小説『ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方』
作者:amon()

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交錯する思考……それぞれの行動は!?の巻



「……思った通りか」

 パプニカに到着して数時間……俺は地底魔城に来ていた。正確には、地底魔城近くの岩場の陰にだが……。

 予想通り、地底魔城は魔王軍がパプニカ侵攻の前線基地として使っていた。周囲には見張りと思しき死霊の騎士にミイラ男などのアンデットモンスター……確か、クロコダインが言っていたな。魔王軍はモンスターの性質によって“百獣”“氷炎”“妖魔”“不死”“超竜”“魔影”の6つの軍団に分かれている、と。

 奴らはまず間違いなく“不死”の軍団だろう。まあ、不死と言っても別に死なない訳ではない。アンデット系はしぶといが、ある程度砕いてしまえば形体を維持できず崩れ去る。要するに、普通のモンスターと大差はないという事だ。

「……特に騒いでる様子はなし、か」

 徘徊しているモンスター共は、見る限り普通の哨戒行動を取っているだけだ。もしダイ達が攻め込んでいたら大騒ぎになっているはずだから、ダイ達はまだここを突き止めていないと見た。

「流石に早く来すぎたか……」

 途中の航海が順調に行ったとすれば、ダイ達がパプニカに到着したのは昨日ぐらいだろう。パプニカ王国の地理に明るくないダイ達では、たった1日そこらで街からそれなりに離れた場所にある地底魔城を探せないか。

「さて……どうするか」

 敵の戦力は不明だが、百や千じゃあ済まない数なのは間違いないはずだ。とはいえ、今の俺のレベルなら雑魚が幾ら集まっても勝てそうな気もする。それに、軍団長の力量もクロコダインの事を考えれば、多分勝てない事はない……と思う。

 しかし、だからと言って俺がやってしまっていいものか……。

『カカカカ……』

 おっと、ガイコツが近くを通った。こんな場所で長々考え事をしていると、なし崩し的に一戦交える事になりそうだな。

「ん……あっ、そうだ!」

 こんな時に役立つ便利なアイテムがあった。“ふくろ”に手を突っ込み、中から取り出す。

「変化の杖……出したの何年ぶりだっけか?」

 かつて『破邪の洞窟』で見つけ、役立てる機会がなく、“ふくろ”の中で眠っていた『モシャス』の呪文が込められた杖――ゲームの『モシャス』は変身できる姿を選べないが、この世界のは自分で思い描く姿に変身できる。

 こいつで骸骨にでも変身すれば、地底魔城に潜入し、内部を調査できるかも知れん。

 ただし、問題が2つ……。

 1つ目……姿を変えても、それを見破られない保証がない事。ゲームでもそうだったが、ダンジョン内で姿をモンスターに変えても、モンスターは襲い掛かってくる。少なくとも『破邪の洞窟』ではそうだった。しかし、あの洞窟のモンスターと地上のモンスターは若干違うので、判断が難しい……。

 2つ目……変化の杖で変身していられる時間は30分に限られている事。変身中は常に時間に気を付けなければならない。内部に潜入できたとして、中でうっかり変身が解けてしまったら、強制的にモンスター軍団と戦闘になる。騒ぎを起こせば、軍団長も出てくるだろう。

「……だが、リスクを承知で試してみる価値はありそうだ」

 ここで魔王軍のモンスター相手に変身呪文が通用するなら、後々、ダイ達の援護の幅も広がる。見張りの骸骨相手に通用したら、中に潜入し、駄目だったら1度退けばいい。

「そうと決まれば……“変化の杖よ、我の姿を我の望む姿へと変えよ”」

ボゥン

 僅かな白煙が俺の姿を包み、それが晴れた時……俺はそこらをウロついている骸骨と同じ姿になっていた。何とも都合のいい事に、変身している間は装備品や持ち物は見えなくなるので、外見で怪しまれる事はない……はずだ。

「これで良し、っと!いかん……カカカカ!」

 よし、即興だが演技はこんな感じでいいだろう。

「じゃあ、行ってみっか。カカカカ……」

 意を決し、茂みから出て見張りの骸骨に近づいていく。怪しまれない様に、不自然でないように心がけながら……。

『カカカ……おお、歩哨お疲れさん!』

「カカカ……ああ、そっちも見張りお疲れさん」

 どうやら、骸骨に変身を見破られる事はなかった様だ。て言うか、骸骨でも仲間内だと普通に喋るんだな、しかもフランクに……そこが1番驚いた。

 俺はとりあえず、そのまま階段を降りて行き、懐かしい『地底魔城』へと足を踏み入れた――。



≪SIDE:ダイ≫


「「「地底魔城!?」」」

 パプニカのお城の跡から離れた森の中で野宿し、一晩を明かしたオレ達は、朝になってヒュンケルから魔王軍の拠点に間違いないという地底魔城の事と聞かされた。

「ああ。魔王ハドラーが居城としていた、死火山に建造された魔城だ。新たな魔王軍がパプニカ攻略の拠点とするには、打って付けの場所だろう」

「ヒュンケル!その地底魔城の場所を知ってるの!?」

 オレが聞くと、ヒュンケルは頷く。

「15年前の事になるが、俺は兄と共に地底魔城に行った事があるからな。城の場所は覚えている」

「よぉし!それなら早速、魔王軍をやっつけに行こう!」

「おっしゃあ!」「ええ!」

 ポップとマァムが立ち上がる。だけど――

「待て!」

 ヒュンケルが止めてきた。勢いを止められて、オレ達はズッコケそうになる。

「っとと、なんだよぉ!?」

 ポップが文句を言うけど、ヒュンケルは真面目な顔のままオレ達を見ている。

「闇雲に攻めるのは得策ではない。敵は多勢の上に、自分達の拠点で戦う事で地の利を得られる。対して俺達は4人だけの上に、敵の戦力も地底魔城の構造も知らん……」

「で、でも、ヒュンケルは昔、地底魔城に行った事があるんでしょ……!?」

「俺が6歳の頃の話だ。それに、兄にくっついて行っただけだしな。記憶は曖昧な上に、内部の構造が変わっている可能性もある」

 オレの言葉にも、ヒュンケルは冷静に返してくる。だけど、そのおかげでオレ達も冷静になれた……。

 確かにレオナの国を、パプニカ王国を滅ぼした魔王軍は許せないけど、何の作戦も無しに突っ込んでも勝てるもんじゃない。クロコダインの時は、百獣魔団がロモス王国に攻めてきて、軍団長であるクロコダインと一騎打ちが出来る状況だったから何とか勝てたんだ。

 だけど、オレ達が不死騎団を倒そうとして攻め込んだら、クロコダインの時とは逆……沢山のモンスターとその軍団長を、オレ達はたった4人で相手にしなければならない。

 何か、作戦を考えないと……。

「っ!」

 突然、ヒュンケルが鋭い目付きになって後ろの茂みを睨み付けた。

 もしかして敵!?そう思ってオレ達も身構える。

 だけど――

「むむ!もしやと思って来てみたが、やはり旅の者じゃったか!」

 茂みから顔を出したのは、ボロボロの鎧を着て髭を生やしたお爺さんだった。

「君達、余所から来たもんじゃな!ここらは不死騎団のモンスターがウロついとって危険じゃ!すぐに火を消してワシについて来なさい!」

「な、なんだぁ?この爺さん……」

 ポップが唖然として呟く。すると、お爺さんが鋭い目付きでポップを睨んだ。

「爺さんじゃと?無礼者ッ!!ワシを老人扱いしおって!ワシはパプニカ王女レオナ姫の御付きの兵士の1人バダックじゃッ!」

「えっ!?」

 今、レオナ姫って!?

「ふ……まあ、見ての通り、今では単なる落ち武者じゃがのう」

「ば、バダックさん!!レオナはっ!?ねえ!レオナ姫は無事なんですかッ!?」

「む?姫を呼び捨てに……という事は姫がそれをお許しになったという事……君は、もしやダイ君か?」

「そうです!オレ、ダイです!」

「おお!そうじゃったか!」

 バダックさんは顔を綻ばせる。

「君の事は姫様からよく聞かされていたよ。まさかこんなところで出会うとは思わなかったわい!」

「それで、レオナはっ!?レオナは生きてるんですか!?」

「うむ、生きておる」

「っ!」

 生きてる……!レオナは、生きてるんだ!

「で、そのレオナ姫は何処にいるんだい?」

「……そこまでは分からん」

 ポップが尋ねると、バダックさんの表情が暗くなった……。

「不死騎団の襲撃で神殿が破壊された時、みんなと離れ離れになってしまったもんでなぁ……。ワシがもっとしっかりしておれば、レオナ姫を見失う事もなかったんじゃが……」

 バダックさんも、レオナの行方は知らないんだ……。レオナ、今、どこにいるんだろう……?

「だが、姫の傍には常にパプニカ最強の賢者3人がついておる!きっと、この大陸の何処かに無事生きておられる筈じゃ……!!」

「……よかった……!」

 レオナは生きている……それが分かっただけでも、少しホッとした。何処にいるかは分からないけど、生きていればきっと会える!

 その為にも、早く不死騎団をやっつけなくちゃ!

「さあ、こんな所で立ち話もなんじゃ。とにかくワシについて来なさい!ワシの隠れ家に案内しよう!」

「はい!」

 先導するバダックさんに、オレ達は手早く荷物を纏めて着いて行った――。



≪SIDE:OUT≫


『カカカカ……!』

 通路を歩いている途中、骸骨とすれ違う。地底魔城に入り、『変化の杖』で変身を繰り返しながら1時間余り……何度となく死霊の騎士やミイラ男といったアンデット系のモンスターとすれ違っているが、今のところ正体を見破られる事なく、内部を探る事が出来ている。

 地底魔城の構造は大体調べ終えた。ここまで見て回った限り、15年前と大差はない。

 それにモンスター達の会話を盗み聞いて、ここのモンスター共のボスの名前も分かった……。“邪教神官”デスカール、名前だけでも既にアンデットっぽい名前だ。

 今、この地底魔城にいるらしい……というか、ハドラーの招集を受けて魔王軍の本拠地である『鬼岩城』とやらに行っていたが、昨日戻って来たらしい。

 そして、現在、何かの作戦が準備中らしいんだが、どうも配下のモンスター共にも詳細が伝わっていないらしく、骸骨やミイラ男らがやや怪訝そうに話していた。見た限り、盗み聞いた限りでは、軍団のモンスターの半数以上が何処かへ移動しており、残りのモンスター共だけで勇者――つまりダイ達を迎え撃つつもりらしい。

 奇妙だ……何故、わざわざ拠点を手薄にする様な真似をする?たった3人のダイ達には、半数以下のモンスターで充分だとでもいうのか?

 いや、既に6軍団長の一角であるクロコダインが討ち取られているんだ。戦力は多いに越した事はないはず……、何か他の狙いでもあるのか?

『カカカカ……急げ急げ!!』

 それにしても、さっきから骸骨共が妙に騒がしい……。作戦云々とはどうも違うっぽい。何か、不測の事態に慌てて対処している様な感じだ。

 奴らの言葉を盗み聞き、動きを見る限り……入口の方に何かある様だ。

「カカ……見に行ってみるか」

 俺も走る骸骨共に混じって、地底魔城の入口の方へ向かった。


 そして、入口に近い通路に差し掛かった時――


「……地底魔城か……15年ぶりだな……」

「ッ!?」

 俺は思わず通路の陰に身を隠した。

 そこを歩いてきたのは、多少見た目が変わったハドラーだった……どうやら、力が増しているらしい。デルムリン島で見た時よりも威圧感が増している。

「ここはかつてはハドラー様の主城であったとか……」

 そう言ったのは、背丈がハドラーの3分の1ぐらいしかない魔族の爺だった。恐らく、参謀役か何かだろう。それに、手下としてアークデーモン2体を引き連れている。

 あの様子からすると、ここに来た目的は助太刀ではなく、戦場視察といったところだろう。

「……これはこれは、魔軍司令閣下……」

「む……」

 ハドラーの前に1人の男が現れる……黒いローブに身を包み、骸骨面を被った不気味な男だ。あれが多分、“邪教神官”デスカールとかいう、ここのボスだ。

「わざわざおいでになるとは……何用ですかな?」

「……戦場視察というところだ。お前に作戦を任せたものの……クロコダインの例もある。少し心配になってな……」

「フフ、心配には及びませぬ。既に、彼奴等を迎える準備は万端に整っております……」

「ほう……」

 何だろうな……あの2人の間の空気、とても司令官と部下とは思えん。まるで腹の探り合いだ。

「……まあ、それならばよい」

 先に切り上げたのはハドラーだった。

「問題が無いと言うのなら、俺から言う事はない。首尾よくやれ」

「御意……」

 デスカールが軽く会釈すると、ハドラーはマントを翻して踵を返す。来た道を戻ろうとしたが、すぐに足を止めた。

「最後に1つ聞きたい。クロコダインがこの大陸に来なかったか……?」

「む?クロコダインですと……?」

 クロコダイン……?あいつは確か、ダイが討ち取ったはずだが……。

「蘇生液の水槽から完治せぬまま出て行きおった……。もしや、ダイのいる場所へ向かったのでは……と思ってな」

 今のハドラーの話からすると、奴らは軍団長が死んだ場合に備えて蘇生設備を持っている。そして、クロコダインはその設備で生き返ったという事になる。

「……見ておりませんな。躯の兵士共からも、その様な報告は受けておりません……」

「そうか、ならばよい……」

 それだけ言うと、ハドラーはそのまま地底魔城を出て行った。

「……ふん」

 デスカールも、出て行ったハドラーに鼻を鳴らして、黒い霧になって消えた。

 何ともよく分からない展開だったが、少なくとも現在この地底魔城で不死騎団が展開している作戦というのは、魔軍司令ハドラー公認の作戦だという事は分かった。尤も、分かったところで何の判断材料にもならないがな。

 さて……俺はこの先、どう動くべきか……。

 考えを巡らせつつ、俺は通路を後戻り、再び見回りの骸骨共に紛れた――。



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