第19話 静音の両親と剣介
ドシャアッ!
後頭部から真っ逆さまに地面に落ちた剣介。
「攻撃は無しって言ったでしょ!?」
「貴方が・・・・私の両親を!」
「待て!落ち着け!」
「許さない!」
「落ち着けって言ってるだろうが!!」
「うっ!?」
ちょっとキレた剣介の剣幕に気圧される静音。彼女自身も冷静さを欠いていたことに気付かされ、スカートを叩(はた)くと落ち着いてベンチに座り込んだ。
「・・・・ふぅ。落ち着いてくれた?」
「・・・・」
静音の沈黙を返事と受け取った剣介はそのまま地面に胡座(あぐら)で座って話を始めた。
「実は静音さんの両親とは顔見知りだったんだ」
◆
今から2年前の2011年5月12日午後7時25分、とある公園の道路に夫婦が仲良く歩いていた。
「今日も遅くなってしまったね。これじゃあ静音に怒られちゃうよ」
「あら。誰が家の鍵を無くして時間を食ったのかしら?」
「ハハハ。誰だろうね」
その夫婦は誰から見ても仲が良い。一目瞭然だ。
「本当、誰かしらね。さ、早く帰りましょ」
「そうだね。・・・・ん?」
「何?」
「しっ!静かに・・・・。変な声がしないか?」
「声?」
まだ薄暗い公園。人は周りに居る気配が無く、夫婦は怪しさを感じながら息を潜めた。
「「・・・・」」
ガササッ!
刹那、沈黙を破った木々の音と共に“何か”が夫婦の進路上に立ち塞がった。
「ウゥゥゥ・・・・」
「何?変態?」
「アァァァ・・・・ニク、ニンゲン・・・・」
「伏せて!」
「え?」
バチィ!
「アァァァァァァァ!!」
更に夫婦の背後から謎の声と共に一筋の電撃が“何か”に走った。
「何?何なの!?」
「早く逃げて下さい!」
「君は!?」
「アァァァァァァァ!!」
「今は逃げて下さい。はぁ!」
バチィ!
突如として現れた少年の指先から細い電撃が“何か”に向けて放たれた。
それは“何か”の胸を貫き、親指太さ程の風穴を1つ開けた。だが、それだけ。
「アァァァ!オマエ、ジャマヲスルナァァァ!」
「けっ。やっぱ“あれ”が無いと俺はこんなもんか・・・・ショック」
「アァァァ!」
「変換ーー氷結!」
ベチ!
冷たい道路に少年が右手を突き立てた。するとみるみる辺りの草が凍り付き、“何か”も足元から蒼白の氷に包まれていく。
「アァァァーー」
「これでどうだ!変換ーー雷鳴!」
バヂヂヂヂ!
少年の右拳に電撃が迸る。
「とっくに死んでるけど死ね!」
ドズン!グシャ!
少年が“何か”の腹目掛けて右拳でコークスクリューブロー。刹那、拳を打ち込まれた“何か”の腹から電撃が突き抜けていき、今度は拳大の穴を開けてみせた。
「アァ・・・・ァァ・・・・!」
サラサラサラ・・・・。
貫かれた腹の穴から霧散していく“何か”。少年はただそれを見ていた。
「あの・・・・君、今のは一体」
「もしかして、君はあの能力者・・・・」
「・・・・だから何ですか?」
「あ、いや・・・・その・・・・」
夫婦に背を向けた状態で冷たく応答する少年。
「今のは『アンデッド』聞いたことは?」
「いや」
「私、あるわ。ここ最近アンデッドに人が殺されているって・・・・でもただの噂で」
「信じられませんか?能力者が目の前に居ると言うのに」
振り返る少年。その眼は黒眼が白く、白眼が黒く変色していた。
「・・・・能力者は犯罪者だとも聞くが、君はどうなんだ?」
「俺は今までこの力で犯罪を犯してはしません。でも、現に俺達能力者の誰かが能力を使って罪を重ねていっている。だから俺はそいつを探すのと同時に少しでも能力者が世間に認めて貰えるように人助けをしている」
「探してどうするんだ?」
「そいつを半殺しにして警察につき出します。もしかしたらその前に殺してしまうかも知れないですが」
「そうか。・・・・じゃあ纏めると僕達はそのアンデッドに殺されそうになっていて能力者の君が助けてくれた。・・・・うん、君には感謝をしないとな。ありがとう、お陰で娘を独りにさせなくて済んだ」
「ありがとう」
「ぁ・・・・えと・・・・」
どうやら今まで助けてきてもお礼を言われて事が無かったのであろう少年は恥ずかしながらも言葉を紡いでいく。
「そ、それは力を持つ者だったら、当然の事をしただけです。で、では俺は」
「待って!行く前に君の名前を教えてくれないか?僕は西条彰、こっちは妻の由妃。君は?」
「・・・・駄目です。どうせテレビ等で名前を出すつもりでしょう」
「そんな事は絶対にしない!恩人の名前を教えて貰いたいだけだ!本当だ、誰にも言ったりしない!」
「・・・・・・・・こ、光明・・・・剣介。じゃあ俺はこれで!」
ダンッ!
少年・剣介が地を蹴って跳躍。あっという間に木々の間に消えていく。
「光明剣介君か・・・・」