小説『聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!  第2章:武士道プラン異聞録編』
作者:みおん/あるあじふ()

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第2章『武士道プラン異聞録編』



60話「まじこい☆くぇいさー 6」



まゆっちと由香里の部屋には風間ファミリーが集合していた。


部屋のテーブルの上には一台のノートパソコン。その画面上から、ユーリの笑顔が写っている。アトスとの通信手段で結果報告が行われていた。


『いやぁ、お手柄でしたね。由紀江さん、由香里さん』


感情の裏を読み取らせないようなユーリの笑顔が皮肉にしか見えなかった。そもそも所長は逃亡した上にGNクッキーを実質的に撃退したのはサーシャとワン子である。お手柄も何もない。


「呆れた奴だ。くだらん目的で旅行に忍び込むとはな」


「相変わらず由香里ちゃんは大胆だよね……」


「まあ、よくやるわな」


サーシャは腕を組み、部屋の壁に寄りかかりながらため息交じりに声を漏らす。まふゆと華は苦笑いしていた。


「くそ〜、俺も潜り込みたかったぜ!」


キャップは相変わらず、羨ましいぜとまゆっちと由香里を羨望している。ちなみにキャップが修学旅行に忍び込んでも意味がないのだが。


「まさか修学旅行に忍び込んでたなんてね……」


「おかげでクラス中が大騒ぎだ。静かに眠れやしねぇ」


「なんという大胆。さすがゆかりん」


「ったく、無茶しやがるぜ」


特に驚きもせず、あははと笑うモロと睡眠を妨害され不機嫌になっている忠勝。そして京とガクトは呆れていた。


「む……?修学旅行に忍び込んだという事は、まさかあの硝子細工はゆかりんの仕業か!?」


クリスは顔を真っ赤にしながら由香里をじろっと睨みつける。由香里はやっぱり生が一番だとクリスを眺めながら、目の保養にしていた。ちっとも反省していない。


「まあ、でも二人とも怪我がなくてよかったよ」


「ほんと、心配したわ」


大和とワン子も二人の無事に安堵していた。ご迷惑をかけましたとまゆっちは謝罪する。


『逃亡した所長は我々が後を追っていますので……時期に捕まるでしょう』


交戦に紛れて逃亡した所長は、現在アトスの調査員が追跡しているという。捕まるのも時間の問題だとユーリ。これで万乳研も壊滅する……といいのですが、と最後にユーリは苦笑いするのだった。きっとまた、しぶとく復活するには違いないだろう。


まゆっちが見ている、いつものファミリーの光景。まるで暫くぶりに戻ってきたようで思わず安堵した。


ファミリー一同は今日起きた出来事と軽い雑談をして、一時解散となった。





夕食の時間。ようやくひと段落つける時間がやってくる。


「少し遅くなったが、夕食の時間だ!さて、食べるとしよう」


由香里は嬉しそうに、目の前に並べられた豪勢な食事に目を輝かせていた。


「……………」


食欲をそそられる色取り取りの料理が、二人の前にずらりと食べ切れないくらいに並べられている。


まずはゴーヤチャンプルー。沖縄を代表する料理。ちなみに山羊肉入り。


続いてラフテー。これも沖縄を代表する料理。


うなぎの蒲焼きに、トロロとオクラの和え物、すっぽんの雑炊。極めつけはティラミスパフェ。もはやフルコースである。


「……由香里。ひとつ聞いていいですか」


「ん、どうした?」


「どうしてこんなに精のつく料理ばかりなんですか」


「今日の一件で旅館側が特別にサービスしてくれてな。私が好きな精力のつく沖縄料理をオーダーした」


所長の一件で活躍した二人。おかげでテレビや雑誌の取材が殺到して旅館はますます有名になったとかならないとかで、二人にお礼を兼ねての振る舞いらしい。


「いやいや沖縄料理二つしかないじゃないですか!というか何気にゴーヤチャンプルーに山羊肉が入ってますよね!?これもアレですか、陰謀ですか!?」


この料理の品々を見る限り、どう考えても本番前としか思えない。由香里の事だ、何をするかは……想像がつく。寝取られてもおかしくはない。


「まだ本番前なのに、今日のゆっきーは突っ込む気満々だな♪今夜は激しくなりそうだぞ」


喜びながら、頂きますと食事を始める由香里。やられると、まゆっちは覚悟を決めるしかなかった。


波乱が続いた沖縄修学旅行。ようやく一日の終わりが見えてきたというのに、もう既に怪しい影が差し込み始めていた。




今日という一日は、とても終わりそうにない。




時間が過ぎ、就寝時間になった。まゆっちと由香里は布団をしいて寝る準備をする。


「では、明日に備えて寝―――」


「今夜は寝かさないぞ」


「あうぅ………」


最も、やる気に満ちている由香里が何事もなく寝かしつけてくれる筈はないのだが。恐らく由香里は是が非でも実行するつもりらしかった。


もう、覚悟を決めるしかない。


「よし、行くぞゆっきー」


由香里との激しい夜が始まる。まゆっちは“父上ごめんなさい。私は汚れてしまいます”と心の中で嘆きながら目を瞑った。


「…………?」


由香里は、襲ってはこなかった。聖乳を吸おうともしない。それどころか、まゆっちの背中を指で押しながらマッサージを始めていた。


「あ、あの……これは?」


「うん?マッサージだが?」


見てわからないか、と首を傾げる由香里。まゆっちは目を見開きながら言葉を失っている。


「も、もしかして痛かったか?」


「そ、そんなことないです!気持ちいいですよ」


由香里の指圧がちょうど良く背中に食い込み、ゆっくりと揉みほぐしている。まゆっちは目をつむりながら身を任せていた。


「……ありがとう、ゆっきー」


「えっ?」


突然、由香里から感謝の言葉が告げられる。急にどうしたのだろうか……由香里はそのまま続けた。


「ゆっきーがいてくれたから、今の私がある。あの時庇ってくれなかったら……今頃私はアトスの捕虜で、何をされていたか分からない」


「由香里……」


ずっと言いたかった、自分を家族として受け入れ、救ってくれたまゆっちへの思い。しかし改めて感謝をされると、まゆっちも何を言っていいか分からず言葉に迷ってしまう。


それでも嬉しくて、由香里がすごく愛おしく感じていた。


しばらくマッサージを堪能するまゆっち。もう少しこのままでいようと思ったその時、


「よ!お前らまだ起きてるか!」


部屋の扉がいきなり開き、キャップが川神水の瓶を片手に入り込んできた。もちろんキャップだけではない。大和達やサーシャ達も一緒である。


「み、みなさんどうして……」


まゆっちが尋ねると、キャップ達はファミリーに入った由香里の歓迎会を開きたいらしかった。だから、皆で盛り上がろうぜと差し入れなどを大量に持参してきている。強引にでも行うようだ。


まゆっちと由香里は互いに笑い、立ち上がって早速歓迎会に参加して大いに盛り上がるのだった。





歓迎会の最中、まゆっちと由香里はベランダに出て外の光景を眺めていた。他のメンバーは飲み食いしながら騒いでいる。


「………」


「………」


しばらく夜景を眺める二人。お互い黙っていたが、先に口を開いたのは由香里だった。


「……その」


「はい?」


由香里に視線を向けるまゆっちに対し、照れ臭そうに視線を逸らす由香里。次第に顔が真っ赤になっていく。そして、


「……う、嬉しかった」


喉の奥から、ようやく絞り出した言葉。どうも歓迎されるのは慣れていないらしく、いつものような勢いは感じられない。これは意外な一面を見たと、まゆっちは少し得をした気分になった。


「それは何よりです。由香里が嬉しいなら、私も嬉しいです」


そう言って笑顔で返答するまゆっちの表情は、今の由香里にはとても直視できなかった。ますます照れ臭くなってしまう。


すると、


「おいおい、何だよ二人して。アタシも混ぜろよ!」


二人の肩を抱きながら割り込んできたのは華だった。二カッと笑いながら絡んでくる。片手には川神水の瓶。酔っているようだ。


川神水はノンアルコールだが、酒を飲んだように酔ってしまうという不思議な水である。


できあがっていたのは華だけではない。クリスは何やらよく分からない事を叫んでいた。突然脱ごうとしている所をまふゆとワン子が止めている。


「お」


外から歌が聞こえる。夜景の向こう側でイベントでも始まっているのだろうか。そして次の瞬間、


「わぁ……」


「おお……」


漆黒の夜空に、大きな爆発音と共に巨大な花火が打ち上げられた。まゆっちと由香里は目を輝かせながら、その光景に目を奪われている。今まで騒いでいた他のメンバーもベランダに駆けつけ、巨大な花火を前に歓声を上げていた。


「……由香里」


花火を見ている中で、まゆっちは由香里に視線を向けた。


「今日は、楽しい一日でした」


優しく微笑みながら、そう由香里に伝えるのだった。由香里もいたずらに笑みを返す。


「ああ、満足だ」


こうして、まゆっちと由香里の一日が終わる。これから改めてよろしくと目で合図を交わしながら。





一方、別の部屋では。


そこにはカーチャが足を組みながら、不機嫌まるだしの表情でイスに座っていた。背後にはアナスタシアもいる。


何故カーチャがここにいるのか。理由はアトスの任務で駆り出されていたからである。


「任務だからわざわざ沖縄まで来てみれば、どういうわけかとっくに事件は解決……おかげで私の出番なしじゃない。ああ気に食わない、ホント気に食わないわ」


カーチャの目の前には、アナスタシアの銅線によって吊るし上げられた心のあられもない姿。カーチャにお尻を突き出すような形で吊るされ、もう恥じらいもへったくれもない。


「うぅ……どうして、此方が……いだああああああああああああああああああああああぁい!?」


銅線の鞭による強烈な一撃が心のお尻にヒットする。


「喜びなさい心。今日はおまえを飼い慣らしてあげる。だからせいぜいいい声で泣きなさい………私の気が済むまでね」


「理不尽過ぎるのじゃーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」


修学旅行の裏側で、心の壮絶な夜が始まっていた。

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