「ケタケタケタケタケタ! みんな死んじゃえー!」
頭のネジが二、三十本は吹っ飛んだ朧が、逃げる五人に襲いかかる。その姿は黒いオーラで覆われており、軽いホラーである。
そのホラーの朧から、五人が必死に逃げていた。
「ちょっとあなたたち! 何とかしなさい!」
「無茶言わないで!」
「今のあいつを止められるのは神仏だろうと無理さ!」
顔に怯えが浮かんでいる二人の顔を見て、リアスたちもより一層気を引き締めて逃げる。
「貴様ら、何をしている!」
「タンニーンのおっさん!」
上空に巨大なドラゴンが現れ、一誠が安堵の声を上げる。
「何というドス黒いオーラだ……! ここで息の根を止めておいた方が良さそうだな!」
その声と共にタンニーンの口から、夜空を明るくするほどの炎が吐き出され、炎は朧を呑み込み、周りの森を焼き払った。
「……フハァァァー……!」
その炎の中から朧が白い息を吐いて現れる。もう人間とは思えない。
「まだいたかァ!」
朧が視線を上に向けると、上空のタンニーンに向けて黒い魔方陣が展開される。
「黒炎、焼き尽くせェ!」
「面白い! この『魔龍聖』に炎で挑むかッ!」
無数の魔方陣から吹き出した炎とタンニーンが吐き出した炎が激突し、接触点で音もなく消滅する。
「単なる炎では無いな。ヴリトラとよく似た性質の炎か?」
「そこッ、逃げるなァ!」
感嘆するようなタンニーンを無視して、朧はこそこそ逃げようとしていた五人に黒槍を投擲する。それを五人はそれぞれ躱す。
「黒歌、こうなったらやるしか無えって!」
「嬉しそうねお猿さん。けどそうね。たまには朧とやるのも楽しいかも」
「おい! 仲間じゃねえのかよ!?」
臨戦態勢を取る二人を見て、一誠は驚きの声を上げる。
「俺っちらに仲間意識とかほとんどねぇからな。それよりもあいつと戦える方が楽しみさ!」
「私と朧が戦うのは割と頻繁だったり。だからそんなに目くじら立てる事はないにゃん、赤龍帝ちん」
「私たちも行くわよイッセー、小猫!」
「……はい」
「分かりました! 赤龍帝の籠手!」
一誠の左腕に赤い籠手が出現するも、それにはいつもと違って宝石の輝きが無かった。
『……相棒、神器が動かん。恐らくは修行によって神器が通常のパワーアップと禁手のどちらかへの変化の分岐点にあって、そのせいで赤龍帝の籠手のシステムが混乱しているのだろう』
「こんな時に!?」
悲鳴のような叫びを上げた一誠に朧の攻撃が雨霰と降り注いだ。
「イッセー!」
朧の攻撃はリアスが放った滅びの魔力で相殺された。
「大丈夫イッセー!?」
「すいません部長!」
「これ以上の手出しはさせん!」
上空からタンニーンのブレスが放たれ、それを朧が黒炎で迎撃する。
「伸びろッ、如意棒!」
美猴が手にした棍が伸び、朧目掛けて真っ直ぐに伸びる。その棍の先端を朧が掴んで止める。
「行って」
「うおッ!?」
朧の手元から蛇が伸びて掴まれた如意棒に絡みつき、それを伝って美猴に襲いかかる。
「隙ありにゃ!」
黒歌が朧が如意棒を掴んでいる手の方から魔力の弾を撃ち出すが、それを朧は手を振って弾く。手が離された事で自由になった如意棒を通常の長さに戻すと同時に振り回して蛇を振り払う。
「戻って」
朧がそういうと蛇たちは朧の袖の中に戻っていき、朧は逆の手で美猴に槍を投げる、投げつける、投げまくる。
「もしかして、やっちまったか?」
「そうみたいね」
もうほとんど槍の雨のような朧の投擲を防いだり躱したりしながら二人は冷や汗をかきながら話す。その側ではリアスと一誠が、時々流れ弾のように降ってくる槍を回避していた。ちなみに朧はもう槍の発射装置みたいになっている。マシンガンの様な速度で槍を連射している。
「こうなったら、最後の手段をするしかねぇのかもな」
「そうね……白音!」
黒歌が小猫に呼びかける。
「……なんですか、姉さま」
さっきのことのせいか、小猫の視線を口調も刺々しい。
「今の朧を止められるのは白音しかいないにゃん!」
「俺っちからも頼む!」
『禍の団』の二人は真剣であるが、グレモリー眷属の三人は怪訝そうな視線を向けている。現在の朧はタンニーンと弾幕ゲームの様な攻防を繰り広げている。
「何故小猫なら止められるのかしら?」
「「朧はシスコンだから」」
そう言った二人は、槍と魔術で構成される黒の波に飲み込まれて消えた。
「……フシュー……」
それを発生させた朧は黒い煙が所々から立ち上っていた。タンニーンのブレスで焦げたのだが。
朧は三人を見ると、一回深呼吸をすると、一誠たちに向かって加速した。上空のタンニーンは双方の距離が近いため、ブレスを吐けなかった。
リアスが迫る朧に向かって滅びの魔力を放つが、朧はそれを横にスライドして回避する。朧がどんどん人間離れしてきた。
その人間離れした動きでリアスに接近し、拳を振るった。
しかしその拳はリアスには当たらず、小猫にガシッと掴まれ、止められていた。
「……ここは私が」
小猫はそう言うと、朧の手を掴んでいるのとは逆の腕で、朧にボディーブローを打ち込む。しかし、それを朧は掴まれた手を支点に片手倒立することで避ける。
小猫は掴んでいた手を離すと、落ちてきた朧の後頭部に薄い白のオーラを纏う掌底を叩き込む。
それを朧は体を丸めて被害をかすめるだけにとどめ、踵落としを放つ。それが小猫の両腕で受け止められると、地面を後転して距離を取った。
「ぅぅぅ……」
朧は地面に手足を着いたまま、二本の足で立とうとはしない。
「……先ほどの掌底には気が込めてありました。直撃しなかったので余り影響はないと思ったのですが……」
朧は無言で、立ち上がらないまま小猫との格闘戦を始めた。