小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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次の日、ヒロユキさんの「うわあっ!!」という声で目が覚めました
「んん?」と思って気が付くと僕は抱き枕のようにヒロユキさんにしがみついて寝てたみたいでした
ごつい抱き枕…
「ご、ごめん」
そう言ってぱっと離れましたが、よく考えるとヒロユキさんもボクを腕枕して足まで乗っけてたような…

なんとなく気まずい雰囲気が流れながらも、お互いに布団をたたむと制服に着替えました

学校のほうは相変わらずセーラー服登校が続いていましたが、その日は弘樹さんの家から初めての登校だったし、放課後剣道教室に申込みに行く予定だったので久しぶりの学ランでした

里見さんの用意してくれた朝食を食べ終わった頃には、もう寝起きの気まずさは無くなってました
ヒロユキさんの家は、僕の家よりも学校に近かったので二人並んでのんびり登校することができました

ヒロユキさんと一緒に登校してることや、一年グループとのタイマンで、表立ってのいじめはありませんでしたが、いつのまにやら上履きがなくなってたり、机の落書きは「オカマ注意!!」とか、もう机全面カッターや彫刻刀で掘り込まれて無事なところが少ないくらいだったけど、全然気になりませんでした

放課後になって、剣道教室に向かいました。学校から剣道場までは歩いて10分かかりませんでした
昼から開けては居るけど、教室は夜からということでした
一か月3千円の月謝だと道場主さんが言いました
防具は貸出できるけど、上着と袴は買わなければならいと言われましたが、お金がないことを説明すると、道場主さんは困った顔をしながらも、更衣室の一角に積まれた段ボールをゴソゴソ物色しながら一揃いの防具と上着、袴を見繕って探し出してくれました

「ちょっと大きいけど、君ぐらいの年代の子はすぐ成長するからこれでいいだろ」
そういいながら防具のつけ方から教えてくれました
防具一式をつけるだけでフラフラになるくらい重かったし
特に面はつけるだけで、息苦しくなって視界も悪いし最悪でした

「ま、最初は素振りからだね」
その様子を見ていた道場主さんが笑いながら言いました
篭手をはずすと異常な臭気が鼻を突きました
「先生、くさいよ、これ」
僕は耐えきれずに訴えました
先生はさらに大笑いになりました
「そんなもんだよ、新品だってすぐ臭くなっちゃう。あ、シャワールームはあそこ」
と指さしてくれました。赤いぽっちのある水栓もあったのでお湯も出そうでした

「早速今晩からくるかい?」
「はい。」
「じゃあ6時にまたきなさい」
「はい。」
「それから、道場に入るときは『よろしくおねがいします』出るときは『ありがとうございました』
って挨拶すること。だれもいなくてもね。これは決まり事だから守るように」
「はい。」

道場を出ると屋外にあった手洗い場で石鹸をつけて必死で手を洗いました
臭いがいつまでも鼻に残っているようで気持ちが悪かったのですが
いつまでも洗っているわけにもいかず、適当なところで切り上げると

5月の気持ちいい風を受けながら、またプラプラと弘樹さんちに帰ると、弘樹さんと里美さんに
道場に通うことになった、と伝えました

それが弘樹さん一家との奇妙な共同生活の初日でした

飛び石連休じゃなくって、まとまったG.W.ならいっぱいヒロユキさんと遊べるのになあという気持ちでいっぱいでした

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