「朧、おかわりぃ!」
「朧にゃん、こっちも!」
「てめえらはちったぁ遠慮くらいしろ!」
などと悪態をつきながらも、朧は突き出された茶碗にご飯をよそって返す。
「ヴァーリ、魚をもっときれいに食え!」
魚の骨を箸で実を散らかすように取っていたヴァーリにキレた。
「俺は箸を使うのは苦手なのだが……」
「さっき使い方は教えただろうが! それに、白羽と雪花は一度できれいに食えた」
朧はそう言いながらその二人の頭を撫でた。
「オーフィス、米粒ついてる」
朧はそう言ってオーフィスの口元に近い位置にあった米粒をとってオーフィスの口に運んだ。
(((オーフィスにだけは甘いな……)))
それは今更であり、更に付け加えるならオーフィスの魚だけ既に骨が取られている。
「んんっ?」
食後のお茶で一服していた時、この町を囲う様に張られている結界(三大勢力も同様の物を張っていて、術式の違いから干渉せずに両方存在している)が、あっさりと突破された。
「えー、業務連絡業務連絡ー。ロキ侵入を確認ヴァーリ、顔合わせに行こうか?」
「ああ」
「俺っちも行くぜぃ」
ヴァーリと美猴と共に外へ出る。
『Vanishing Dragon Balance Breaeker!!!』
「来いっ、筋斗雲!」
ヴァーリは白銀の鎧をまとって、美猴は金色の雲に乗って飛んでいってしまった。
「飛べない俺に対する当てつけか! って、文句言う相手もいないし。くそっ待ってろー!」
そう言って朧は走り出した。人の常識内の速度で。
「ぜぃ……はぁ……ぜぃ……はぁ……」
ようやくオーディンとロキが対峙している所の近くまで来たらロキとフェンリルは退散し、オーディンたちを乗せた巨大な馬車がどこかへ向けて走っていった。
「また走るのかよ! ……今度から乗り物創れる様になろう」
取り敢えず今は比較的構造が簡単な自転車を創り出し、馬車の後を追った。
駒王学園の近くの公園に来てヴァーリの姿を見たとき、ひき殺したくなった。
「くたばれっ!」
持ち上げた前輪をヴァーリの頭の高さに持ち上げて突撃する。しかし、それは躱され、俺は八本足の馬――スレイプニルに追突した。
「あ……」
スレイプニルと一瞬目が合い、その瞬間命懸けの鬼ごっこが始まった。
開始十二分後、隠し持っていた人参にて餌付けに成功した。
「今こそ反撃の時は来たり! 駆け抜けろ、スレイプニル!」
スレイプニルにまたがり戻って来ると、皆にとても驚いた目で見られた。
「ほう、うちの気難しいスレイプニルを手懐けるとはやるのう」
「昔から魔獣の類を手懐けるのは得意なんだよ! 『天空の魔鳥』ジズとかとも友達だしな! さあ、噛み砕けスレイプニル!」
雄叫びを上げながらスレイプニルが駆け出し、オーディンの前で止まった。
「だろうと思ったよ!」
多少がっくりしたが予想の範囲内だったので、スレイプニルの背中を二、三度撫でてから降りた。
「ヴァーリ、話はしたか?」
「ああ、つい先ほどな」
俺、何しに来たんだろ?
「じゃ、帰るか?」
「そうしよう」
俺とヴァーリは頷き合うと、ヴァーリと美猴が再び俺を置いて飛んでいってしまった。
「また置いて行かれた!」
今度こそガックリと膝を着いた。
「ははっ……どーせ俺は空も飛べないし禁手もできない無能ですよ」
「あぁ? お前まだ禁手できてねえのか?」
アザゼルがそう叫ぶのも無理はない。先ほど英雄派で禁手化を行える神器保有者が増えてきた話をしていたので、その方法を真っ先に実践しそうな俺が禁手化できないのが不思議なのだろう。
「いいですか総督殿。――あれぐらいお百度参り感覚でこなしたわ」
「……それ、むしろ逆効果じゃねえか?」
「え?」
「いや、禁手ってのは基本的に劇的な変化が起こると発生するだろ? だから日常感覚でそんな事してたら大抵の事を劇的な変化とは判断されなくなるから、禁手に至り難いんじゃないかって思うんだが……」
今明かされた驚愕の真実に俺の中の何かが折れた。
「もう動きたくないので家まで送ってください」
そう言ってスレイプニルが引くのであろう馬車に乗り込み、うつぶせに倒れる。すると誰かが俺の頭を撫でてくれ、俺は思わず子供のように泣いてしまった。