小説『ハイスクールD×D Dragon×Dark』
作者:()

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「ふむふむ。まあまあ馴染んだか。やはり元々の腕の方が扱い易かったな」
 新しく繋いだ左腕を、調子を確かめるように何度か腕を振り、手を開閉する。
「性能はそこそこ上げたからその分プラマイゼロかな……っ!」
 壁に向けて放たれた拳は金属製の壁を大きくへこませた。
「……痛覚も通ってた」
 その後左腕を押さえてうずくまった。

「朧、いるかぃ?」
 朧が痛みから立ち直った時、美猴が部屋の扉を開けて入って来た。
「なんだ美猴」
「左腕の調子を見に来たのと、ヴァーリから伝言さ」
「左腕の調子はまあまあ。それで、ヴァーリは?」
「そろそろ神殺しの牙を盗りに行くってよ」
「ついにか。悪神様(ロキ)を出し抜ける策はできたのか?」
「ヴァーリがそんなことを考えると思ってんのかぃ?」
「よぉし、無策なんだな。――死ぬわ馬鹿ども!」
 あまりの無謀っぷりに朧がキレた。
「やるのはいいし、それに付き合う気もあるが、むざむざ死ぬ気はねえぞ」
「いや、ヴァーリの奴も無策って訳じゃねえぜぃ。北欧の主神(オーディン)が日本のとある土地に来るんだけどよ、それの理由が和平らしいんだよな」
「……それが嫌った悪神様がそれを潰そうと追ってくるから、そこを狙うってか? 策ですらないな」
「続きがあるさ。主神殿の警護に、堕天使の『雷光』と、赤龍帝ん所の奴らが就くらしいぜぃ」
「だったら巻き込めば楽になるな。なるほどなるほど。後はグレイプニルがあれば完璧だな。それくらいは自分でなんとかするか」
 そこで、朧はふと顔色を変えた。
「さっき、赤龍帝って言った?」
「言ったけどよ、それがどうかしたかぃ?」
 美猴が肯定したのを受けて、朧はガックリと肩を落とした。
「はぁ……また俺の住む町が戦場になるのかよ。呪われてるんじゃないか、あの町」
「まあ、悪魔がいるくらいだしな」
「そんな事理由になるかー!」






 我が愛すべき故郷に神々の黄昏(ラグナロク)の危機が迫っているのは看過できない事態であるが、我が故郷には他の危機もあった。

「英雄派ぁ! 戦うんなら他所(よそ)でやれっ! この土地でやることだけは許さねぇぞ!」
 流石に構成員と本格的に事を構えるのはまずいので、悪の戦闘員みたいな黒い人型――魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)で創られたモンスターを塵も残さずに消し飛ばして威嚇している。それでも帰らないようならお仕置きするまでだ。――その気になればこいつら程度はすぐに屍に変えられるのだが。
(まあ、新しい左腕の試運転には持って来いの相手なのだが)
 結果としては左手での抜き手が貫通する様になった。首の骨を片手で折れるようになった。戦闘員の爪らしき部分と皮膚の強度が拮抗する。
(なかなかに人間離れしてきたな。元から半分は人間ではないのだが)
 本日も構成員は帰ってくれないようなので、仕方なく、本当に仕方なく、丁重に追い返す事にしよう。関節技(サブミッション)で。
(ところでサブがあるならメインもあるのだろうか?)
 なんて事を考えてながら構成員に近づいていくと、オカ研メンバーの気配が近づいて来たので、転移ですぐ逃げた。こういう所で遭遇すると面倒なのである。テロリストなので。



 転移して家に帰ると、家の子達とヴァーリチームの面々が部屋でテレビを見ていた。その内容は『乳龍帝おっぱいドラゴン』…………正直、赤龍帝(ドライグ)とそのとばっちりを受けた白龍皇(アルビオン)が不憫でならない。
(これが流行(はや)る冥界って……)
 うん。もう何も言うまい。
(あ、よく見るとオーフィスも居る)
 けど、あの中に入って一緒に見る気はないや。……オーフィスを超えるか、乳龍帝よ。
(こんなもの見るために冥界の電波拾うようにTV(テレビ)改造させられた俺って……)
 誰か俺を慰めて欲しい。そしてふと恐ろしい考えが頭をよぎった。
(もし雪花と白羽がイッセーに懐いたら……いや、懐くだけなら一億光年譲って許してやらんこともなくはないが、それ以上になったら…………よし)
「ちょっと引き返してイッセーを亡き者にしておこう。うん、それがいいや」
「何考えてるんですかあなたは!」
 黒手袋両手に家を再び出ていこうとしたが、背後から光力でできた鎖が俺に巻きつけられた。
「仙術による察知をすり抜け、光力で鎖を作れるまで器用になったか……成長したな」
「あなたは私の師匠か何かですか?」
「違うけど? わかった所で離して頂戴?」
「……離したらどこに行くんですか?」
 全く……何を訊くのかこの子――といっても俺より遥かに年上だろうが――は。
「ちょっと家の子に手を出す(かもしれない)害虫を駆除するダケデスヨ?」
「ふんっ」
 俺の体から決してしてはいけない音がして、俺の意識は闇に沈んだ。



「意識が戻った所で、フェンリル捕獲計画について話し合います。神様と事を構えるために世界十強に入るフェンリルを手に入れるとか正気じゃないよな」
「いきなり不満から入ったわねー」
 当たり前である。何が悲しくてまともに対峙したら三秒も保たない相手と遭遇しなければならんのだ。冗談抜きで死ねるって。
「はい、そこで出てくるのがグレモリー眷属+αです。巻き込めば死傷率は下がる」
「歯に衣着せる気はないのですか?」
「無い」
 着せたからといって何かが変わるわけではないだろうに。
「まあ、あそこと協力すれば悪神の一人くらい抑えてくれると信じたい」
「希望かよ」
「この世に絶対などない!」
「そんなに言い切らなくていいじゃねえかよぅ……」
 猿の相手はできるだけしない。どうせ戦えればいいんだから。
「で、問題の神喰狼(フェンリル)だが……覇龍(ジャガーノート・ドライブ)状態のヴァーリが相手してください。俺は嫌だ」
 若い身空(みそら)で死にたくないとは言わんが、狼に食われて死ぬのは御免(ごめん)(こうむ)る。
「了解した」
 ヴァーリは快く了承した。うん、理解に苦しむ。
「けど、ヴァーリが覇龍(ジャガーノート・ドライブ)発動したら周りに被害が出るので、そうなった場合は異空間での戦闘してくれ。その異空間構築はルフェイに任せる。護衛に最近鹵獲したゴグマゴグを就けとく」
 俺の提案を聞いたルフェイが手を挙げた。
「何かなルフェイ」
「ゴグマ……ゴッくんはもう動ける様になったんですね?」
「まあな。頼んで置いた俺の分はまだだけど、そっちのただ動くようにオーバーホールしたのは普通に動ける」
 古代の遺産といえど、現代科学で補えない訳ではない。人間の進歩は良くも悪くも偉大なのである。
「はい、他に質問ある人ー」
 その問いかけに、三人ほどが一斉に手を挙げた。
「はい。美猴、黒歌、アーサー。お前らの相手はもしかしたらいるかもしれない存在だから、それまで待機で」
「質問する前に答えられたにゃ!?」
 貴様らの言う事なんて大抵聞かなくても分かる。
「それでは、残りは赤龍帝共と共同戦線が決まってからおいおい話し合うので、意見がある人は紙に書いて提出してくれ」
 紙に書かせる理由は戦闘狂どもの戦闘に関する話を聞きたくないからである。
「それじゃあ、ついさっき北欧の主神殿がお隣に訪れたようなので、そんなに待たない内に悪神殿と神喰狼(フェンリル)も来られるだろう。ちなみに、主神殿に喧嘩売るなよ、話がややこしくなるから」
 ヴァーリチームの肯定の声を聞きながら、精神的に疲労した俺は膝の上のオーフィスを撫でるのであった。

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