小説『魏者の成り立ち』
作者:カワウソ()

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「情報でも噂話なんだろ? 信じる必要ねーな」
 何かの冗談でしかないとしか思えない。きっと、そうに違いない。
「それがさ、これを見たって言う人と見てないって人がこの学校の先輩なんだよね。じっさいに二人に聞いてみるかい?」
「いいよ。面倒くせ」
「流石は御免こうむるタイプだな。そろそろひと集まってくる頃合いだ。今日は昼までって聞いてるし、また後で落ち合おう」
 返事も聞かずに拓視は席へとつく。確かに人は集まってきたし、自分も流れにそって席へと着く。一方的の割には憎めないタイプの奴だった。また会おうと言われても会いたいとは思えんのだが…。
 入学式はどこでもやってそうなことをやり、ただ時間を無駄にして午前には学校も終わる。拓視は宣告道理落ち合った。何人かの人を傍らにしていたが、皆とはぐれ、二人だけとなってしまう。
「遍はどこで昼を食べるの?」
「お前以外となら、どこでも食べるよ」
「釣れないことを言うんだね。じゃあ僕は大切な人と食事しようかな」
「居るなら、最初からそっちと食事しろよ」
「何せ互い初の高校だから、友達とか作ったりで大変だろうなって思ってね」
「分かったよ。どこでもいいから金に困らないところにしてくれ」
 そういうと、その言葉を待っていたと言わんばかりに拓視は一目散にかける。ナビで目的地ルートを決めて辿るように。
行き着いた場所は他でもないラーメン屋であった。そこで味噌ラーメンを食べる。その際、ラーメンと言ったら…、と言う会話で討論になっていたが、これにはオチがつかないままで終わった。その後は、本屋行ったりで適当に時間を潰す。
 ただ、何をやっていても時間を遅く感じる。余計なことと言えば余計なことだが、拓視の言葉が頭から離れない。何より彼女、コトメにもう一度話をしなければと思う。そして、今日もあの場所で会えると、心なしか確信を抱く。
夜になる時間は長く感じた。ましてや、深夜になるのはもの凄く長く。
待ちに待って、深夜の一時。昨日と変わり映えしない夜と寒さの中、彼女もまた昨日と同様にいた。
 二回目にも関わらず怖さは変わらない。しかし、怖さだけでなく、何処か期待して心が弾んでいる。
「なぁ、コトメ。いつからここに来てたの?」
相変わらず顔を下に向けたままで答える。
「来たいと思った時に来てるので、時間で言えば十二時以降になります」
 何故そんなお化けが出ると言われる時間帯を狙って出るのだ…?
「あのさ、ここでもなんだから、コンビニでも行って、何か買わない?」
「いいです。結構なので」
本当に嫌なんだろうか。その拒否のされ方が中々に痛い。
「じゃあ、何か買ってくるから待ってて」
 コンビニに着くなり、欲しいものが分からず、昨日と全く同じものを買ってしまう。戻ると彼女はちゃんと待っていてくれて、昨日と同じ場所へと行く。
「コトメは何か好きなものとかないの?」
「ないです」
「じゃ、じゃあ、嫌いな食べ物は?」
「ないです」
「そ、そうか。あの、もしかして俺が勝手にあげてるものって迷惑?」
「そうでもないです。ただ、飲み物はココアが欲しいです」
「ココア好きなの?」
首を縦にふる。
キャッチボールが出来ない…。こういう時って何を話せばいいのか全然分からない。今日の内に何を話せばいいかちゃんと決めてでも来るべきだった。こういう時に、拓視みたいなやつ奴だったら何て話を切り出していたのだろうか?
 そんな時、頭によぎったのは今日の会話だった。
「失礼なことを聞くけど、コトメって幽霊とかじゃないよね?」
半分冗談隠しで聞いてみた。自分でも言った直後には後悔さえ残る。
「失礼ですね。でも、みたいなものです」
その時、彼女は今日で初めてとなる顔合わせをする。だが、その表情は笑みとも受け取り難い深い笑みの様なもの。ただ、漫画なんかで見る「ドキッ」とした感情があるのなら、今正しく活用場所はここである。
「面白い冗談だな」
 実際そう望んでいるのは俺だけであるし、雰囲気が雰囲気なら騙されやすい。だが、事は上手く運んでもくれない。どうやら、お荷物と厄介事だけは運んでくれるようだ。
「そうですか、冗談のように聞こえましたか」
コトメは心底傷ついたように俯く。最初とは違って、下を向くその姿には痛い気なものさえ感じる。
「えっと、冗談じゃないとしたら、コトメって人なの…?」
 最早この言葉を言う時、自分の頭の中はただ白かった。何かを考えているのでもなく、考えようとするのでもない。考えることをやめることにした訳でもない。ただ、口がそう走ったのだ。
「私は、鬼です」
その言葉に、自分が何を見ているのか、音も何も分からない変な世界に迷い込んだ錯覚に陥る。

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