「…………」
敵陣の中心付近、兵士の私物を管理している場所だろうか、そこでリナトはまた俺には分からない言葉を喋り、そこに居た兵士から何かを受け取っていた。
「なんだそれは?」
「これは私たちの身分を明かす物です」
それだけ言うとリナトは陣の中でも一際大きな建物の中に入りそこにある会議室のような場所に俺を連れてきた。
「こんな場所使って大丈夫なのか?」
「ここは今は使われていない部屋なので密談にはもってこいの場所なんです…秋元さん、あなたは名前を捨てる覚悟は有りますか?」
急な質問に俺は戸惑った。
「名前を捨てる?どういうことだ?」
「これから話すことはこの世の中でも最高機密ですので、個人がその情報を有するのが許されていません、ですのでこの話を聞くためにあなたはあなたという存在を捨てていただかねばなりません」
「俺という存在を捨てる?」
俺はリナトの言っている事が分からなかった。
「あなたにあまり時間は与えられていません、名前を捨てるか捨てないか、二つに一つです」
正直俺は名前を捨てるという行為に抵抗を感じなかった、昔から自分の名前に愛着を持ったことが無かったからだ、それに第一に俺の好奇心が名前を捨ててでも真実を知りたがっていた、だから俺の答えは決まっていた。
「俺は名前を捨て…」
「捨てる」、そう言おうとした瞬間だった。
「秋元さんに一つ、言っておくことがあります」
リナトの腕がゆっくりと腰まで動き
「答え次第では、私はあなたを殺さなければなりません」
そしてその手が腰の拳銃を引き抜き、銃口が俺へと向けられた。