「ほう! ここが学校の七不思議の一つ『開かずの教室』か!」
朧は生徒たちの噂になってない旧校舎の一階に来ていた。
なお、彼以外にはオカ研の面々がいた。
「ここに部長の眷属の一人がいるんですか?」
「ええ。彼は一日中ここにいるわ。深夜には外に出ていい事になってるけど、出ようとしないのよね」
「つまりはヒッキーですか。いいだろう、修正してやる!」
朧が扉に手をかけて引いたが、扉が開くことは無かった。
「さっき、深夜は外に出ていい事になってるって言ったでしょう? それ以外の時間はこの扉は封印されているのよ」
「なるほどなるほど。ならば有名な開錠の呪文、『開けゴマ』!」
「あのねぇ。そんなので開く訳――」
ガラッ
「出て来いひきこもりぃ! この俺が調きょ――もとい再教育してやる!」
「嘘!?」
部長が朧が扉を開けたのに驚く。そんな中、朧が中に入ると中から悲鳴がした。
『ヒィィィィィ! あなた一体誰ですかぁぁぁ!?』
『ゆー、あー、まい、……えねみー?』
『敵だったぁぁぁ!』
『故に容赦無く、貴様を白日の下に連れて行く』
『やぁぁぁぁぁ!』
『ええい、大人しくしろっ!』
しばし騒がしくした後、朧が女生徒の制服を着た、金髪に赤い目をした少年を連れてきた。
「部長、この子をください」
「いきなり何を言い出すのよ……」
朧の発言に、部長が額を押さえる。
「いや。この子は滅多にない逸材ではないですか。何よりも男の娘というのが最高ですね。こんなに可愛い子が女の子のはずがない」
「……男の娘?」
一誠が間の抜けた声を出す。
「そうだけど、それがどうかした?」
「こいつ、男ぉぉぉぉぉ!?」
一誠の絶叫が旧校舎に木霊した。
ギャスパー・ヴラディは男の娘かつ転生悪魔(『僧侶』)である。神器『停止世界の邪眼』のせいで古巣である吸血鬼の一族を追い出され、悪魔に転生した後はひきこもっている。そして駒王学園の一年生である。
そして、今ではダンボールの中にいた。
「波瀾万丈な人生を送ってきたのですね。よしよし」
ギャスパーの話を聞いた朧は、彼が入ったダンボールの縁を撫でる。その行為に何の意味があるのかは不明だ。
「私と朱乃、それと祐斗はこれからちょっと出かけるから、他の子にはギャスパーの教育を頼むわね」
「どのようにしましょうか? いっそのこと、『禁手化』させますか?」
「それは勘弁して。引きこもりの解消だけでいいわ」
「畏まりました。取り敢えず、夕日に向かって全力疾走ぐらいできるようにします」
「……頼むわね」
「基本はランニングということで……走れ、馬車馬の如く!」
現在、ギャスパーはデュランダルを振り回すゼノヴィアに追い回されている。
「ヒィィィィィ、滅ぼされるぅぅぅ!」
傍目から見ると、大剣を持った美少女が幼気な美少女(男の娘)を追い回しているようにしか見えず、非常に異常な絵面である。
「嫌、これは危険すぎるだろ」
せめて木場の魔剣でやるべきだろう。
「まあ、それはそれだ。ところで小猫。にんにくというのはスタミナ食材らしい。ここまで言えば分かるな?」
「……はい」
小猫がギャスパーに近寄って、朧が用意したにんにくを持って、ギャスパーを追いかけ始めた。
「……つまらんな」
朧にとって、ランニングは少々退屈だった。
「何かいい方法はありませんか、アザゼルさんや」
「なんだ、気づいてたのかよ」
『何故そんなにもフレンドリー!?』
アザゼルが現れたことで臨戦態勢を取った悪魔たち全員が、一糸乱れぬツッコミをした。
「フレンドリー? 殺し合いをした仲だぞ」
朧は黒い剣を創り出して無造作に斬りつけたが、アザゼルは笑いながら避けた。
「アハハハ、死ねクソ堕天使」
朧は笑いながら一振りごとに剣を一本ずつ増やしていく。二本の腕でどう操っているかは謎。
「ふははは、剣に殺気が篭ってるぞクソガキ」
アザゼルが手に出した光の剣で、黒い剣の大半を消滅させられ、朧は舌打ちして残骸を投げ捨てた。
「それで、アザゼルさんは何しに来たんですかね」
「そうそう、聖魔剣使いを見に来たんだ。どこにいる?」
「今魔王様の所だ。気になるなら行ってみたらどうだ?」
「無茶言うなよ。俺がそんな所行ったら、すぐに戦争だぜ。そうか、聖魔剣使いはいないのか……」
アザゼルは頭を掻くと、木の陰に隠れていたギャスパーを指差した。
「そこのヴァンパイア。『停止世界の邪眼』を持っているそうだな。五感から発動する神器は持ち主のキャパシティが足りないと勝手に発動して危険極まりない」
アザゼルはギャスパーの目をじっと見据える。
「性犯罪者っぽいからやめなさい」
パァン
朧は創り出したハリセンでアザゼルの頭を軽く叩く。アザゼルは叩かれた頭をさすりながら、匙を指差す。
「それ、『黒い龍脈』か? それをヴァンパイア接続して使えば、神器の余分なエネルギーも吸い取られるから、暴走の危険も少なくて済むぞ」
「お、俺の神器は、他の神器も吸えるのか?」
「ったく、これだから……最近の神器所有者は碌に自分の力を知ろうとしない」
「あはは、耳が痛いですねー」
朧が全く堪えてない様子で笑った。
「手前は別だよ。――……来と……い方……がって……」
「何か言いましたか?」
「何も言ってねえよ。えーと……何だったか? そうそう、『黒い龍脈』の事だったな。そいつには伝説の五大龍王の一匹、『黒邪の龍王』ヴリトラの力を宿しててな。そいつはどんな物体にも接続できて、その力を散らせるんだよ。短時間なら自分側のラインを切り離して、他のものに接続させることも可能だ」
「じゃ、じゃあ、俺側のラインを兵藤とかに繋げると、兵藤にパワーが流れるのか?」
「ああそうだ。しかも成長すればラインの本数も増えるぜ」
「…………」
アザゼルの説明に匙が黙り込んだ。
「流石アザゼル。三大勢力に神器マニアと呼ばれるだけの事はあるな」
「まあ、俺の趣味だからな。後はてめえらで頑張れよ」
そう言ってアザゼルは颯爽と去って行った。
「……それじゃあ、俺の神器をそこの新顔くんに取り付けて見るか」
匙の右手から蛇の舌が伸びる。
「これって触手に通ずるものがあるよな。成長次第では触手物の薄い本のシーンも再現可能かもな」
それを聞いた匙がこけた。
「変なこと言うな!」
「ゴメンゴメン。何故かイッセーが泣いてるけど許してくれ」
「ううっ……触手丸……スラ太郎……」
その後、どこぞのスポコンのように、投げたバレーボールをギャスパーが停止させるという練習をした。