新校舎の屋上ではグレモリー眷属とフェニックス眷属のレーティングゲームの最終決戦が行われていた。
いや、そんなものは無かったのかもしれない。何故なら、戦う前に勝敗は既に決していたのだから。
グレモリー眷属は滅びの魔力を持つ『王』リアス・グレモリーと、ほとんど回復能力しかできない『僧侶』アーシア・アルジェントと、既に限界を迎えていた『兵士』兵藤一誠。
フェニックス眷属は不死身である『王』ライザー・フェニックスと、これまで『戦車』塔城小猫、『女王』姫島朱乃、『騎士』木場祐斗を倒していて魔力を消耗しているものの、強力な回復アイテムであるフェニックスの涙を使用したことで外傷は無い『女王』ユーベルーナ。
そして、開始直後にアーシアはユーベルーナによって封じられ、実質リアスと一誠VSライザーという構図になった。
数だけ見れば有利だが、相手は不死鳥。不死身という絶対の壁が、二人には破れなかった。
最早グレモリー眷属に勝ち目はなかったが、一誠は諦めずに立ち向かった。気絶してもなお、諦めることなく。
それを見ていられなかったリアスは投了を宣言しようとしたとき、
バギィン!
屋上の鉄扉が弾け飛び、ライザーへとぶち当たった。
「少し待ってもらいましょうか。このままじゃ、俺が何のために参戦したのか分かりませんからね」
かつて扉があった場所に、黒縫朧が立っていた。
間一髪の所で戦いに間に合った朧は、入口より状況を確認する。
(相手は健在のライザーに『女王』。こちらは既に戦闘不能の一誠に魔力を使い果たした部長に囚われのお姫様……詰んでるな。チェスで言うならチェックメイトだ。ま、それはいいや)
朧の足元から黒い墨のような液体がアーシアに向けて広がり、彼女の足元にあった魔方陣を塗り潰す。それによってアーシアの拘束が消え去る。
自由になったアーシアはイッセーに駆け寄り聖母の微笑で治療を行う。
「私の拘束をいとも簡単に……!」
「そもそも、あなたも相当疲弊しているでしょう?小猫に姫島先輩に木場。三人を一人で倒したんですから」
驚愕するユーベルーナに、朧は何でもない口振りで語りかける。
「よって、今の貴女は驚異ではない。でも――仇討ちという訳ではありませんが――邪魔なので散れ」
右手を向けて、そこから大量の剣群を打ち放つ。
『女王』はそれをガードしたが、途中で防ぎきれなくなり、その身に幾本の剣を浴びて倒れた。
『ライザー・フェニックス様の「女王」、リタイアです』
「さて、残るはお前だけだ」
リタイアしたユーベルーナが居た場所を一瞥すると、すぐにライザーへと向き直る。
「貴様如き人間が俺に勝てるとでも思っているのか!」
さも自分を倒すことが決まっているとで言いたげな物言いに、ライザーは激怒し身に纏う炎の火力を上げる。
「俺はさ、そう言う奴らに何時も決まって言う事があるんだよ」
顔を僅かに伏せ、手元を暗く染め上げる朧に、ライザーは怪訝な顔をする。
「人間舐めるな、悪魔共」
そして、不死鳥へ人間の悪意が襲いかかる。
朧が右手に何かを創り出し、ライザーの左腕をつかむ。掴んだ左腕に振り下ろされるのは大きな鉈。ただし、極端に切れ味を鈍くしてあるが。
「ぐおおおっ!」
その一撃はライザーの腕を一撃で両断しない。鈍い刃による一撃は切るというよりも潰すという方が相応しかった。しかし、それを何度も繰り返せば腕は切り落とされる。
しかし、ライザーは無限の回復能力を持つ不死鳥。鈍い大鉈ではある程度腕を断たれてもすぐに元に戻る。つまりは無限に腕を潰され続ける訳だ。
「ぐ、お、おぉぉぉぉっ!」
朧が握る左腕から炎を吹き出し、その拘束を外す。
一旦距離を取ろうと、飛び上がったライザーの胸に、黒い円錐状の物体が突き刺さる。その物体は螺旋状の模様があり、それに沿ってびっしりと刺が生えていた。
朧が手元のハンドルを回すと、それに連動して螺旋模様の刺が回り傷口を抉る。
ライザー苦痛の声をあげながらも、炎でその円錐を焼き払う。
「全く……ただの不死身ならもっと楽なのに……不死鳥は色々と厄介だ」
朧の攻撃――否、暴虐はまだまだ続く。
わざと関節を壊さない程度に極めたり、首を切断しない程度に締め上げたり、一度ばらばらにして再生途中の体をプールへ投げ込んだり(水も再現されていたが、ライザーの炎で蒸発した)した。
朧も、何も好き好んでやってるのではない。フェニックスの精神をすり減らすための行為であって、それ以外に他意はない。
「鉄の乙女!」
ライザーを閉じ込めた拷問道具が一日やそこらで思いついたとは思えないほどやけに精巧でも、別に前々から用意していたという事はないはずなのだ。
「ぐあぁあぁぁあぁっ!」
ライザーは内部に生えた刺で刺し貫かれる。そして、炎と共に再生し、その炎で蒸し焼きにされる。
当然、不死鳥は自分の炎で害を被る事はない。しかし、それによって熱された大気は、当たり前のようにライザーを焼く。
外気にさらされている状態ならそれも起こらない。だが、現在のライザーは鉄の乙女の中。そして、朧は鉄の乙女に通気性を求めていなかったため、完全に密閉されている。
無論、その鉄の乙女も熱によって融解するが、それは朧が鉄の乙女の上に乗って修復する。が、その反面、朧も熱の影響を受ける。
人間ならあっさり火傷しそうな鉄の乙女に触れている朧の手は、黒き御手の発動媒体である黒手袋によって守られていたが、熱によって体力や精神力はすり減らされる。
状況はライザーと朧の根比べ。
悪魔と人間。不死鳥と神器持ちの我慢比べは、当然の如く不死鳥の勝利に終わった。
朧が崩れ落ち、鉄の乙女が消え去り、その中に囚われていたライザーの姿が現れた。
ライザーは息も絶え絶え、身につけた衣服も見るも無残なぼろきれになっていた。鉄の乙女の中で死にかけた回数は数えていない。恐らく、数えていたら発狂していたほどの回数、痛みと再生を繰り返して今ここにライザーは立っている。
ライザーは倒れ伏した朧を見る。彼の姿は神器を維持する力を失ったのか、服の端々が焼け焦げた駒王学園の制服になっていた。そんな彼は、意識こそあったものの、動く気力が無い程に疲弊していた。
それを見たライザーは内心で安堵する。実際、彼も限界で、再生能力もほとんど打ち止め、炎もロウソク程度の火力も出せない。
風が吹けば倒れてしまいそうな体でも、それでも彼は倒れなかった。そして、それがゲームの勝因となった。
その直後、リアス・グレモリーは投了を宣言した。