同僚は革の通勤鞄からA4程度の茶封筒を取り出す。
それをテーブルの上に置き、ブッチャーに滑らせて送る。
ブッチャーは無言で蝋を切って封筒を開け、中の資料に目を通す。
わずか数枚の資料を把握したブッチャーは、気が乗らないと言わんばかりに封筒ごと同僚へ突き返した。
「おいポーター、こいつは一体誰の命令だ……!?天使を誘拐なんて正気じゃないぞ……!」
ブッチャーの静かな怒りを何度も頷いて宥める同僚も、何所か乗り気ではないらしい。
それを理解すると、ブッチャーは怒りを同僚へ向けるのをやめた。
天使を誘拐する、それは神を信じる彼らにとっては、神に背くと言う事と同義である。
ブッチャーは煙草をもう二本取り出すと、同僚と分けあった。
一旦落ち着いて、話を元に戻す。
「……クライアントは?」
「それは言えん、俺も知らないからな。ただ見当はついてる」
俺も同じだ、ブッチャーがため息交じりに言った。
「……命令には逆らえん、やるしかない。だが情報が少なすぎる。天使の能力も、それと一緒に居るこの東方系の男も、ほとんど謎だ」
「あぁ、噂では模擬戦で元団長を倒したらしい」
「冗談だろ?大戦の英雄を?ただのガキじゃないみたいだな……まぁ、天使といる時点で普通じゃないな」
ブッチャーは首を振って灰を落とす。
資料には数日前の盗賊団壊滅にも関わっているとも書いてある。
「ま、そういうこった。俺達SKAGの出番って訳だ……」
「このカフェを選んだのは……」
「そういう事、偵察に行ったフロッグから奴さんがもうすぐここへ来るとの連絡があった。すまんな、急に入って来た任務なんだ。お前の有給休暇はそのうちまた、ってな」
呆れたようにブッチャーが笑った。
こうなったらやるしかない、そう腹を括ったのだ。