる人を無理矢理生かそうとする権利なんてないし。あんたが死にたいなら、死ぬのがいいんじゃないかな』
 あれ、でもここ二階だけど死ねるのか?
『なに権利って!?せめて一回くらいは止めてあげようよ。みんな心の中では止めて欲しいと思ってるんだぞ。それを、お前、じゃあ死ねってさ。それに俺は死にたいわけじゃないしさ!』
『じゃあ、何がしたいのよ?』
『お前と付き合いたいんだ!』
 高瀬が声を張り上げる。
『そんな突然言われても困る』
『告白は突然するもんだろ!?』
『まぁ、そうだね』
 本当に困った。
 あたしは生まれてこの方恋というものをしたことがない。だから高瀬には悪いけど高瀬の気持ちが解らない。
 高瀬は友達としてじゃなく恋人としてあたしと付き合いたいといっている。
 あたしも高瀬は好きだけど、恋じゃない。友情だ。でもあたしには恋と友情の好きの違いが解らない。
 あたしが高瀬を好きなのは一概に友情といっていいものなのか。
『柳川、どう?』
 高瀬が窓枠にしっかり手をかけ言う。
『だってあんた断ったら死ぬんでしょ?死なれちゃ困るもん』
『さっきは死ねって言ったじゃないか!』
『あたしが原因で死なれちゃ困るの。てかこれってある種の脅迫みたいなもんじゃない?』
『そんなことはない』
『あるよ。てかそうだよ』
『で、どうなの!?いいの!?駄目なの!?』
 声を荒げて言いながら、高瀬は窓の鍵を外した。
『とりあえず窓から離れてよ』
『結果を聞くまでは嫌だ』
『解んない。今日、一晩考えさせて』
 一瞬高瀬は少し残念そうな顔をしたけど、すぐに笑顔になって、
『わかった。じゃあ明日な!』
 と言って来たときみたいに教室を飛び出していった。


「高瀬も変だけどあんたもそうとう変だよね」
「ありがとう」
「誉めてない。死ぬって言われて、じゃあ死ねって人としてどうよ」
「いいんじゃない」
「よくないでしょ。ま、そんなことより、答えは出たの?」
「昨日の夜、考えてるうちに寝ちゃって」
「あんた実はすごい馬鹿でしょ」
 2回目のため息を吐く瑠璃ちゃんの手には、まだウィンナーがある。
「高瀬のことだから、あんたからの返事を色々想像して昨日の夜眠れなかったんじゃない?」
「それが休みの理由?」
「精神的にもまいってるとか」
 本当にあたしのせいで体調崩してたらなんか嫌だな。
「高瀬のこと嫌いじゃないんでしょ?」
「始めの頃に比べればむしろ好きな方だよ」
「じゃあ迷うことなんてないじゃない」
「だって友情の好きと恋の好きってどう違うのか解んないし」
「そんな細かいことどうだっていいじゃない。
 高瀬はあんたが好き。あんたも高瀬が好き。それでいいじゃない」
「よくないよ。高瀬は本気であたしのことを好きだって言ってくれてるのに」
 たとえ冗談でも、高瀬はあたしのために死のうとした(?)のに。
「半端な気持ちじゃ駄目だよ。高瀬を傷つけるかもしれない」
「あいつが傷つくか?」
 瑠璃ちゃんがようやく、箸に刺さったままのウィンナーを口に入れようとした。
「瑠璃ちゃん、うさぎさん林檎あげるから、タコさん頂戴」
 瑠璃ちゃんの手の動きが止まり、3回目のため息を吐いた。
「欲しいなら欲しいって最初からそういいなよ」
 あたしの大きく開いた口のなかにタコさんウィンナーが放り込まれた。
「別にあんだが告白されたからって言うわけじゃないけど、何だかんだ言って高瀬がいないとこのクラスって、なんか味気ないよね」
「高瀬、今、何してんだろ」
「口の中に物を入れたまま喋るな」
 瑠璃ちゃんに叱られて、あたしはとりあえずタコさんを食べることに専念した。
 高瀬、本当に、今何してんだろう。


 それからずーっと恋と友情の好きの違いを考えていたけれど、結局あたしの答えは出なかった。
というか途中から何を考えていたのかすら解らなくなってしまって、最後の方は高瀬が学校を休んだ理由ばかり考えてた。
 昼休みから放課後までクラスの様子を見ていて瑠璃ちゃんの言うとおりやっぱり高瀬がいないと何か物足りない。
 解ったことといえばそれだけだ。

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