小説『ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方』
作者:amon()

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人間の醜さと人間の愛……の巻



 テランの占い師ナバラの占いで、アルキード王国に俺が求める冒険か、そのヒントがあると言われ、俺は「あったらあったで良し、なければまたブラブラ探せば良い」と軽い気持ちでアルキード王国にやって来た――。


 結論から言えば、ナバラさんの占いは当たっていた……俺の好みかどうかは別としてな。



 今、俺がいるのはアルキード城の中庭……ここには俺以外にも、町の人間達が大勢集まっている――これからここで、『公開処刑』が行われるそうだ。

「あの男、魔王軍の生き残りらしいぞ……」

「ソアラ姫に取り入って、王国を乗っ取ろうと企んだとか……」

「なんと恐ろしい……!」

 周りの野次馬がヒソヒソ話す声が聞こえてくる……。

 広場の真ん中で丸太にくくり付けられているのは、黒髪短髪に鼻下に僅かな髭を生やした、多分20代後半ぐらいの男だった。

 あちこち怪我をして血を流しているのを見ると、恐らく拷問を受けたんだろう。

 だが……その表情が気になる。死ぬ事を覚悟している、受け入れている感じだ。諦めとは違う――死ぬ事に迷いがない。

 それに、目が澄んでいる……とても魔王軍の生き残りなんかには思えない。第一、あの男……かなり強い。あのアバンさんを含めて、今までそこそこの数の戦士を見てきたが、その中でも別格――最強だと思う。今の俺じゃあ、まず勝てないだろうな。

 なのに、幾ら兵士の数に押されたにしても、大人しく捕まっているなんて……考えれば考えるほど、あの男が魔王の手下だなんておかしく思えてくる。

 ……助けるか?

 勿論、あの王様や兵士達には『お前も魔王の手下か!?』とか言われるだろうが、今の俺のレベルなら、あの程度の兵隊ぐらい苦もなく撃退出来そうだ。仮に賞金首とかになっても、それはそれで冒険になるかも知れない。

 うん……退屈な平和に比べたら、俺的にはそれもありだな。

 よし……!

 思い立ったが吉日――背中に引っ掛けている鉄の盾を気にしつつ、いつでも助けられる場所に移動する……。

 と、その途中――

「っ……!」

「む……?」

 慌てた様子で野次馬の間を抜けて行く1人の美女が目に付いた。着ている服は一般人が着る様な普通の服だが、その顔立ちにどこか気品を感じる……。

 深い悲しみを湛えた、今にも泣き出しそうな表情……。その視線の先には……磔にされた男?

 お、おいおい、まさか……!?

「構えーー!!」

 驚いて動揺している間に、処刑が始まってしまった。

 王宮仕えの魔法使いと思しき黒ローブ3人が、掌に燃え盛る炎の玉を構える。あれは多分『メラミ』だ。

「って、しまった!?」

 また意識が逸れた――慌てて振り返れば、さっきの美女と大分距離が開いている。彼女はもう、飛び出して行ける位置――対して俺はまだ、位置に着けていなかった。

 このままでは、あの美女が呪文に飛び込んでしまう!『メラミ』3発なんて食らったら、あの美女は間違いなく死ぬ!

「撃てぇーー!!」

 誰かの掛け声で、呪文が撃ち放たれた――!

「止めてぇーーッッ!!!」「止めろぉーーッッッ!!!」

 美女が叫びながら飛び出すのと、俺が『ルーラ』の応用で割って入るのはほぼ同時だった――。

「「「「「ッ!?」」」」」

「……ふぅぅ、間一髪だったぜ」

 何とか鉄の盾で『メラミ』3発を防げた……流石に鉄の盾は焼け焦げてもう使い物にならないな。

 おシャカになった盾を放り捨て後ろを見れば、張付けにされた男と、彼を庇おうと飛び出した美女が驚いた表情でこっちを見ていた。

「大丈夫か?あんた達」

「……な、何故……?」

 男が動揺した感じで尋ねてくる。

「何故助けたか、って事か?」

「あ、あ、ああ……」

「この処刑に納得いかなかったからだ。俺には、あんたが魔王の手下にはどうしても見えなかった。それに、その女性も危なかったしな」

「っ!そうだ!ソアラっ!なんて無茶な真似を……!!」

 ソアラ……?それって、この国のお姫様の名前じゃ……え!?そういう事なのか!?

「私は……お前達の為に死ぬつもりだったんだぞ!?」

「……ごめんなさい。父上達が、これ以上酷い事をするのを、黙って見ていられなかったの……。何より、あなたに死んでほしくなかった……」

「ソアラ……」

「お願い、あなた……。私の、私達の為に死ぬなんて……そんな悲しい事を言わないで。私を、ディーノを、置いていかないで……!」

「ソアラ……しかし」

 男が何か言おうとした、その時――

「そ、ソアラぁーーッッッ!!」

 甲高くて無粋な叫び声が、広場に響き渡る。出所に振り向いて見れば、やたら上等な身なりのオッサンが物凄い形相でこっちを睨んでいた。

「父上……!」

 ソアラ姫の親父さん……と言う事は、この国の王様か。

「お前という娘は……!魔物に誑かされただけでは飽き足らず、庇い立てするとはッ……この恥さらしめがッ!!」

「なっ!?」

 あ、あのオヤジ……!仮にも自分の娘に向かって……!?

「おいッてめえッ!!この人はてめえの娘なんじゃねえのかッ!?」

「な、なんだ貴様ッ……!?」

 頭にきて怒鳴りつけてやると、アルキード王が動揺した。

「こ、国王陛下に向かって何たる口の利き方……!無礼者めッ!」

「黙れッ!!雑魚は引っ込んでろッッ!!!」

「ひっ……!?」

 大臣か何かが横からしゃしゃり出て来やがったから、殺気を込めて黙らせた。

「アルキード王!てめえ、娘に向かって『恥さらし』と抜かしやがるとは、一体どういう了見だ!?」

「な、何を……ソアラは我がアルキード王国の王女でありながら、魔物なんぞに誑かされ、あまつさえ子供まで産みおったのだ!これが恥さらしでなくて何だと言うのだ!?」

「魔物?この男の事か!?ふざけるなッ!!彼のどこが魔物だって言うんだ!?」

「な、なにを……ッ?」

「俺達と変わらないだろうが!?血だって赤い!!てめえには見えねえのか!?この男の澄んだ目が!!」

「っ!?」

 アルキード王の顔に動揺が浮かぶ。

「悪い魔物がこんな真っ直ぐで澄んだ目をするもんか!!大体、殺されるっていうのに、大人しく捕まってるのだっておかしいだろうが!!彼は魔物なんかじゃない!!この国をどうこうしようともしていない!!ただソアラ姫を愛して、ソアラ姫は彼を愛した――それだけだ!!こんな事、さっきこの国に着いたばかりの俺にだって分かるぞ!!」

「う、ぐぐぐ……!」

 ワナワナと身体を震わせて俯き、唸るアルキード王。だが――

「え、ええいッ!黙れ黙れ!!他所者の小僧が分かった様な口を利きおって……ッ!者共っ!こやつも魔物の手先じゃ!!ひっ捕らえよ!!バラン共々、処刑するのだぁ!!」

「「「は、ははぁ!!」」」

 結局、自分の間違いを認めようとしないか。見下げ果てたオヤジだ……。何が王なもんか……!

 俺や磔にされていた男――バランとか、さっきあのオヤジが呼んでたか、とにかく俺達の方に兵士が槍を構えて迫って来る。ふん、こんな連中にいつまでも付き合ってられるか……。

 俺は背中の愛刀・竜神王の剣を抜き――

「ふんッ!!」

 思い切り地面に向かって振り抜いた。

 最強クラスの武器である竜神王の剣の攻撃力と俺の力が合わさった斬撃は、轟音を上げて地面を抉り取り、浅い崖程の亀裂を産む。

「あ、わわわ……!?」「ひぃ……!?」「け、剣で地面を……!?」

 取り囲んでいた兵士たちは、自分達と俺達の間に出来た亀裂を前に腰を抜かしている。

「無事でいたければ、その線は越えて来ない事だ。来たら……、容赦なく斬って捨てるぞ!」

「「「ひひぃぃ……!!」」」

 ビビって縮こまる兵士達……そんなに今の俺は怖いのか?怖いんだろうな……ハッキリ言って今の俺はかなり頭に来ている。人間の薄汚い面を目の当たりにして、軽くショックも受けている……。

 この世界に転生してから、あんまり人と深く関わって来なかった所為もあるが、人間って存在を少し楽観視し過ぎていた様だ。俺自身も人間だし、きっと自分で気付いていないだけで、連中と似たり寄ったりな面もあるはずだから、あんまり偉そうな事も言えないが、それでも腹が立つものは立つのだから仕方がない。正直、キレる1歩手前って感じなんだ……!

 これ以上、この国には居たくない……。

 さっさとこの国からおさらばする――前に、俺は磔にされていた男の縄を切った。

「……なあ、あんた――バランっていったな?俺と一緒に行こう」

「何……?」

「あんたの事は良く知らないが、それでも、こんな連中に殺されるべきじゃない人だっていう事は何となく分かる。死んではダメだ!俺と一緒に、この国を出よう!」

「し、しかし、私は……」

 迷う様に俺から視線を逸らすバラン。逸らした先には、ソアラ姫か……。

「ソアラ姫」

「……はい」

「あんたはどうする?ここに残るか?それとも……俺達と一緒に行くか?」

「え……?」

 俺の提案に、ソアラ姫が僅かに目を見開く。

「あんたはさっきバランに言ったな?『私達を置いていかないで』って……悪いが、あんたがここに残るなら、バランとは今生の別れだ。俺はバランを連れてこの国を出る、例えそれがバランの意思を無視する事になろうとな」

「…………」

「今ここで決断しろ。あんな父王の下で王女の地位に縋るか、それとも全てを捨てて愛に生きるか……2つに1つだ!」

「……私は……」

 ソアラ姫は徐に立ち上がると、俺の脇を抜けてアルキード王の方へ歩いていく……まさか、そっちを選ぶのか?

「……っ」

 俺が斬って作った亀裂の前で、ソアラ姫は立ち止まり、毅然とした表情でアルキード王の方を見つめた。

「父上!ごめんなさいっ!ソアラは、ソアラは王女である事を……父上の娘である事を捨てますっ!唯のソアラになり、バランと……愛する人と生きます!!」

「「「「「っ!?」」」」」

 言い切った……!自分なりのけじめを付ける為に、父親に決別を宣言したのか。ソアラ姫は、いやソアラは、全てを捨てて愛に生きる道を選んだ。

 そして戻ってきたソアラは、バランに寄り添う。

「ソアラ……いいのか?」

「ええ。私、もう迷わない……!あなたの傍が、私の居場所よ」

「ソアラ……!」

 感極まった様に抱き合う2人……。やれやれ、良い雰囲気を作ってくれちゃって……これじゃあ話しかけ辛いじゃないか。

 とはいえ、いつまでも見ている訳にはいかない。さっさとこの国を出ないと……。

「あ〜、ご両人?良い雰囲気なところ悪いんだが……、そろそろ出発して良いかな?」

「「っ!?」」

 俺の声に反応して、バッと身を離すバランとソアラ……お、俺が無粋なんじゃないぞ?仕方ない状況なんだ。

「2人とも、俺に掴まってくれ。『ルーラ』を使う」

「あ、ああ、分かった……!さあ、ソアラ」

「はい、あなた」

 差し出した俺の手をバランが掴み、バランがソアラを抱き寄せる。まあ、『ルーラ』は身体の一部が接触してさえいれば一緒に移動できるから、それでもいいんだが、見せつけるのは勘弁して欲しいものだ。

 まあ、それはさておき……とりあえず、ホルキア大陸のパプニカ王国にでも行くか。町で宿にでも泊まって、今後の身の振りを考えないといけない。

「よし!『ルーラ』!!」

 俺達は光の球となり、地面を離れ、空に舞い上がった――。




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