小説『フェンダー』
作者:あさひ()

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 真山美佳の周辺を、人をたくさん集って調査した結果、真山美佳は高校一年生の時に一度不登校になったことがあったことが分かった。美佳の同級生の中の一人の証言であった。美佳の通っていた高校は、そのことを隠ぺいしていたのだった。その原因を未央が美佳の母親に追及したところ、その原因は高校でのいじめであった。

 未央は真山の奥さんから聞き、美佳のもとにやってきた。美佳は川辺の堤防で絵を書いていた。夕暮れ時であった。
「あら、刑事さん。何か御用でしょうか?」
「えぇ、今大丈夫?」
「はい。」
「絵を描きながらでもいいから。」
未央は美佳の隣りに座った。
「あなたが高校一年生だった時の話を聞かせてくれない?」
美佳の手の動きが止まった。
「今、美佳ちゃんの周辺の人物について調査しているの。じきに誰かが浮かび上がってくると思うんだけど・・・。」

美佳は絵を描くのをやめ、手にしていた筆を横に置いていたパレットの上に置いた。
「あなたは、本当のいじめの対象ではなかった。」
「いいえ、いじめられていたのは私です。」
「嘘は言わないでって言ったでしょ?あなたがかばった人のためにも、本当のことを言って。彼はあなたが絵を描くことを、あなたが幸せになることを心から祈っている。」
「もう、分かったんですか?」
「あなたは、この事件の犯人をいじめからかばっていますね。だから、今度はあなたがいじめの対象になった。あなたが彼をかばったのは、彼が幼馴染で家族のように大切だった存在だから。そうでしょう?その犯人はあなたの将来のために、あなたの家族からあなたを守るために、殺人を犯した・・・。あなたの父親と母親は、あなたの婚約を破棄することと引き換えに、その男に殺人を犯させた。」
美佳の大きな瞳がうるみ始めた。美佳は未央にそれを見られないようにうつむいた。

「あなたが高校一年生だった時の同級生、中山篤の所有している車から、犯行に使われた自転車のかけらが発見されたの・・・。公衆電話から電話して森野を呼び出したのは、真山 久。真山 久の証言から明らかになった殺害現場から、中山篤の頭髪や衣類の毛が発見されたわ。」

美佳はぼろぼろと涙を流した。

「彼は同級生にいじめられただけじゃないの。彼も、父親に精神的なダメージを負わされていて、私が必要だったの。だから・・・。」

未央は美佳に寄り添い、震える美佳の肩を抱いた。

「人は、何があっても人を殺してはいけないの。」

「私たちね、小さいころに約束したの。絶対に裏切らない、何かあったら互いに必ず助け合うんだって。」
「彼は約束を守ってくれたというわけね。」
美佳は涙を流しながらこっくりうなずいた。

「彼が出処したら、必ずあなたが一番最初に彼を迎えてあげて。」

夕日の光がきらきらと川の流れの上で輝いていた。


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