「そういえば、朧の神器って具体的にはどういう能力なんだ?」
アーシアが駒王学園に編入してきてから数日後、とある午後の部活中にイッセーが訪ねてきた。
「イッセー、その質問についてだが……」
「なんだ?」
「人によっては不幸な過去だったり心的外傷と直結してるからあまり人に言わないようにした方がいい」
「そ、そっか。すまねえ」
「分かればいい。それで、俺の神器の能力だが――」
「結局言うのかよ!」
「聞いたのはお前だろ?」
(俺の神器は特に心的外傷にはなってないし)
「そりゃそうだけどよ……」
「それに、他のみんなも興味津々なご様子だし」
無理に興味がないように聞き耳立てる位なら普通に聞けばいいのに……。
「さて、俺の神器の話だったな。まず、名前は『黒き御手』だ」
アーシアの日本語の練習も兼ねてノートに実際に漢字と読み方を書く。ついでに漢字自体の読み方も書いておこう。
「それで、能力は物を創り出す事。できる物の強度は一定。黒一色の物質でできている」
「それってどんな物でも創れるのかい?」
木場が質問してきた。やっぱり聞いてたな。
「一応は。ただし構造が複雑な物は創るのに時間がかかる」
逆を言えば構造が簡単な物ほど早く創れる。
「一度にどれくらい創れるの?」
「そうですね……」
部長の言葉に少し悩む。こういうのは実際に見てもらった方が早いだろう。
俺は黒い長手袋を出現させ、更にその手の中に黒い1m程の槍を創り出す。
「少し時間がかかりますが、これ×100個が一度に創り出せる限度ですね。それと、一回創ってから次の物を創るまでには数秒の待ち時間があります」
この限度と待ち時間が無ければ神滅具にも匹敵するんだけどな。
「少し持たせてもらっていいかな?」
「いいぞ。ただし、ちょっとだけだからな」
木場に槍を渡す。
「案外軽いね」
「そうだな。何でできてるのかも分からないが……鉄よりは軽いと思う」
木場が軽く槍を持っていると、槍はいきなり消滅してしまった。
「ちなみに、創り出した物は俺が持っていないと10秒程で消える」
「そういや、それってフリードの持っていた光の剣の刃を消してたよな?」
「ああ。黒き御手で創られた物――正確にはそれを構成する物質かな?――には天使・堕天使の持つ光力と真逆の性質を持ってるからな。光力と接触するとお互いに相殺し合うんだ」
「つまり、あなたの創り出した物も光力で消せると言う事かしら?」
「はい。ですが俺が持っている場合、創り出した物は欠けたりしてもすぐに修復されますし、持っていない場合は10秒で消えますから、戦闘であまり不利にはならないですね。更に、天使にとっては悪魔にとっての強力な光と同じで、これで傷つけるとかなり苦しいみたいですよ。いつだったかの中級堕天使は腹に槍が刺さったら3秒程で死にましたし」
「本当に天使に対しては天敵ね……どう?私の眷属に――」
「なりません。――この神器は使用者である俺からすると慣れれば慣れるほど強力になる神器なんだけど……」
(なんで神様はこんな自分達に不利な神器を創ったんだろう?)
「どうかしたか?」
「いや、何でもないよ、イッセー。これで俺の神器の能力は全部かな」
「なんか俺のと違って色々効果があるんだな」
「でも、お前の神器の方が凄いんだよ?」
極めれば神を殺せるという話だからな。お前の赤龍帝の籠手は。
「つまり、頑張れ。超頑張れ。死ぬほど頑張れ。ってくらいの努力をすれば上級悪魔なんて余裕でたどり着くだろうよ」
「そ、そうかな!?」
気持ち悪いくらいテンションが上がったイッセーに一応釘を刺しておこう。ていうかテンション下げてくれ。マジで。
「まあ、その前に2、3回命の危険があるかもだけど」
(白いのとの決戦は避けられないだろうし)
「ええっ!?」
「ま、死ぬ気で頑張れよ」