第1話 光明 剣介
宙を舞う美しい桜の花びら。桃色のそれは風に靡かれ、不規則な動きで地に落ちる。
俺、光明 剣介(こうみょう けんすけ)17歳。とっても健康で健全な高校2年生。ーーいや、健全ではないな・・・・。
〔ニンゲンダ。綺麗ナ魂旨ソウダ〕
「来たか、悪霊め」
「ケンちゃーん!近くに悪霊がーー」
「おぉ、麻理か。遅いぞ俺が既に見付けちまったよ」
俺の後ろから走ってきたナイスバデーな女子、二階堂 麻理。彼女は俺と昔からの遊び仲間で家は遠いのたがこうしてある目的の為によく会うのだ。
「相変わらず早いねケンちゃんは。で、どうするのその『悪霊』」
〔マタ、ニンゲン増エタ〕
『悪霊』。誰もが1度や2度は聞いたことがあるであろうあれだ 。
人が死ぬ直前に所謂、強い未練等を抱く。するとそれが死者の魂と干渉し、暴走して2度とマトモな魂に戻れなくなる。哀れな死者の末路だ。
そしてそいつらは生者の魂を喰らうことである力を増幅させ、暴走を更に促す。因みに魂を喰われた人間は死ぬ。そして身体は悪霊のある力に蝕まれ、所謂、リビングデッドとなる。そしてリビングデッドは生者の肉を喰らう。食われた者の末路は言うまでも無い。
「麻理、近くにリビングデッドの反応は?」
「無いわ。コイツだけ。さっさとぶっ飛ばして学校に行くわよ!」
「おう!」
麻理が悪霊に走る。
悪霊に弱点と呼ばれるような物は無い。実体を持たない悪霊は一時的に人間に憑依することで物理的攻撃を可能とする。そして憑依していない悪霊には物理攻撃が効かない。だからコイツらをぶっ飛ばすにはある武器を使う。
「唸れ、妖刀≪笹貫≫!この悪しき魂を喰らい力とせよ!」
シャン!
腰の布に包まれた鞘から抜いた刀が音もなく悪霊を切り裂く。
「なーんだ。大した力持ってないのね」
〔ア、アァァァ・・・・〕
カチン。
麻理が刀を鞘に戻すと悪霊は黒い塊に変わり、霧散した。
「ふぅ。終わった。さ、行きましょ」
「あぁ、俺の出番はまた無しか」
「ケンちゃんが遅いのが悪いのよー」
「はいはい。行こうぜ、遅刻だけは避けたいしな」
「うん」
麻理は刀を布で巻いてあたかも竹刀を持ち歩いてるようにする。
因にだ、俺にも実体でない者を攻撃できる武器はある。
今は家の金庫の中に大事に保管してあるけどな。
「ねぇ、ケンちゃんはいつになったらあれで戦うの?」
「あれは・・・・≪レイヴニル≫はお前の≪笹貫≫と違って悪しき者の力を喰らう訳じゃなく使用者の魔力を喰らうんだ」
悪霊や魔物、そして特別な人間、つまり俺達能力者は常人では扱えない力、所謂『魔法』を使える。んで、その力を使う為のエネルギーが『魔力』だ。
俺はその魔力が少ないから煌剣≪レイヴニル≫を使うと1分で倒れちまう。だから使えない。
「だったら早く強くなってよ。じゃないと私、他の能力者の所に行っちゃうよ?誘いが来てるんだからね?」
「よかったじゃねえか。俺みたいな落ちこぼれ能力者よりも強い人に誘われるなんてさ」
余談だが随分前にコイツの料理を食ったが死線をさまよう代物だ。
「んもう。本当に行っちゃうかもよ?」
「俺の事は気にしないで強くなれ。応援してるからよ」
「・・・・ケンちゃんが好きだから何処にも行かないのに・・・・」
「ん?何か言ったか?」
「別にー、ほら、早くしないと遅刻しちゃうよ!」
「ヤッベ忘れてた!急ぐぞ麻理!」
俺と麻理は学校に向かって全力で走った。