「スタッ」
エレベーターを使用する訳にもいかない朧は、ある程度の高さまで階段で降りて、その階の窓から地面へと飛び降りた。
「あ、足が……」
朧は着地のショックでプルプルしている足を擦りながら立ち上がると、仙術で辺りを探り始めた。
「けど、俺の仙術だとあいつが本気で気配消すと探しきれないからなぁ……」
本来そのために覚えたのに、実に意味が無かった。
「やっぱり誰も来てないのかな……」
落ち込んだ朧の背後に誰かが立ち、それを感じた朧は振り返って身構える。
「――って、何だ。不死鳥娘か」
「レイヴェル・フェニックスです! 変な呼び方はやめていただけますか?」
「すまんすまん。それで、こんな所で何をしてるんだ?」
「それはこっちのセリフですわ。何故悪魔では無いあなたが、先ほどのパーティー会場にいたのですか?」
「へぇ……気づいてたんだ」
朧は仙術を用いて、自分の気配を薄めて気づかれないようにしていた。よく探さないと気づかれないはずなのに気づかれた事に感心すると同時に、自分の未熟さに腹を立てていた。
「答えてください。返答如何では――」
「お腹が空いたから」
言葉を遮って放たれた言葉に、レイヴェルがポカンとした表情をした。
「それだけ……ですの?」
「パーティー会場に侵入した理由は」
それを聞いたレイヴェルは頭を押さえた。
「どうした、頭でも痛いのか?」
「ええ、あなたのせいで……。それではもう一つ質問をしてもいいですか?」
「いいよ。フェニ娘ちゃんの質問なら、甘つ位は答えて上げる」
「あ、甘つ? 後フェニ娘ちゃんはやめてくださいと」
「20と1つ。だが断る」
「……コホン。それでは――あなたは何故、冥界に来ているのですか?」
「んー? いい質問だな。それはねぇ……」
レイヴェルは自分に背を向け、肩ごしにこちらを見る朧を見て、何とも言えぬ怖気を感じ、背中から炎の翼を出して飛び退る。
「『禍の団』から、冥界での待機命令が出たからなんだ」
朧から発せられているオーラは、レイヴェルがこの前会った時とは質も量も全く違っていた。レイヴェルは冷や汗をかきながらも、朧に内心を見せまいと気丈に振舞う。
「只者ではないと思ってましたけど、まさか最近噂のテロリスト集団の一員とは……驚きましたわ。そういえば、まだお名前を伺っておりませんでしたわね。お聞きしてもよろしいでしょうか?」
朧は口角を釣り上げると、再びレイヴェルに向き直って仰々しく一礼する。
「名乗るほどの者ではございませんが、私の名は黒縫朧。『禍の団』がヴァーリチームに所属する、一介の調整役でございます。以後お見知りおきを、レイヴェル・フェニックス様」
朧から発せられる圧力が強まって行き、レイヴェルは気圧されてじわじわと後ろに下がって行く。
「ん?」
不意に朧が視線を明後日の方向に向け、レイヴェルにかかっていた圧力も霧散する。
レイヴェルがほっと一息吐いた時、その口にハンカチが当てられた。
「ちょっと野暮用が出たのでこれで失礼させてもらいますね。ああ、ご安心を。これはただのハンカチで、薬品等は使用されておりません。悲鳴を上げられたら困りますし」
朧はレイヴェルを後ろから抱きすくめる様な体勢であり、右手はハンカチ越しに口に、左手はレイヴェルの左腕を体ごと抱きしめ、右腕を押さえていた。ちなみに背中の炎の翼で軽く炙られている。
「それでは失礼、お姫様」
その言葉の後に首筋を圧迫され、そこに魔力を感じたと同時に気を失い、朧は崩れ落ちるレイヴェルを支えた。
(何してんだ俺はぁぁぁーーー!!)
そして内心で自己嫌悪により絶叫した。
「なんで二回しか会った事の無い女の子の首筋に甘噛みしてんの!? 一番安全に気絶させる方法がそれだったとはいえ、無いよ無いですよ有り得ませんよ! 誰かに見られてたら死ねる!」
残念ながら誰にも見られてなかった。
「……この子のお迎えも来たようだし、レイヴェルはここに寝かせて、さっき妙な気配を感じた所に行くか」
朧は自身の上着を脱ぐと、地面に広げてその上にレイヴェルを寝かせた。その際に先ほどまでレイヴェルの口に当てていたハンカチを見る。凝視する。ガン見する。
「…………クッ」
朧はハンカチで先ほど甘噛みした場所を拭うと、ハンカチを散々迷った末にレイヴェルの手に握らせ、一目散に走り出した。
朧が森を突き抜け、目的の場所に着くと、そこでは黒歌が木の上に座っていた。
「シスコン見っけ」
そこに無言で黒歌から魔力の波導が撃ち込まれ、朧を吹き飛ばした。
朧が森を突き抜け、目的の場所に着くと、そこでは黒歌が木の上に座っていた。
「探したぜ黒歌! 相変わらず妹のストーキングを――」
そこで猫魈としての妖術がいくつも放たれ、朧を吹き飛ばした。
朧が森を突き抜け、目的の場所に着くと、そこでは黒歌が木の上に座っていた。
「探したよ、黒歌にゃん!」
そこで黒歌が鳥肌を立てて妖術と仙術が混ざった一撃が、朧を吹き飛ばした。
朧が森を突き抜け、目的の場所に着くと、そこでは黒歌が木の上に座っていた。
「黒歌お久ー。元気してたー?」
「こっちはいつでも元気にゃん。朧はどうかした? ボロボロじゃない」
「森を突っ切って来たからな。ここで何してるんだ?」
「待機命令って言っても退屈だから、悪魔のパーティーを見学しに来たんだにゃん」
黒歌が目の前に飛び降り、朧に抱きついて来た。
「残像だ」
「にゃッ!?」
黒歌が体勢を崩して転びかけたが、朧が和服の襟首を掴んで支える。
「にゃにゃッ!?」
すると、黒歌が和服をはだけさせて着ていた事が災いし、着物の上半身が脱げた。
「あーあ、着物をちゃんと着ていないからこうなるんだよ。これに懲りたら今度からちゃんと着付けろよ」
襟を掴んでいる手とは逆の腕で、黒歌の腰を抱きとめていた。
そんな時、黒歌の足元に彼女の使い魔の黒猫が擦り寄って来る。
ガサガサ
茂みをかき分けて、ドレス姿の小猫が出て来た。
「………………」
「………………」
「…………やっほー小猫。また会ったね」
沈黙に居た堪れなくなった朧が小猫に声をかけると、小猫は絶対零度の視線を向けた。
「……どうぞごゆっくり」
「違うんです少し待ってくださいお願いしますから俺の話を聞いてー!」
「にゃうっ!」
小猫が踵を返すと、朧は黒歌をそこらに放り投げて小猫の足元に縋り付いた。
「……離してくださいドスケベ先輩」
小猫に足蹴にされながら、朧は小猫に必死に弁明をする。
「違うんです俺はあんな無駄にでかい胸に興味無いですこれは不幸な偶然が重なった結果であって悪いのは俺ではなくあの黒猫なんです」
「……それはそうかもしれまんが」
「ちょっと白音!?」
和服を着直した黒歌が思わず叫んだ。
「……姉さまは黙っていてください」
「はい……」
しかし、小猫のオーラに黒歌はすごすごと引き下がった。これが修行の成果なのか?
「二人して何してるんでぃ?」
小猫の前に二人が正座しているという状態に、更に一人の闖入者が現れた。
「殺すッ!」
「殺すにゃん!」
現れた美猴に機銃掃射のような魔力・魔術・仙術・妖術・神器が降り注いだ。
「うわわっと!?」
美猴が二人の一斉攻撃を避けると、悲鳴のような叫びを上げる。
「ちょっと待ってくれや! 俺っちにそんな事するなら、そっちの茂みに隠れている奴らはいいのかよぅ?」
「……え?」
朧がギギギという音がしそうなぎこちない動きで振り返ると、そこには一誠とリアスが立っていた。
バツの悪そうな顔で立っている二人を見て、朧から表情が消え、壊れたテープレコーダーの様に笑い始める。そんな朧から、皆がじわじわと距離を取り始める。
「――皆死んじゃえば、ここでの事は無かった事になるよね★」
その言葉と共に朧がどこからともなく取り出した黒いコートを着、結界が周辺を包み込み、周囲一帯が神器と魔術でなぎ払われた(この間約0.2秒)。