小説『Fate/Zero これは戦争ですか? いいえ観光です』
作者:銃剣()

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第十話 掃除してると昔の物が出てきたりする


前回のあらすじ
善明達は爆発で大怪我をしたが、翌日になったら元通りになっていた
そんなある日、間桐家ではある事を行われようとしていた


大掃除
英語で言うと、ビック・クリーニングである。たぶん嘘である
正解は各自で和英辞典を引いておくように
さて、師走でもない日に何故大掃除なのか。それは現在間桐家が傍から見れば「あれ、お化け屋敷じゃね?」という状況になっている。住んでいるこっちの身では、このままではいけないと善明は判断し、全員で綺麗にしようと言い出す
そんな善明達は朝食を食べた後、いつものメンバー+雁夜と桜で話し合いをすることにした


「よーし、全員揃ってるかー?いいか、今から大掃除だ。ただの掃除じゃねぇぞ、大掃除だ。気合入れてかからねえと、お前ら・・・」


そこで一度言葉を切り、善明は目を細めた


「命落とすぞ」


「命って・・・」


反射的にツッコムのは、ハサンである


「それはオーバーでしょ」


「オーバーじゃねえ。いいか、よく聞けよ」


善明は古ぼけた本を開き、読み始める


「大掃除・・・・・各家庭で年に一回ないし二回行われる大規模な掃除の事であるが、その起源は古代中国で行われたと言われる集団戦闘訓練にさかのぼる。当時、勇名を馳せていた武術家、『王宋地(おおそうじ)』が、弟子の育成のため、現在で言うところの箒やハタキに似た形状の武器を・・・」


「いや、もういいよ!」


ハサンは善明の声を遮る


「民明書房ですか!てか、○塾しらない読者が置いてけぼりになってますよ!」


「いいじゃねぇか、いっぺんやってみたかったんだよ、こういうの」


顔をしかめ、義明は言う


「つーか、民明書房刊『家事手伝い――――血塗られたその歴史』より、まで言わせろよ」


「こえーよ!タイトルが!」


雁夜のツッコミを「ま、とにかくだ」という一言であっさりとかわし、義明は続ける


「大掃除っつーからには、総力戦だ。部屋の掃除当番にあたってねぇ奴も、当然仕事の分担がある。今からその割り当て発表すっから、よく聞いとくように。あぁ、ちなみに・・・」


義明は食後のいちご牛乳を飲み、続きを言う


「今から言う分担は俺の独断で決めさせてもらった。変更の希望は一切受け付けねーからな」


義明のこの言葉でハサンは、むむと唇を結ぶ。まぁ仮面付けてるから素顔分からないかもな。ちなみにハサンの素顔はまともです。例えるならメガネの童貞に似ています
善明の独断―――――嫌な予感を抱くなという方が無理な話だ
ハサンの心配をよそに、善明は「じゃ、まずは」と始める。その視線をとらえたのは、ギョロ目ストーカーのジル・ド・レイであった


「ロリコンのジル。お前の掃除場所はキッチンだ。コンロとか換気扇のまわりのガンコな油汚れをおとしとけ」


「善明!」


すかさずジルは席を立つ


「ロリコンではありません、フェミニストです。それから、どうして私がキッチンに回されるんですか?しかもガンコな油汚れを落としとけって、それはちょっとした嫌がらせじゃないですか」


「ちょっとした、じゃねえ。本気の嫌がらせだ」


「善明、ボケ担当の私でも怒りますよ」


「うるせーな」


善明は小指を耳をほじる


「手の空いている奴っていえばお前だけだろ。あと出番があるだけでマシだと思え。この通り頭下げるから行ってくれや」


と言いつつも、一ミリも頭を下げないのがいかにも善明だったが


「仕方ないですね」


と着席するジルも、まぁ、いかにもといえばいかにも


「うし、じゃ次だ」


善明はだるそうな声で続ける


「イスカンダル、ディルムッド。おめーらはトイレだ。いつも以上にピカピカにしとけ。便器なんか、もう顔が映るぐらいに」


「良かろう。余に任せろ」


「俺も全力を尽くす」


イスカンダルとディルムッドは頷く


「よし、じゃ次はリビングと食卓の掃除だが、これはランスロット、お前の仕事だ」


『分かりました』


ランスロットはプラカードで素直に返す


「んじゃ次だ。次は、季節的にちょいとハードかもしれねぇが、庭の手入れと草むしりっつーミッションがある。これにあたってもらうのは、ハサン、ギル、雁夜、おめーら三人だ」


「あの、善明さん・・・」


ハサンが遠慮がちに挙手すると


「却下だ」


「早い!てか、まだ何も言ってませんよ!」


「んだよ」


善明はアンニュイな視線をハサンに向ける


「おめーも、なんか文句あんのかよ。変更は受け付けねーつったろ?」


「それは分かってますけど、でも、一応は理由を聞かせて下さいよ。なんで私達三人が草むしりなのか」


「あ、俺も聞きたいな」


ハサンに続きたのが、雁夜である


「独断って言っても、なんかあるだろ、理由っぽいものが」


「善明、我も聞きたいぞ!」


雁夜に続いてギルガメッシュも言う


「何故我らが草むしりなのか!そして、何故この世から争いがなくならないのか!」


「いや二個目の質問、でかすぎでしょ。てか今聞くことじゃないしね」


そこへ、善明が重々しく語り出す


「いいか、ギル。人間というもの、この世に生まれ落ちた瞬間から生存のための―――――」



「いや、それ答えなくていいから!」


慌てて善明の止めるハサン


「今、聞きたいのは草むしりの方ですよ!」


「この世に生まれ落ちた瞬間から、生存のための草むしりを宿命づけられてるんだ」


「いやそっちだったのかよ!てか、どんな宿命?」


ハサンがそうツッコムが善明は続ける


「つーわけで、お前ら、真面目に掃除しろよ。これが終わったら、桜ちゃんと女アサシン達が作った昼飯が食えるからな。俺は一旦英霊の座に行って給料取りに行って来るから・・・・・じゃ、大掃除始める前に恒例のアレやっとくか」


恒例のアレ?と訝るハサンと雁夜の前で善明が言った


「エイエイ」


「「「「「「『オー掃除!』」」」」」」


とハサンと雁夜以外の全員が拳を突き上げる


「だせぇ!」とハサン


「てか、いつ決めたんだよ、その掛け声!しかも桜ちゃんまで!俺達だけハブ?」


雁夜はツッコミしつつ、ハブられて凹んでいた












「あのバカ、ちゃんと掃除してんだろーな」


ポケットに手を入れて呟きつつ、善明はまずキッチンに向かっていた。大掃除が始まると同時に善明は、間桐家を出て、エイダに頼んで英霊の座に行った。その時に神に色々言われて帰ってきた
キッチンに着き、中に入る善明
と、調理場のまわりに女アサシン達が集まっていた。そして、人だかりの中心にいるのはジル・ド・レイ
油で真っ黒に汚れた換気扇の羽根や焦げついた鍋を、いくつも台に並べ、ジル・ド・レイは女アサシン達に熱弁をふるっていた。人だかりの後方に立った善明には気づいてもいない


「はいっ、いいですか、皆さん。このガンコな油汚れを見て下さい。ここまで汚れたら、市販されている普通の洗剤じゃ落ちませんよ。ところが、こちら、この|螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)製の超強力洗剤、その名も『クラーケン・ジュニーア』を使えば・・・見て下さい、こうやって、ちょっとスポンジにつけて擦っただけで、ほら!ほーらほら!ね?みるみる汚れが落ちていくでしょ?」


女アサシン達から「わぁ〜」と歓声が上がる


「力を入れて擦る必要はないんですよ。スポンジで軽く、優しく撫でるだけでいいんです。この鍋だって、ほら!ほーらほら!見て下さい、これ、新品じゃないですか、まるで!」


「ジル」


と善明は呼んだ


「しかも、皆さん。今日はこれだけじゃないんです」


「だから、ジル」


「こちらのスチーム噴射式の洗浄機、その名も『シンカイスイマクン二号』、これに今の洗剤の入ったタンクをセットしてみると・・・ほら!ほーらほら!シンクの水垢がみるみる・・・あ、そこの黒髪のお客さん、見えてますか?」


「見えてるよ!つーか、別に見たくねーし!」


善明がブチ切れたことで、女アサシン達は潮が引くように調理場から離れていく


「あ、皆さん、買っていかないんですか、『クラーケン・ジュニーア』と『シンカイスイマクン2号』!」


慌てて女アサシン達を引きとめようするジル・ド・レイに、


「コラ、ジル」


静かな口調に戻して、善明は言った


「おめー、なに掃除サボって実演販売なんぞやってんだよ。てか、そもそもどこから仕入れたんだ、この怪しげな商品は」


「や、あの、私の親戚のおじさんが代理店やってまして・・・・」


「リアルな説明だな、オイ。というより親戚なんか居ないだろ」


つっこんだあと、善明は溜め息をつく


「つーかさ、もういいから、とりあえず掃除しろや掃除、な?」


「分かりました」


神妙に頷き、ジル・ド・レイは言った







「じゃ、掃除にかかる前に、このポータブルオーディオプレーヤー、『ビックカイマ』の紹介だけ」


「しつけーんだよ!」










「結局真面目にやってなかったよ」


善明は溜め息をつく
キッチンを出て、次にトイレに向かったがイスカンダルが力の入れ過ぎで便器が壊れ、ディルムッドがそれを直そうとするが幸運Eでさらに悪化
これ以上壊れさないようにイスカンダルの|王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)を使って、何人か修理にあてた


「さーて、あいつはやってるかな」


善明が次に来たのは食卓
ここで掃除してるのはランスロットである


「おーい、やってるか」


善明が声を掛けると部屋からモップを手にしたランスロットが出てきた


『あ、善明さん。今ちょうどワックスがけ終わったところです。』


「ごくろーだったな」


善明は言って、「どら」と扉口から部屋の中を覗きこむ
部屋のテーブルやイスは隅に寄せられて、掃除が出来るようになっていた。部屋の床一面がワックスのおかげでキラキラと光沢を放っている。掃除だけと言ったが、ここまで綺麗にするという気遣いに、ふむ、と納得しかけた善明だったが、いや待て、と次の瞬間その顔が曇る

床一面の光沢――――――キラキラっつーより、これ、黒いテラテラって感じじゃね?と思ったのだ

足を廊下に残したまま、善明は指先で部屋の床の一部に触れてみた。かすかなぬめり―――――――ワックスにはあるはずのないぬめりがある


「ランスロット、お前これ、なに塗ったの?てかこれ宝具化してね?黒いし」


『あぁ、気がつきましたか。そうです、宝具化しました』


「いや、そんな胸張って言われてもよ・・・」


『より綺麗にするには、やはり普通のワックスより宝具化のワックスがベターと思いましてね』


「ベターじゃねーよ、お前これ、ワーストだよ。なにこの|淫靡(いんび)な感じ。『食卓』っていう名前の、そういう店だと思われたらどーすんの?」


『善明さん、冗談が冴えますね』


「冗談じゃねーよ。つか、だんだん腹立ってきたわ。そもそもお前、こんなヌルヌルの床歩けねーじゃねーか」


『大丈夫ですよ。コツさえつかめば、ほら、私のように軽やかに』


そう言って、ピョーンと部屋に飛び込んだランスロット。だが、着地した瞬間にすっ転び、したたかに後頭部を強打する


「やっぱ無理じゃねーか!」


『だ、大丈夫ですよ、今、立ちますからね』


と言いながらも、再びランスロットはズリンと転び、床で顎を強打。なんとかまた立ち上がろうとしたが、ズリン!そしてガン!
ズリンとガンを連発し、ヌルヌルのワックスまみれになっていくランスロットの鎧が、なんだかもう粘液に包まれた謎の生命体のように見えてくる


「いや、もうホラーじゃん!」


善明は悲鳴とツッコミをミックスさせる


「ものっそい気持ち悪くなってんだけど!」


『よ、善明さん、今、そっちに戻りますから・・・・・』


全身ヌルヌルのランスロットがうめくように言う


「いや、もう来なくていいから!お前はそこに住め!」


『大丈夫、ですよ。ズリンとガンを繰り返し、人間は成長するものです・・・・・』


「出会いと分けれみてーに言うんじゃねーよ!てか、マジキモいから近寄るなって!」


善明は必死に言うが、ランスロットは止まる気配がなかった
怖さのあまり善明は


「令呪をもって命じる!近づくな!そしてワックスがけやり直せ!」


令呪を使った。しかも二つ
善明の左手が光だし、ランスロットは止まった


『分かりました。でも、こんな事に令呪使って大丈夫なんですか?』


「誰のせいだと思ってんだコラァ!」








「あぁー酷い目に遭ったよ」


「大変でしたね。そっちも」


あの後、色々あって大掃除は一通り終わった
善明はランスロットを部屋に行かせ、外に出たら、至る所に宝具が突き刺さり、庭が荒地になっていた。その荒地の真ん中にギルガメッシュが高笑いして、ハサンと雁夜は茂みの中に隠れていた
こうなった理由を聞くと、やり始めの草むしりは何事もなかったが、急にギルガメッシュが怒り


「こんなチマチマした作業で終わるか!」


と言いながら|王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を使用。打ち出される宝具の嵐を避けながらハサンと雁夜は茂みに非難。終わるまで固まっていたという
善明はiPadに入っているAN○○ISのサブウェポン【ゲイザー】を使って、ギルガメッシュを麻痺させた
そして、ハサンの|妄想幻像(ザバーニーヤ)をフルに使って、掃除を終わらせた


「たくよぉ、お前らマジいい加減にしてくんない?修理代だけで給料が蒸発するんだけど」


「いやーすまんすまん。余としては力が入れすぎたわ。がはははは!」


「俺って本当に運がないよな。ぐすん」


『でも、掃除が終わっていいじゃないですか』


「というより、お前は令呪を使わせた事を気にしろよ」


イスカンダルは笑い、ディルムッドは泣き、ランスロットはいつも通りだったが令呪を使わせたことに気にしてはいなかった。あとランスロットの格好は鎧ではなく黒いジャージで、顔はヘルメットのままだった。


「そんな事より、早く食事にしたいです」


「お前は実演販売してただけじゃねぇか」


「もう我は空腹だ。今日一日の汗も流したしな」


「おめーはただ庭を荒地に変えただけだろぉ」


ジル・ド・レイとギルガメッシュは飯にしたいといっているが、ほとんど掃除をしていない
少し雑談しながら待っていると


「皆さん、出来ましたよ」


「私とハサン達で作ったおにぎりだよ」


女アサシンと桜が大皿に何十個も乗っかったおにぎりを持ってきた
大掃除していた善明達は「おぉ!!」と歓声を上げる


「それじゃ食うか・・・せーの」


「「「「「「「「『いただきまーす!!』」」」」」」」」


善明達はおにぎりを手に取り、食べ始める


「うめーな、おにぎり」


「雁夜おじさん。私のおにぎりおいしい?」


「うん。おいしいよってすっぱ!」


「あ、梅干食べたんですか雁夜さん」


「がはははは!なんだその顔は?面白いぞ!」


「ほんとですねって辛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「おい、キャスターが火を吹いてるぞ」


「あぁ俺がイタズラで仕込んだタバスコ食ったんだろ」


『そういうのは、ほどほどにして下さいよ』


「全く騒がしい奴らって甘ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「おいおい、それ俺のチョコおにぎり食ってんじゃねぇよ」


「善明!貴様もっとまともな物を作れぇぇぇぇ!」


おにぎりを食べ、ギルガメッシュと善明は喧嘩をし、それを止めるハサン
喧嘩を見て笑っているイスカンダル、ディルムッド、ランスロット
未だに辛さで苦しんでるジル・ド・レイ
その光景を見て、苦笑いする雁夜と楽しく笑っている桜
こんな感じで昼は過ぎていった

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