小説『職業:勇者』
作者:bard(Minstrelsy)

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【序章:エンディングのその後】


「ありがとう! あなたのお陰で世界は救われました!」
 そう。それは良かった。
「これで平和が戻ります」
 それは何より。
「何とお礼を申し上げれば良いのか……」
 別に良いです。
「どうかこのまま留まって、この国を治めては頂けませんか?」
 遠慮します。
「そんな……! そうおっしゃらず……」
 いや、早く帰りたいし。
「……。そうですか……。それは残念です……」
 早いな、諦めるの。
 まあ、別に良いけど。
「いつでもいらして下さいね。盛大なパーティーを開きますから!」
 気が向いたらまた来ます。
「本当にありがとう!」
 それじゃ、元気で。


 こうして世界は救われて、人々の生活に平和が戻った。
 俺の旅もこれで終わり。
 少しは、ゆっくり休めるだろう。


「あ、お帰り」
 懐かしの我が家に戻ると、飼い猫のクロ吉が出迎えてくれた。
「飯は?」
「さっきお隣さんに貰った」
 あくびと共にクロ吉が答える。
 側には空の器。
 ついさっきまで居たのだろう。
「で、どうだった?お姫様美人だった?」
「あー……見飽きたタイプの美人だったな。この前の冒険姫様の方が良い」
「ふぅん。で、何貰った?」
「いつも通りの報奨金と、国宝の剣と、あと色々」
「国は?」
「んなものは断った」
「治めてみたら良いのに。家も広くなるし」
「……嫌だよ、面倒臭い」
「オイラへのお土産は?」
「絶品スモークジャーキー」
 小包を差し出すと、あっという間にかっさらわれた。
 クロ吉がスモークジャーキーに夢中になっているうちに、溜まりに溜まった手紙を処理する。
 大半は、国の近況を知らせる便り。
 他には、今までに立ち寄った商店からのダイレクトメール。
 稀に、共に旅をした仲間からの便りがある。
 それをひとつひとつ読み、レターボックスへ振り分けて保存する。
 読み返すことは二度とないだろうが、もう習慣になっている。
 そうしなければ落ち着かない。


 世界を救う。
 これが俺の「仕事」。
 だから、これが普通。
 時々、こんな生き方が虚しくなる。
 世界を救うのはもう飽きた。
 それから逃れられない自分を救うのは、もう諦めた。


 のんびり出来る時間は無いだろう。
 どうせまた、どこかの世界から遣いがやってくるのだから。

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