小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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ヒロユキのお葬式は組葬ではなく、関係者だけの密葬という形で行われました

それでも義理事は大変なもので、通夜の晩から香典を持った参列者が後を絶ちませんでした

「ヒカルさん、俺ら代わりますんで奥で休んでください」
と何度か声をかけられましたが、とてもそんな気分ではなかったのでずっとヒロユキのそばについていました
ポンと肩をたたいてくれる方、お悔みの言葉を下さる方。
久保田さんも手が白くなるほど拳を握りしめて正座してお礼を言っておられました

里美さんは見てわかるほどに憔悴して目の下に隈ができていました
お互いにかけあう言葉も見つからなくて
僕も涙をこらえるのに必死で何もしてあげられませんでした

次の日は涙雨とでもいうのでしょうか、みぞれ交じりのすごく寒い雨の日でした

ヒロユキはお坊さんの長い長いお経のあと火葬場へと向かいました

「ヒロユキを焼いたりしないで!撃たれて死んでさらに焼かれるなんて」
ずっと心の中で叫んでいました

無情なお坊さんの叩く鐘が鳴り響く中
係員さんがお辞儀をした後、スイッチを押しました
焼却炉の扉が閉まりました
里美さんがその場で崩れて泣き咽びました
とうとう僕もこらえきれず泣きわめいてしまいました
伝播した悲しみは、そこにいた全員を涙で濡らしました
ヒロユキが骨になるまで2?3時間かかると告げられました

僕はフラフラと建物の外に出ました
心配した弘樹さんと久保田さんが傘を持って追いかけてきました

真冬の空は痛いほど澄んで青く、雨は細かな雪に変わっていました
ヒロユキが降ってきた、そうおもいました

そびえたつ無機質な建物の煙突から
ヒロユキは煙になって真っすぐ天に向かい消えていきました

ヒロユキと無免で初めてバイクに2人乗りしたこと
木の下で暑さを逃れて初めてしたキス
一緒にビクビクしながらもっちゃんの店で入れたタトゥ

ヒロユキがずっと変えずに吸い続けた銘柄のセヴンスターを袂からとりだすと
涙で顔がくしゃくしゃになった久保田さんが
「俺にもくれよ」
とはじめて銀行員じゃない口調で言ってくれました

「ヒカルちゃん、俺ももらえるかな」
弘樹さんも涙で頬を濡らせながら言いました

大人の男の人の泣き顔を初めて見ました
こんなに痛々しいものだとは思いませんでした

3人で肩を寄せ合い煙草に火をつけるともう言葉は必要ありませんでした
傘を閉じると、雪と雨に濡れながらじっと煙突から立ち上る煙を見つめながら、指先が焦げるまで煙草を吸いました

ヒロユキだった骨は、ほぼ完全な形でした
僕は一番小さな骨壺に薬指の骨を2本とももらいました

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