小説『ソードアート・オンライン 第一章 〜アインクラッドと蒼騎真紅狼〜』
作者:大喰らいの牙()

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第十四話  ハイリスク


〜真紅狼side〜
俺はヒースクリフとの戦いのあるシーンが脳裏に張り付いていて、そればっかり考えていた。そして、同時に俺自身が無意識のうちにやらかしたことも………。
あの時、俺の一撃は完全にヒースクリフの顔面を捉えていたが、その時“ズレ”を感じた。
口では表現しにくいが――あるべきではないモノが突然そこに現れた――と言えばいいのか、あの距離でヒースクリフが盾を防御に回しても間に合わないハズなのにそれが間にあったのだ。盾はなめらかに動くのではなく、盾と言うポリゴン体が一瞬で出現した。
その出来事に驚いた俺は一瞬だけ気が抜けてしまい、ヒースクリフの剣が俺を捉えた瞬間に気が付いたが回避には間に合わない距離だった。
その時、無意識の内に投影を行い、剣を出現させて防ぎ破棄した。その瞬間をヒースクリフに見られてしまったのだ。


くそ、今思い返すだけでも本当にやらかした。
これで、俺の正体をヒースクリフは疑って来るだろうな。
………だが、こっちも必殺の“牙”は手に入った。
ヒースクリフは何か怪しい。まぁ、俺が言えた事じゃないんだがな。
互いの牙が互いの喉骨を噛み砕く一歩手前っていう状況下か……………先に動けばやられるな。これに関しては、時間を掛けて行くしかないか。


考えが纏まり、ふと顔を上げると時刻は午前11時10分前。
アスナから「11時にギルドに来て」と言われた事を思い出して、俺はいつもの装備に着替えて<グランザム>に跳んだ。
〜真紅狼side out〜


〜アスナside〜
メッセをガロンに飛ばし、ギルドの入り口近くで待ってるとガロンがゆっくりとやってきた。


「ガロン、時間どおりね」
「おう」


何時もみたいな軽そうで掴みどころのない表情は全くせず、何か緊張感を感じさせられる表情であった。


「どうかしたの?」
「んあ? あ、ああ、ちょっとな」


そう言って口を濁した。
ガロンは「行こうぜ」と促して、私達は前にも訪れた団長室へと向かった。


「………失礼します」
「ああ、来てくれたか」
「それで結果はどうなったのでしょうか?」
「………うむ、そのことなのだがね。勝負はこの通り引き分けとしてしまったわけだ。私が勝てば、彼をこのギルドに入団、負ければアスナ君を持っていくと決めていたし、その事に異を唱えるつもりは無かった。だが、引き分けという事態を考えていなくてね……………」
「はぁ………」
「そこでだ。妥協……………と言った方がいいかな、提案がある」
「提案………ですか………?」
「今日一日だけ、我が血盟騎士団に仮入団と言う形で、他のプレイヤーとクエストを共にしたりなどはどうだろうか? もちろん、これはあくまでも仮だ。だから、ガロン君自身を気に入れば、そのまま本入団してもいいし、気にいらなければ入団しなくても構わない」


今まで静聴していたガロンが声を上げる。


「それじゃあ、アンタ達にしかメリットしかなく、こちらにはデメリットしかないぞ?」
「もちろん、君にもメリットは用意してある。もし君がこの提案に乗ってくれるなら、アスナ君に護衛は付けないし、君達だけで出会う時も邪魔もしない。どうだろうか?」
「……………提案には乗ってやる。だが、制服には着替えねぇぞ。俺は白が嫌いなんだ」
「それぐらいなら、構わない。では、入って来てくれたまえ」


団長は、突然誰かをこの部屋に入るように命じてきた。
私達は戸の方に振り向くと、三人の男が入ってきた。
一人はこの血盟騎士団の小隊長を務めているゴドフリー、大剣使いだ。
もう一人は彼の部下だった男………確か剣使い。
そして、最後の一人に私は驚いた。
長髪で三白眼で蛇の様な雰囲気を放つ男で、自宅謹慎を命じられていた――――クラディールだった。


「団長! これはどういうことですか!?」
「これから、彼らと共に五十五階の迷宮区を攻略してもらいたい。互いの実力が分からなければ、パーティーも組めないし強さも分からないであろう?」
「ですが! ガロンは団長と引き分けに持ち込めるほどの実力ですよ!!」
「それは、“人”相手でだろう。“モンスター”相手にどこまでやれるか彼等の目に見せておく必要がある。それとこれは彼自身の為だ」
「…………どういうことです?」
「彼自身………つまり、ソロでの実力を発揮してもらえなければ、仮にこのギルドに入団しても叩かれるのが目に見えているのでね。なら、証人を作っておいた方がいいだろう」


そう言われると何も言えなくなるし、何より私には団長の意見を覆せる程の力はない。
そして話の流れから今回、同行は出来ないだろう。


「別に構わねぇさ」
「ガロン?」
「要は実力が見たいんだろ? アンタ達はよ? なら、見せてやるよ。ボスを一人で屠れるほどの破壊力を目に焼き付けさせてやる」
「それは、実に頼もしいな」


ガロンの言葉にすぐに反応したゴドフリー。
その後、ガロン達は迷宮区に向かって行った。
だけど、私は胸の奥でざわめきが落ち着かなかった為、ガロンに内緒であることをしておいた。
ガロン、無事に帰ってきて…………。
〜アスナside out〜


〜真紅狼side〜
俺達は五十五階の迷宮区に辿り着き、フィールドに入る前にゴドフリーが手を差し伸べてきた。


「なんだ?」
「回復結晶を渡してもらいたい。もちろん、全員分預からせてもらう。パーティー行動だ。互いにカバーしきれないなどもってのほかだからな」


俺は、ストレージから回復結晶を渡し、他のプレイヤーも手渡した。クラディールもちゃんと手渡した。


「では、行こうか!」


俺は武器を【双鬼・禍】を手にした。
現在、この武器が斬ったモンスターは10体、その為、五十五階の中堅モンスターですらたった一撃で瀕死まで追い込むことのできる威力と化していた。
それを俺は出現してくるモンスター相手に斬り裂く。
一瞬でバーが赤くなる。その光景に後ろの三人は目を見張っていた。
これがソロでなら、そのまま斬り倒しているがパーティー行動の為、ヒットアンドアウェイで後ろに下がり、待機している三人に任せた。
その様な行動が40分程続いた後、しばしの休憩を取った。


「よし、ここで少し休憩だ」


ゴドフリーから水の入ったボトルを渡された俺達は、水を仰ぐ。
ただただ一人、クラディールだけは手渡された水を仰ぐことは無くこちらをじっと見ていた。
俺はその視線を奇妙に思いながら、俺も飲む。
すると…………突然、体が弛緩し始めた。


「ぐっ………!?」


ゴドフリー達も俺と同じような現象になり、クラディール一人だけが正常だった。
この野郎…………!!!!


「ヒャーーーハッハッハッハッハッハ!!! この時を待ってたぜェェェ!!」
「ク、クラディール、貴様! どういうつもりだ!!」
「ゴドフリーさんよォ、アンタ、ほっんと脳筋だなァ!!」
「ゴドフリー!! さっさと解毒結晶を寄越せ!!」


俺は怒鳴った。
ゴドフリーが目の前に落ちているポーチに手を掛けようとしたが、それよりも早くクラディールが掴み取り自分のストレージ欄に収めた。
くそが、この装備自体に異常状態無効出来るが、それはあくまで“外からの攻撃”だ。内側からは、効き目がほとんどない。
一応僅かながらだが、あると言えばあるがそれでも復帰できる時間がほんの少し短くなる程度だ。
この状態だと役に立たない。
なにせ、既にクラディールは得物を持って自分の仲間だったプレイヤーを一人殺していた。
そして今度はゴドフリーに襲い掛かる。
ゴドフリーの足に剣が突き刺さり、じわじわとバーが減っていく瞬間をクラディールは狂笑していた。
そして、二度目のポリゴン音が弾けていき、こちらを振り向いた。


「つい興奮しちまって、二人も殺しちまったよォ。そろそろメインディッシュを頂くとするかァ!!」


クラディールは剣を逆さに持って、俺の足に剣を突き刺す。


「がぁ…………!!」


足に激痛が奔る。
まるで、リアルで貫かれているような感覚が体を支配する。
クラディールは俺の苦悶に満ちた声や表情がたまらないらしく、それを見ようと抉り始めてくる。


「ほらほらぁ〜〜、痛てぇだろ! 苦痛に満ちた声を上げてくれよォ!!」
「この麻痺毒のスキルを片手間で覚えられるわけでも…………ないな。どっかで【笑う棺桶】の生き残り…………と接触………でもしたか…………ぐぉ!!」
「こんな状況下でも冴えてるとはねェ、全くもって素晴らしい限りだ………ぜ!!!」


さらに深く刺し込んでくる剣と同時に新たな激痛が全身を襲う。
俺の眺めている表示に残り数十秒で麻痺毒解除という表示が出ていたので、俺はその時間を稼ぐために声を出す。


「三流野郎が」
「………ヒャァ? なんだと?」
「三流野郎って言ったんだよ。得物を前に嬲ることを真っ先に考えるなんざ、てめぇの器の底が知れるってモンだ。悪党になりたければ、標的を見つけ次第すぐさま殺す。という気持ちがなければてめぇは一生三流のままだぜ。こんな人のいない場所なのにてめぇは自分の立場をぺらぺらとしゃべる。反吐が出る行為だ」
「そんなに死にてぇなら、今すぐ殺してんやんよォ!!」


大きく振り被るクラディール。
残り二秒なのだが、そこまで間に合わない。
今発動するわけにはいかないんだが…………諦めるか。


「死ねェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」


俺が諦めたその時だった、目の前で火花が飛び散った。


ガキィン…………!!


クラディールの剣を受け止めるかのように細剣が防いでいた。
よく見るとその細剣には見覚えがあった。


「…………間に合った。間に合ったよ」
「アスナ」
「あ、アスナ様、こ、これはそのですね………ぐぎゃ!!」


クラディールも突然の乱入者に驚く。
言い訳をしようとしたときにはすでにアスナによる攻撃で吹き飛ばされていた。
アスナは素早く俺に駆け寄り、ストレージ欄から結晶を取り出して「ヒール!」と高く叫ぶ。
すると、俺のHPバーは赤からすぐに緑になる。そして麻痺毒も解除され、痺れた体を起き上がろうとするが、それをアスナに止められる。


「ちょっと待ってて、ガロン」
「あ、アスナ様、これはですね………そう、ちょっとした演習ですよ!!」


ギャン!!


クラディールが「演習ですよ」と言った瞬間、アスナは細剣を振りクラディールに攻撃していた。その攻撃に容赦は無く、捌ききれないクラディールは途中から「や、やめて……!!」と声を震え上げていた。
そして、剣が弾かれて手に何もない状態になると、アスナの目の前で突然土下座した。


「わ、悪かった! 二度と、もう二度とアンタ達の前には出てこないから頼む許してくれ!!」


その姿にアスナの動きは止まった。
俺はその時クラディールが土下座しながら、左手を動かしていた事に気が付き怒鳴った。


「止まるな、アスナ!!」
「ヒャッハーーー!」
「あっ!」


一瞬の隙を見てクラディールはアスナの細剣を弾き飛ばし、ストレージから引っ張ってきたナイフをアスナ目掛けて振り下ろそうとした時には体を無理矢理動かし、アスナを弾き飛ばす。
咄嗟に左腕でガードするが、手首を斬り落とされ許容することが出来ないほどの痛みが体を襲う。
苦痛の声を上げたくなるのを抑えて、俺は【七ツ夜】を右手に持ち片手で必殺の構えになった。


「―――――――――――――――極死」


投げた七ツ夜はクラディールの胸に深々と刺さる。
そして俺は、奴の頭を右手で掴みありったけの力で首を―――――


「――――――――――――――――七夜!!」


――――捻じ切った。


死に際の声を上げる事も無く、クラディールはポリゴン音を弾け飛ばしながらこの世界から消え去った。
そして短刀を離すと同時に手首の斬られた感覚が戻ってくる。
マジで痛てぇ、この激痛はバーチャルにしてはリアル過ぎるぞ!?
俺は、ジイサンを頭の中で呼び付ける。


『もしもーし! ジイサン、この激痛の威力おかしくねぇ!?』
『なんじゃ、物語の途中で呼びよせよって………ああ、その痛みに付いてはお主に対しての代償じゃ』
『え、それ、どういうことなの?』
『お主に伝え損ねていたんじゃが、お主がそちらで体を貫かれたり、腕をぶったぎられたら現実世界と同様の痛みがお主を襲う様に設定しておるから』
『ほうほう……………って、なにィ!?』
『お主な、あんなチートスキルを手に入れておいて、リスクがないと思ったのか? ハイリスクハイリターンじゃよ』
『つまり、俺は以後これからもバーチャルでは、現実と全く変わらない激痛を伴いながら生きて行けと?』
『そうじゃ。現実で傷が反映されないだけでも有難く思うんじゃな。本来ならそういう設定にしようと思ったのじゃが、それだとさすがに危ないからこちらに切り替えたのじゃ』


どっちも最悪だよ、コノヤロー。
ジイサンは「ではな」と言って、頭の中から消え去った。
………これから戦闘に対して、気を付けねぇと確実に廃人になりかねないぞ、これは。
目を開けると、アスナが俺の姿を見て震えた声で喋っている。


「も………もう、私…………ガロン…………と会わない方が…………」


俺はなんとか激痛に耐えながらも片手でアスナを抱き寄せた。
アスナの元に警告のメッセージが表示されるが、俺は構わずそのまま抱き寄せて泣き子をあやす。


「まぁ、なんだ…………泣くな、アスナ。これは俺の対処の仕方が悪かった。お前のせいじゃない」
「で、でも…………」
「お前に怪我なくてよかったよ」


その一言で、アスナはただ俺の腕の中で泣き続けた。
〜真紅狼side out〜


やれやれ、こいつは参ったね。




―――あとがき―――
ようやく投稿出来た。
一週間ほど、大学の課題を片付けていたら一週間も掛かってしまった。
その内の三日間はフル徹夜です。
反動が凄まじかったですけどね(笑)


身の上話はここまでにして、作品の話をしましょう。
原作では、キリトは負けて血盟騎士団に入団ですが、ガロンの場合は引き分けなので仮入団です。
そして一気にクラディールまで持っていきました。


あ、あと作中で出てきたリスクは前々から決めていた事で、チート過ぎるスキルの代償です。
ガロンにとってバーチャルだろうがリアルであろうが、傷を負えばリアル同様の激痛を負います。


次回からは二人っきりの蜜月だーーー!!



ここで一言。どうでもいいので飛ばしてもいいですよ。
アニメ版のリーファ、凄い好み!
金髪巨乳! 作者の好みを押さえ過ぎて死にそうです。
というかアルヴヘイム編が早く書きたいですけど、今はこっちに集中しなければ!

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