小説『ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方』
作者:amon()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

バランとソアラ!愛する息子を探せ!!!の巻



 アルキード王国を脱出した俺とバランとソアラの3人は、俺の『ルーラ』でパプニカ王国にやってきた――。


 町に着いてすぐに宿屋に入り、バランを治療し、落ち着いた所で色々と話し合った。

「エイト、遅くなってしまったが礼を言う。私とソアラを救ってくれて……ありがとう」

「私からもお礼を言わせてください。エイトさん、この人を助けてくれて、本当にありがとうございました」

 バランとソアラにお礼を言われるところから始まった話し合い――それにより、お互いの情報を共有し合った。

 その中でも驚いたのが、バランが本当に人間ではなかったという事だ。何でも、バランは『竜(ドラゴン)の騎士』という存在で、『竜の騎士』とは太古の昔、人間・竜・魔族……3種族それぞれの神が力を合わせ、世界の調停役として生み出した存在だそうな。

 かつて神々が世界を創造したばかりの時代……この世は、人間・魔族・竜の三種族が治めていた。今でこそ竜はモンスターの1種だが、昔は人間以上の知識を持ち言葉を話す奴の方が多かったらしい。

 だが、3つの種族は世界の覇権をめぐって血で血を洗う戦いを続けていた。それを疎ましく思った神々は、この世界を粛正する者が必要だと考えた。

 そして、三種族の神は協議の末にある結論に達した――竜の『戦闘力』と魔族の『魔力』と人間の『心』を合わせ持つ、究極の戦士を生み出し、世界の調停者として遣わす事……その結論の下に生み出されたのが『竜の騎士』だ。

 いずれかの種族が野心を抱き、世界を乱そうとした時、それを滅ぼし、天罰を与えるのが『竜の騎士』の使命なのだそうだ。

 俺はその話を聞いた時、疑問を抱いた――。

「なら、魔王ハドラーが世界征服に乗り出していた時、バランは何をしていたんだ?魔王ハドラーは、勇者アバンが打ち倒して世界は平和になったんだろ?」

 その問いに対するバランの答えは――より強大な巨悪と戦っていた、というものだった。

 その巨悪の名は『冥竜王ヴェルザー』――ハドラーが足下にも及ばない程の強大な力を持った、魔界に君臨する最後の知恵ある竜……それがヴェルザーだった。奴は、魔界に一大勢力を築き、地上を我が物にせんと企んでいた。

 それを事前に察知したバランは、『竜の騎士』の使命に殉じ、魔界に乗り込んでヴェルザー一族とその軍勢を相手にたった1人で立ち向かい、決死の思いでこれを滅ぼした……。

 とんでもない話だ……竜の王とその配下の軍勢を命辛々とはいえ、たった1人で全滅させるなんて……バランに悪いから口には出さないが、『竜の騎士』は化け物だ!

 ふと気になって、バランのステータスを見れないかとステータス画面を呼び出してみたら……見れた。

 その時のステータスがコレだ。


―――――――
バラン
性別:男
レベル:52
――――――――
E布の服(守+4)
――――――――
力:174
素早さ:180
身の守り:106
賢さ:149
攻撃力:174
守備力:110
最大HP:505
最大MP:173
Ex:5036491
―――――――
バラン
HP:505
MP:173
Lv:52
――――――――――――
ホイミ ベホイミ
ルーラ トベルーラ
メラ メラミ
ギラ ベギラマ
イオ イオラ
バギ バギマ
ラリホー ラリホーマ
ライデイン ギガデイン
紋章閃 ギガブレイク
竜魔人化
――――――――――――


 強ッ!?しかも、『竜の騎士』の力の象徴である『竜(ドラゴン)の紋章』とやらが額に浮かび上がると、更に何倍も強くなるという話だから、思った通り今の俺じゃあ全く刃が立たない……色々落ち着いたら、バランに修行をつけてもらおうかな?

 それにしても……『竜魔人化』ってなんだろう?

 と、話が逸れた――。

 で、ヴェルザー一族を滅ぼしたバランは瀕死の重傷を負った。何とか地上に帰り着き、『竜の騎士』の力を回復させる“奇跡の泉”へ向かった。その泉があるのは、アルキード王国のすぐ近く……アルゴ岬と呼ばれる場所付近だそうだ。

 しかし、バランは泉の近くに辿り着きこそしたものの、寸前のところで力尽きて倒れた。それを助けたのが、泉の水を汲みに来ていたソアラだった。

 まあ、この辺りは2人の馴れ初め話しになるんで詳しくは割愛するが……まあ、その時の事がきっかけで、2人の間に愛が芽生えたんだそうだ。

 それで1度はアルキード城に招かれたバランだが、他のアルキード王国の家臣共の嫉妬から、結局、城を追放された。胸糞悪い話だが、家臣共の気持ちも分からないでもない。誰だって、新参者がチヤホヤされたら、大なり小なり面白くないと思うだろう……。

 そうしてバランとソアラは離ればなれに……ならなかった。

 ソアラが城を出ていくバランを追い駆けて、駆け落ちしてしまったのだ。しかも、その時既にソアラはバランの子供を身籠っていたそうだ。

 2人はテラン近くの森の中に逃げ延び、2人の息子『ディーノ』が生まれ、バラン達は平和で幸せな日々を過ごしていた。

 だが……そんな幸せな時間も長くは続かなかった。アルキード王国に見つかってしまったのだ……。

 バラン達は森の中で王国軍に包囲され、ソアラとディーノを守る為に投降した……その後、バランは捕まり、ソアラは城に連れ戻され、赤ん坊のディーノは船でどこぞ他国に流され……後は俺も見た通りで、現在に至る訳だ。

 話が終わったところで、最初に何をするかは決まった――2人の息子、ディーノを探す事だ。

「それで、ディーノ君がどこの国に流されたかとか……アテはあるのかい?」

 城内にいたであろうソアラに尋ねてみるが、ソアラは首を横に振る。

「……私、お城に連れ戻されてからはずっと自分の部屋に軟禁されていたから……」

「そうか……」

 バランの時は、警備に隙が出来て何とか抜け出せたんだな……。

「しかし……そうなると困ったなぁ。どこを探せばいいやら……」

「っ……例え、世界中を虱潰しにしてでも、ディーノは必ず探し出す!」

「バラン……」

 心意気は買うが……世界中を虱潰しなんて、現実的じゃない。何かほんの少しでも良いから手掛かりが欲しい所だ……。

「う〜ん、困ったなぁ……困った……、困った?」

ピコンッ♪

「そうだッ!!」

「きゃっ!?」「ど、どうした!?」

 閃いて、思わず叫び立ち上がった俺に、バランとソアラが驚く。

「“困った時の占いババア”だ!!」

「「はあ?」」

 昔のとあるアニメに出て来るフレーズで、良い事を思い出した。

「テラン王国に、凄腕の占い師のお婆さんが居るんだ!その人に、ディーノ君の居所を占ってもらうんだよ!」

「し、しかし……占いなどで」

「そうバカにしたもんでもないぞ?俺がアルキード王国に行ったのだって、その人の占いで何かがあると言われたからだしな」

 そう、アルキード王国には確かに冒険があった。嫌な事もあったが、あそこへ行ったおかげで俺はバランとソアラに出会ったんだ。ナバラさんの占いの腕は信用できる。

「う、うむ、エイトがそこまで言うのなら……。確かに、今は何の手掛かりもない。闇雲に探すよりはマシか……。」

 バランは顎に手を当てて頷く。

「よし!それじゃあ明日、夜が明けたらテラン王国へ行こう」


 かくして俺達は、明日の朝、テランに向かう事に決めた――。





≪SIDE:ナバラ≫


「くあぁ〜〜……」

 日の出を前に欠伸をし、グッと腕を上げて身体を伸ばす。

 いつも通りの朝だ……多分、今日も昨日と同じ、閑古鳥が鳴く1日になるんだろうね。

 世界が平和になろうと、占いは“売れない”んだねぇ……。

「…………はぁ、何くだらない事考えてるんだろうね、あたしゃ……」

 思わず考えてしまった駄洒落を頭を振って追い出し、あたしは井戸に水を汲みに向かおうとした――その時。

ギュンッ!

「うわっ!?」

 突然、空から光の球が振って来た。

 これは……多分『ルーラ』だね。こんな朝っぱらから人騒がせな……。

 一体何処のどいつだ?そう思って光の球を睨んでいると、やがて光が消えて正体が現れる。

 そこにいたのは――

「あ、あんたは……!?」

「あ、ナバラさん!良かったぁ、起きてて」

 5日前にあたしの館を訪ねて来た、あの坊やだった……。

 しかも、他に鼻の下に髭を蓄えた20代後半と思しき男と、やたら気品のある顔立ちの若い娘も一緒だった。この2人、何か訳ありのカップルと見たね……。

 閑古鳥の鳴く1日かと思えば……騒がしくなりそうな気がするねぇ。



≪SIDE:OUT≫


「……一体何の用だい?こんな朝っぱらから」

 いきなりやって来た俺やバラン達を見て驚いていたナバラさんだったが、落ち着きを取り戻して聞いてきた。

「実は、ナバラさんにまた占ってもらいたい事ができたんです!」

「……何やら訳ありみたいだね。立ち話もなんだ、詳しくは中で聞くよ。家にお入り」

「ありがとうございます」

 そうして招かれるまま、俺達はナバラさんの店に入った――。



「それで?今日は何を占ってほしいんだい?」

「ああ、それは「エイト」――ん?バラン?」

 俺が説明しようとすると、バランが遮る様に声をかけてくる。

「その先は、私から話させてくれ。私達家族の事だ」

「ああ、そうだな。分かった」

 意図を理解し、俺は説明をバランに任せた。


 バランは、自分やソアラの正体は上手く隠して、他国に流された自分達の息子ディーノが今、何処にいるのか小さな手掛かりでも良いから占ってほしいと、ナバラさんに必死に訴えた――。


「……なるほどね、事情は分かったよ。どれ、水晶玉で占ってみよう。あんた達にも手伝ってもらうよ」

「私達も……?」

「何でも言って下さい!ディーノが見つかるのでしたら、何でもします!」

 怪訝な顔をするバランに対して、ソアラは必死に頷いた。

「なぁに、難しい事じゃないよ。あんた達は、あんた達の息子の事を想い、祈ればいいのさ。あたしはその想いを水晶玉に導き、あんた達の息子の居所を世界に問い掛ける……あんた達の想いが強ければ強いほど、息子の居所が捉えやすくなる。見つけたかったら、精々、懸命に祈る事だね」

「承知した」「分かりました!」

 バランとソアラは手を取り合い、目を閉じて祈り始める――その表情からは、必死な想いがヒシヒシと伝わってくる。

「うむ……」

 すると、ナバラさんも水晶玉に両手を翳して目を閉じ、意識を集中し始めた。

「……(ゴクリ)」

 部屋の中に緊迫した空気が漂い、俺は思わず息を飲む。

「むぅぅぅぅ……!」

 ナバラさんの水晶玉が輝き始めた――!

「……捉えた!」

「「「っ!!」」」

 待ち望んでいたナバラさんの言葉に、俺もバランもソアラも、身を乗り出して光る水晶玉を覗き込む。だが、俺達には水晶玉が光っている様にしか見えない……。

「ここから南西の方角……そこに、あんた達の息子はいる!」

「という事は……私達の息子は、ディーノは無事なのだな!?」

「ああ、生きていなけりゃこうして存在を捉える事は出来ないからね」

「ああ、神様……!」

 ソアラが目に涙を浮かべて、祈る様に両手を組む。うん、良かった良かった!

 しかし、テランから南西っていうと……ラインリバー大陸辺りか?

「ナバラさん、俺達にも見える様に映し出せますか?」

「ああ、やってみよう……」

 水晶玉の光が収まり、そこに映像が浮かび上がる――映し出されたのは、中央に高い山がそびえる島だった。かなり上空からの目線みたいだ。

「この島に、ディーノが……?」

「恐らく……」

 ソアラが不安げに尋ねると、ナバラさんが重々しく頷く。しかし、島か……南西にある島というと……。

「これは、デルムリン島だな」

「デルムリン島?」

「ああ、ラインリバー大陸の南洋に浮かぶ島さ。前に、ロモス王国に行った時に話を聞いた。確か……魔王の手下のモンスターが隠れ住む“怪物島”とか……」

「っ!?そ、そんな場所にディーノが……!!」

 あ、しまった!余計な事を言って、ソアラを不安がらせてしまった……!

「い、いや!今は魔王もいなくなってモンスターも大人しくなっている!そ、それにさっきナバラさんが言っただろ!?ディーノ君は生きている、生きているからこそ探し出せたんだって!だ、だから大丈夫さっ!」

 多分……。しかし、あそこには人間は1人も住んでいないって話も聞いたが……とりあえず、それは黙っておこう。

「で、ディーノは!?早くディーノの姿を映してくれっ!」

「わ、分かったっ!今やるからお離し!!」

「お、落ち着け!バラン!」

 不安と焦りからナバラさんの胸倉を掴み上げるバランを、何とか抑える。バランは恐ろしく力が強くて、抑えるのも一苦労だ!

「ゲホッ、ゲホッ!ふぅぅ〜……焦る気持ちは分からないでもないけどね、あたしを締め上げてもしょうがないだろう!」

「す、すまない……」

 すぐに落ち着きを取り戻したバランがしゅんと項垂れる……。情緒不安定……早いところ、安心させてやらないとな。

「ナバラさん、とにかくディーノ君本人の姿を映してやってください」

「ああ、その方が良さそうだね。あたしの身の安全の為にも……」

「……本当に、すまない」

 項垂れ背中に影を背負い始めたバランを尻目に、ナバラさんは水晶玉を操り始める。

 さっきと映し出される光景が変わる――布に包まれ、揺り籠に寝かされた赤ん坊が、どこかの家の居間かどこかに寝かされている姿が、水晶玉に浮かび上がった。

「っ!ディーノ!」

「ディーノ!ああ、ディーノだわ!良かった……無事で……ぅ、ぅぅ……!」

「ソアラ……!」

「あなた……!」

 安堵から遂には泣き出してしまうソアラを、バランが優しく抱き寄せる。

 それにしても、この家は一体……?デルムリン島には人は住んでいないはずなのに……それに良く見てみると、今まで見てきた民家とは造りが違う様に思える。なんというか、土壁みたいな……。

「う〜ん……ん?」

 水晶玉をじっと見つめていた俺の眼は、気になるものが映り込むのを捉えた。

 オレンジ色の身体……ダブついて垂れ下がった皮がローブの様に短い足を隠し、手には短い木の杖……こ、こいつは!?

「き、鬼面道士!?」

「なにっ!?」「えっ!?」

 息子の無事を喜んでいたバランとソアラが、思わず出てしまった俺の声に反応して振り返る。俺自身見間違いかと思ったが、そうではなかった……この特徴的な外見は鬼面道士だ。

 ディーノ君の側にモンスターが!と戦慄する俺達だったが、水晶玉の中で不思議な光景が展開され、呆然とする事になる――。

 なんと鬼面道士が揺り籠を優しく揺すり、モンスターとは思えない穏やかで優しげな表情でディーノ君を見つめているのだ。

「こ、これは一体……?」

「さ、さあ……?」

 バランの疑問に俺はそうとしか返せなかった。俺も聞きたいところだったからだ。

 暫く様子を見ていたが、鬼面道士は画面から立ち去るまでディーノ君の揺り籠を揺らし続け、危害を加える様な素振りは微塵も見せなかった――。

 流石に誰もが驚きを隠し切れなかった……。モンスターが家を作って生活し、人間の赤ん坊を拾って育てる……モンスターの常識を覆す光景だった。

「……と、とりあえず、ディーノ君は無事で、居所も分かったんだ。これから、デルムリン島に行ってみよう!」

「そうだな……ここでじっとしていてもしょうがない!」

「ええ、ディーノを保護してくれたあの鬼面道士さんに、お礼も言いたいもの」

 ソアラはディーノ君が無事で安心し、落ち着いたのか、既に現実を受け入れている。女は強いなぁ……。



「ナバラさん、ありがとうございました」

「息子を見つめてくれた事、感謝する」

「本当にありがとうございました、ナバラ様」

 俺達は店の外で、見送りに出て来たナバラさんに頭を下げた。さっきの光景から、危険はないと判断した為、こういう事をする余裕くらいはあるのだ。

「あたしはただ水晶玉で占っただけさ。赤ん坊を見つけられたのは、あんた達2人の“親の愛”があればこそ。さあ、早く会いに行っておやり。そして、もう2度と手放さない事だね」

「はい!」

「重ねて、礼を言う」

 深々と頭を下げるソアラとバラン。

「だが、ナバラさん。本当に見料はいいんですか?」

 今回の占い、ナバラさんは見料は要らないと言った……100ゴールドぐらい、ポンと払えるぐらいのゴールドは持っているんだが。

「要らないったら要らないよ。こんな空気で金を取れるほど、あたしゃ図太くないんだ。ほら!無駄話してないで、さっさとお行き!赤ん坊が待ってんだろっ!」

「わ、分かった、分かりました……!」

 ったく、素直じゃないお婆さんだなぁ。

「それじゃあ、バラン、ソアラ。行こうか」

「ああ!」「ええ!」

「それじゃあお世話様、ナバラさん!『ルーラ』!」

 俺とバランとソアラは、『ルーラ』で一路ロモス王国へ向かう。そこから『トベルーラ』でデルムリン島を目指す――。



-7-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える