小説『ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方』
作者:amon()

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新たな“アバンの使徒”!その名は戦士ヒュンケル!!



≪SIDE:ポップ≫


「怪我はないか?」

 死霊の騎士の群れを一瞬で片付けた銀髪の剣士が、瓦礫の上から降りて来て、オレ達に声を掛けてきた。なんだよ、結構ハンサムじゃねえか……チキショー。

「助けてくれて、どうもありがとう!あの、あなたもアバン先生の弟子なんですか!?」

「何?」

 ダイが聞くと、銀髪の剣士が少し驚いた顔になる。

「アバン先生を知っているという事は……お前達は……」

 確信1歩手前って感じの銀髪のハンサム剣士に、ダイが懐から“アバンのしるし”を取り出して見せた。

「“アバンのしるし”……!そうか、やはりお前達もアバン先生から教えを受けたのか」

 銀髪ハンサム剣士はフッとキザっぽく(別にハンサムを僻んでる訳じゃねえ!)笑うと、マントの内側に下げた鞘に剣を納めた。

「名乗るのが遅れたな。俺の名はヒュンケル。察しの通り、俺も勇者アバンから剣を教わった者だ」

 そう言うと、ヒュンケルと名乗った銀髪ハンサム剣士は懐からオレ達のと同じ“アバンのしるし”を取り出して見せた。

「やっぱり!という事は、オレ達の兄弟子って事ですね!」

「そうだな。アバンの弟子、という呼び方をするなら、俺はその最初の1人という事になる」

「えっ!?じゃあ、1番弟子!?」

「凄〜い!」

 ダイとマァムは、ヒュンケルの言葉に素直に驚いてる。1番弟子で腕も立ってハンサムとか……完璧かよ。

「通りで!どことなく風格があると思ったわ♪」

「そ、そうか……?」

 なんだ、マァムの奴……ハンサムと見て目の色変えやがって……ちぇ。

「ところで……この国は、一体どうしたの!?」

 急に真面目な顔になって、マァムがヒュンケルに尋ねた。だけど、ヒュンケルは首を横に振る。

「俺も、つい昨日この国に着いたばかりで詳しくは知らん。だが、魔王軍に滅ぼされたのは間違いなかろう……」

 さっきの死霊の騎士達の事か……ネルソン船長が言ってた“不死身の軍隊”、やっぱりパプニカ王国がそいつらに滅ぼされたのは間違いなさそうだな……。

「レオナは……!この国の姫はどうなったか、知りませんか……!?」

 ダイが必死な顔で尋ねたけど、またヒュンケルは首を横に振る。

「さっきも言ったが、俺も昨日この国に着いたばかりなんだ。そして、着いた時には既にこの惨状が広がっていた。いるのはモンスターばかり……少なくとも、俺はここに来てから、お前達以外に生きた人間を見ていない」

「「「…………」」」

 ヒュンケルの言葉に、オレ達は黙るしかなかった……。

 特に、ダイは辛いだろうな。オレやマァムは、この国に知り合いがいないからまだ良いけど……ダイはパプニカのお姫様と友達なんだもんな。ここまで来たのだって、魔王軍に苦しめられてるお姫様を助ける為なんだから……。

「……レオナ……生きててくれ……!」

 ダイがそう呟いたのが、オレには聞こえてた。

「……ダイ!元気出せって!大丈夫っ!きっとどっかに逃げ延びて、お前が助けに来るのを待ってるさ!」

「うっ!ぽ、ポップ……」

 オレは発破を掛けてやろうと思って、ダイの首根っこを抱えてちょっと強引に引き寄せた。

「ピンチのお姫様を颯爽と助けるのが、勇者ってもんだろ〜。なっ♪」

「……そうだね。ありがとう、ポップ!」

「へへっ、水臭いこと言うなって!」

 オレ達ぁ仲間なんだからな。助け合って、励まし合うのは当然のことってな。まあ、今のオレだから出来るんであって、昔の……ダイと旅に出る前のオレじゃあ出来なかったな、絶対。我ながら情けない話だけどさ……。

「……あなたに会えたのは不幸中の幸いだったわ」

 マァムはそう言うと、ヒュンケルに1歩近付く。

「これからは、私達と一緒に戦いましょう!」

 右手を差し出すマァム。

「ああ、この国を攻め滅ぼした魔王軍と共に戦うことに異論はない。だが……」

 そこでヒュンケルはすまなそうに眉を寄せる。それに、マァムの手も取らなかった。マァムは困惑した顔になる。

「ヒュンケル?」

「……すまん。同じ“アバンの使徒”として、お前達の力になってやりたいのは山々だが……今はまだ、お前達と共に旅をする事は、出来んのだ」

「そんな……どうしてっ?」

「俺にも、旅の目的がある。その目的を達するまでは、1人で旅を続けたい」

「何だよ?その目的って」

 気になったんで、オレはヒュンケルに旅の目的とやらを聞いてみた。

「15年前に生き別れた兄を探している」

「お兄さんがいるの?」

 そう聞いたのはマァムだ。ヒュンケルは頷くと、さっさとは打って変わって穏やかな笑みを浮かべる。

「兄弟と言っても、血の繋がりはないのだがな」

 ヒュンケルはそう言って、空を見上げる。

「今から21年前……赤ん坊だった俺は、魔王ハドラー率いる旧魔王軍の攻撃により焼かれたとある町で、置き去りにされていた所を兄に助けられたのだ。兄にも両親はなく、たった1人で赤ん坊だった俺を育ててくれた。兄は、俺に初めて家族の温もりを与えてくれた男なのだ」

 誇らしげに語るヒュンケルだけど、ちょっと寂しそうにも見える……。こいつは、本当に兄貴を尊敬してんだなぁ。

 オレは1人っ子だから、兄弟ってよく分かんねえけど……あんな風に尊敬できる兄貴がいるって、なんか羨ましい気もするな。

「へえ〜、凄いお兄さんなんだね!」

 感心したダイが言う。そういや、ダイも1人っ子だっけな。

「ねえ、ヒュンケル!お兄さんの名前は何て言うの?」

 続けてダイが尋ねた事に、オレは思わずポンと手を打ちそうになった。1番肝心な事を聞いてなかったもんな。

「ああ、兄の名は……むッ!!」

 急に鋭い目つきになり、鞘に納めた剣を抜くヒュンケル――その次の瞬間!

ボコォォッ!!

『『『『『カカカカカカァーーー!!!』』』』』

「げぇ!?また出やがった!ガイコツ!!」

 床を跳ね上げて現れた死霊の騎士の群れを見て、オレは思わず叫んじまった……!オレは慌てて魔法のステッキを構え、ダイ達も武器を手に取る!

「ここではゆっくり話も出来んな……奴らを片付け、ここを一旦離れるぞ!遅れるなっ!!」

「うん!」「お、おう!」「ええ!」

 いつの間にかリーダーっぽく指示を出したヒュンケルに続く形で、オレ達は死霊の騎士の群れに踊り掛かった――!



≪SIDE:OUT≫


 ダイ達と一時的に別れて3日目……。

 ロモスに残って休養していた俺の身体も、大分回復してきた。

 ダイがクロコダインを撃破した翌日は、起き上がる事もできなかったが、2日目には身体を起こすぐらいには回復し、3日目の今日はもう歩ける。とは言え、全快とまではいかず4割程度……。


――――――
エイト
HP:317
MP:486
Lv:102
――――――


 恐らく、あと4・5日もすればHPも満タンになるだろうが、それまで待っていられない。先にパプニカ王国へ向かったダイ達が気掛かりだ。悠長に寝ている訳にはいかない。


 という訳で、動ける様になった今日、俺はロモス城を出る――。


「エイトよ、本当にもう行くのか?いつまで居てくれても構わんのだぞ?」

 補修工事中の謁見の間ではなく、ロモス王の執務室にて――俺はロモス王と対面し、旅立つ旨を伝えると、ロモス王は俺の体調を心配してか、やんわりと引き止める様な事を言う。

「ご厚意、痛み入ります。しかし、もう十分休ませて頂きました。それに、なるべく早くダイ達に合流したいのです。我が儘をお許し下さい」

「おお、そうだったな。いや、そなたが謝る必要などない。ワシこそすまなかった……無理に引き止める様な事を言って、そなたを困らせてしまったな、許しておくれ」

 温和な人柄をそのまま表す様な笑みを浮かべ、ロモスは俺に詫びてくる。この世界の一国の王の中でも、ロモス王が1番穏やかな性格の持ち主だろうな、きっと。

「……冒険家エイトよ、ダイ達を助けてやっておくれ。あの子達には、そなたの力が必要だ」

「はい!」

 言われるまでもない。ダイは、親友バランとソアラの息子……俺にとっても息子同然の存在だ。マァムだって同じ、親しく付き合いがあるロカさんとレイラさんの大切な娘……なら、俺にとっても娘同然、そうでなくても妹みたいなもんだ。ポップは……まあ、少し繋がりは薄いが、小生意気な弟分ってところか。

 いずれにせよ、俺にとって大切な奴らだって事には変わりない。人生の先輩としても、色々サポートしてやらないとな。


 そうして俺は、ロモス王から薬草や食糧など幾つかの餞別を渡され、ロモス城を後にした。

 去り際に、俺が蘇生・治療した兵士達に取り囲まれて、口々に礼を言われて大分引き留められた……。

「「「「「あなたは、我らの大恩人です!ご武運をお祈りしております!」」」」」

 それ以前に、城で静養中にも蘇生させた兵士の家族を名乗る人々が、結構な数で押し寄せてきた。

「夫を助けて頂き、本当にありがとうございました!」

「おとうさんを助けてくれて、ありがとう!おじちゃん!」

「息子の命を救ってくれて、なんとお礼を言えば良いか……!」

 あんなに大勢に感謝されたのは本当に初めてで、戸惑うばかりだったが……後になってみれば、照れ臭くてむず痒い様な、でも悪くない気分だった。

 だが……気持ちを切り替えなければいかん。これから、また魔王軍と戦いに行くのだからな。

「さて、行くか。『ルーラ』!」

 城を出たところで、俺は『ルーラ』で空へ上がる。パプニカは過去に何度か言った事があるから、『ルーラ』でひとっ飛びだ。


 光の球になって空を飛び、海を越えて、ホルキア大陸を治める国――パプニカ王国に到着する。所要時間……およそ5秒ってところか。

 まあ、そんな事はどうでもいいとして……。

「……酷いな、こりゃ」

 降り立ったパプニカの町は、完全なゴーストタウンと化していた。

 建物は壊され、町並みは荒れ放題……人の姿も気配もなく、ただ風だけが通り抜けていく廃墟の町……それが今のパプニカだ。前に来た時は港に船が停泊し、船乗りや商人達が行き交い、町には住民達の活気にあふれていた。

 なのに……今や幽霊でも出てきそうな雰囲気だ。

 昔、ハドラーが魔王として世界中に侵攻していた頃、こんな雰囲気の町や村を幾つか見た事がある。

 パプニカ王国は、既に陥落したという訳だ。

「ダイ……ショックだったろうな」

 あいつらは先にここに着いて、この光景を目の当たりにしたはずだ。なら、パプニカのレオナ姫を救う目的があったダイは、さぞ辛かっただろう。

 とにかく、あいつらと早く合流しないとな……。

「……という訳だから、さっさと片付けさせてもらうぞ」

 俺は右手で“ふくろ”からメタルウイングを取り出し、投擲の体勢を取る。それに次いで、物陰から俺を取り囲むように現れたアンデットモンスターの群れ――死霊の騎士2体、ミイラ男3体、腐った死体3体……どれもこれも気味の悪いモンスターばかりだ。ついでに、ミイラ男と腐った死体が臭え……動いてようが襲って来ようが、結局、死体は死体って事か。

 早く片付けて燃やそう――。

「『超パワフルスロー』!!」

『『カ!?』』「「「ゴガァ!?」」」「「「オオ〜……!?」」」

 メタルウイングの一投で、死霊の騎士は粉微塵になり、ミイラ男・腐った死体は真っ2つ……魔物の群れをやっつけた、って奴だ。

「それじゃあ、厳かに火葬してやるか……『ベギラマ』!!」

 一回りして戻ってきたメタルウイングを右手でキャッチし、空いた左手で呪文を使う。左手から閃熱エネルギーを放ち、動かなくなったアンデットモンスター共を焼いていく。

 この世界では『メラ』系呪文が炎なのに対し、『ギラ』系呪文はレーザーの様な感じだ。一応、当たれば対象は燃えるが、衝撃もあるので炎で焼くより派手に残骸が散らばってしまうのが難点だ。

「それにしても……アンデットモンスターの軍団か」

 事前にロモスで、パプニカに侵攻している魔王軍の大まかな情報は得ていた。曰く、“不死身の軍隊”……確かに、元々死んでいるアンデットなら不死身は不死身だな。

 アンデットは、魔王だったハドラーもよく使っていたモンスターだ。恐らく、軍団の編成がやり易いからだろう。

「そう言えば……ここには地底魔城があったな」

 かつての魔王の根城なら、規模を拡大した魔王軍が前線基地として再利用していても不思議はない。

「……行ってみるか」

 ダイ達と合流したいのは山々だが、町がこの状態ではもういないだろうし、どこに行ったか手掛かりもない。合流転移呪文『リリルーラ』があるにはあるが、あの呪文は有効範囲が限られており、その範囲は大して広くない。本来は迷宮とかで、はぐれた仲間と合流する為の呪文だからな。何か特殊な目印を併用すれば、遥か遠くからでも仲間と合流する事が可能らしいが、その特殊な目印についての詳細は不明だ。

 となれば、一先ずは自分の足で探すしかない。ダイ達の性格を考えると……ここが魔王軍に滅ぼされたと知れば、あいつらは間違いなくその軍団を叩こうと動く。

 だったらアテもなくダイ達を探して歩き回るより、魔王軍の拠点を探した方がまだ合流できる可能性は高いはずだ。

「よし……!」

 俺は昔の土地勘を頼りに、廃墟と化したパプニカの町を離れ、懐かしの地底魔城へ向かった――。



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ドラゴンクエスト ダイの大冒険 バトルダンジョン 対決ロモス城
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