小説『魏者の成り立ち』
作者:カワウソ()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「おーい、朝だぞ! 高校新しい春だぞ。青だぞ。青春だぞ。青春まっさかり男子」
 朝だ。いつの間に寝たのかよく覚えてない。時間でいうとこの六時三十分位と言ったとこだろう。どうも睡眠不足みたいで気だるい。
「入学早々遅刻は無しにしてね。朝ごはん作っといたから、早く着替えて降りなさい」
 そうだ。今日から高校生なんだった。どうも夜の一見が頭から離れなくて、どうでもよくなっていた。どちらかが夢なんじゃないかって思いたくなるくらいには。
 朝は軽く済ませ、行く用意をする。時間的には十分すぎるほど余っている。早めに登校しようか悩んだんだが、もう少しだけ家でのんびりしときたかった。
 高校はそんなに離れているとこではなく、歩いていける距離。そこを狙って何とかして受かったのだが。受かったのはいいが、気が抜けに抜け、今となっては通うのも面倒だとさえ思っている。
 適当なことを思っていると、そろそろ登校しなくてはまずい時間帯となった。重い腰をあげるのもしんどうだ。
歩いて数十分で学校は見えてくる。青い春を夢見る痛いげな者たちが集うと言われている場所。
俺もここで謳歌させれるんだろうか。それともつまらない三年間を過ごすのだろうか。バランスのとれた生活をしたいな。
 学校は華やかに化粧され、若返りをみせるように色々しく、新入生を歓迎している。
多分、親御さん達なんかより一番華やかではないだろうか。
 まずは自分のクラスがどこかを見る。今度は教室がどこにあるかを辿る。
教室にはすでに人が集まっていた。顔を見知ったものもいれば、そうでないものもやはりいる。生徒数は十分に居るが、自分を含めこれで全部なのだろうか?
 そんなことを思っていると、背中を小突かれる。振り向くと見慣れない男が立っている。同じ服を着た学生ではなるのだが。
「やあっ、このクラスは君を含め後六人で全員集合だよ」
やはり俺以外に来てない奴はいるのか。まだ十分という程に時間は有り余っているからな。
「っで、このクラスと言ったが、他のクラスの方はどうなんだ?」
「おーっ、それを聞くのは君が初めてだ。他も似たようなもんだけど、揃っていたりいなかったりだよ」
「もしかして、本当に全部のクラスを見てきているのか?」
「勿論だ。何せ僕はこの学校、この町で一人で来た。家族や友達なんかとは離れ離れになったので、この学校の生徒達なんかとは、少しでも顔を見知っておきたいと思っていたからね」
「ゴメン。友達がいないと気付けなくて」
「君は心にもない事を言うんだね」
「厄介事は御免こうむるタイプなんだ」
「僕の名前は新塚 拓視(ニイヅカ タクミ)よろしく」
「ガン無視かよ。遍だ。よろしく」
こうして直を仲間に入れた。
「せっかくの近づきの印として、面白い情報を聞いたから教えるよ」
「面白くなかった場合は責任を取ってもらうからな」
アタルは嫌な笑みを浮かべ顔を近づける。面白い情報を与える割には、ひそひそ話みたいな状況下ではあるんだが。
「この町にはお化けが出るって噂だよ。深夜の十二時以降に白い着物を着たお化けが。その物の顔を見た者はいないっていう噂らしい」
コトメのことを言っているのか?それだとしたら大きな誤解であると言うのに。
「昨日の夜に俺はあったぞ。その白い着物を着た子に」
「えっ?」
心底驚いたのだろうか。それともネタが増えた事に喜びを感じているのだろうか。驚きと微笑みが混ざり合ったようなどちらともいえないしょうな表情をしている。
「正確には今日かな。普通に話したし、顔もちゃんと見たぞ」
「ほ、本当に見たの! それに、顔まで!! 凄いや遍。この話には続きがあるんだよ。その子を見たのは誰もが見えるってわけじゃないっていう話がある。仲の良い二人組がいたんだけど、片方はそれを見て片方は見ていないっていう話があるんだ!」
「えっ?」
ナチュラルに呼び捨てされたのはどうでもいいとして、今度は拓視を再生するように俺の驚きは一言しか出なかった。

-5-
Copyright ©カワウソ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える